「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第4章 王宮生活<大祭準備編>

57、教会からの依頼<後>

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「こういったこととは?
 今後のためにも、ぜひ聞いておきたいです。
 もちろんお話できる範囲はんいで構いません」

 こんな裏話、聞けることなどほぼないので、僕はロイへ、是非ぜひにとお願いした。

 ロイは迷っているようで、少しの間、だまったままだったが、やがて決心したのか、口を開いてくれる。

「簡単に言うのなら、大祭たいさいなどの大きな行事は、国の公式行事という性質上、いやおうでも衆目しゅうもくを集めるため、それを利用して、け引きの場として使われるということです」

け引きの場……ですか?」

 大勢おおぜいの人々が関わるので、予期よきせぬ出来事はなるべくけたいはずの公式行事で、そんなことが?

 僕は耳をうたがって、思わず聞き返してしまった。

「はい、そう表現するのが、適切てきせつかどうかは分かりませんが……そうですね……先代の王の時代で説明しましょうか。

 先代の王は、いろこのまれ、たくさんの公妾こうしょうの方々がおられました。

 人数が多い分、まぁ、王からの寵愛ちょうあい分散ぶんさんされる訳でして……それで、1人でもライバルを減らそうと、おおやけの行事の場で、何らかの妨害ぼうがい工作を行って、誰かをおとしめたり、逆に、誰かの失敗を手助けして、名声めいせいを上げたりすることに、公妾こうしょうの皆様は必死でした。

 レンヤード様のご相談は、この例で当てはめてみると……前者になりますかね」

 まとを得たロイの発言に、僕は気まずくなって、一旦いったん、目をせたが、続く言葉にもう一度、視線を上げる。

「これが王族側主催しゅさいで行われる行事でしたら、私たち教会の人間は、何もしません。
 冷たいようですが、王族側の問題ですから。

 そういうたくらみの結果、公妾こうしょうの方々の勢力図せいりょくずがどう変わろうが、その出来事によって、その時代の王がどう評価ひょうかされるかに、私たちは関係ありませんので。

 ただ、今回の大祭たいさいのように、私たち教会側が主催しゅさいである場合は、別です。

 何か不手際ふてぎわがあれば、私たち教会側のせきとなります……例えその原因が、教会側ではなく、王族間内かんない不和ふわであったとしても。
 それは、我々にとって、許しがたいことなのです。

 ですが、かと言って、教会側に原因があるわけではなかった、と声高こわだかに主張するのも、王族の方々を非難ひなんしているようで問題になります。

 教会にとっては神、王族にとっては王と、つかえる対象が違うとはいえ、同じ王国に所属しょぞくしている以上、いがみ合い続ける関係は、適切てきせつとは言えません。

 なので、なるべくそういったけ引きの場にならないよう、事前じぜんにあらゆる手を打って、準備をしているのです。

 そのような理由で、先ほど、レンヤード様にご安心ください、と申し上げました。
 特に今回は、こうして先に知ることができたので、とても助かりました」

 そう言ってロイさんは、僕に対して頭を下げた。

「それこそ、頭をあげてください、ロイ。
 元々もともと、僕が上手く対処たいしょ出来ていないことが、原因なのですから」

 自分の不甲斐ふがいなさに、僕の声は、自然と小さくなる。

 そんな僕にロイは、あたたかな眼差まなざしを向けて、こう言ってくれた。

「レンヤード様こそ、そこまで、気になさらないでください。
 きっと何かしらの事情がお有りでしょうから」

「でも!」

 全て乗っかってしまうのは、何だか気が引けて、あわてて僕は、言葉をつなげようとした。

「そんなに言われるのならば……そうだ……セリム様から、提案されたことを思い出しました。

 それをレンヤード様に行っていただけるのなら、今回の件を我々が手助けする交換こうかん条件となると思うのですが、いかがでしょう?」

 ロイからの魅力的みりょくてきな提案に、僕は迷わず、引き受けることにした。

「はい、僕に出来ることなら!
 具体的ぐたいてきにどんなことでしょう?」

 ロイは、おだやかな笑みを浮かべて言った。

「現在、大祭たいさいで用いられる供物くもつを、朝晩2回、我々は祈祷きとうしています。
 その祈祷きとうにレンヤード様も参加されませんか?

 神の愛し子であるレンヤード様が参加されると、儀式終了後に、諸侯しょこうたちに分け与える供物くもつにも一段と神力しんりょくがつくと思いますし、我々、神官にとっても、愛し子のレンヤード様と祈祷きとうする機会は、とても光栄なことであり、今後のはげみになりますので」

 そんな力があると自分では実感がないが、そこまで言われるからこそ、この力が皆んなの役に立てるよう、自分も努力したいと僕は思った。

 だから、返事に迷いはなかった。

是非ぜひ、参加させてください。
 よろしくお願いします」

 この場合は頭を下げてもいいよなぁと判断して、僕もロイに向かって一礼した。
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