「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第4章 王宮生活<大祭準備編>

55、苦闘の供物管理<後>

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 やはり王族として顔が知られているクローネと一緒だったからか、僕が危惧きぐしていた、教会本部の受付で止められるようなことはなく、僕たちは、あっさりと中へ入ることが出来た。

 そしてその日は、やはり僕にとって幸運日だったようだ。

 僕たちがいた受付近くを、偶然ぐうぜん通りかかったロイさんが、いち早く僕たちに気づいてくれたおかげで、僕たちはロイさんを呼び出してもらうこともなく、すぐに本人と会えたのであった。

 さらにロイさんから、僕の相談にのってもらえる了承りょうしょうを たところで、この後、用事があるクローネは、自宮じきゅうへ帰ることになった。

「クローネ、たくさん力になってくれて、本当にありがとう」

 僕は感謝を込めて、クローネにひざをついて礼を取った。

「そこまで礼を言われること、私はしておりませんので、お気になさらず。

 それと、レンヤード様のほうが、私よりくらいが上なので、私に対して礼を取る必要はございません。
 早くお立ちください」

 あわててクローネは、僕にってきて、僕が立つのを手伝ってくれる。

 同時にクローネは、僕の腕を支えながら、こうも忠告してくれた。

「長い間、シルヴィス様は妃を迎えることはなかったので、妃の立場において、ローサ様は今まで王妃様にいで、ナンバー2の立場にいらっしゃいました。

 高位こうい貴族出身のローサ様は、所謂いわゆる気位きぐらいが高く、常に称賛しょうさんされることをこのみます。

 レンヤード様が直接、ローサ様に何かをした訳ではございません。

 ですが、茶会でローサ様は、これから自身より上の立場に立つレンヤード様を、こころよく思っていないように、見受けられました。

 あくまでもうわさですが、ローサ様の不興ふきょうを買った侍女じじょは、ひどあつかいを受ける、と耳にしたことがあります。

 レンヤード様、今後もローサ様には、十分、お気をつけくださいませ」

 思ってもみなかったクローネの真摯しんしな忠告に、僕は驚いてクローネを見つめた。

 目覚めて以来、セリム様たち以外のあたたかな対応に、再び僕の心は熱くなる。

 クローネに何かお礼がしたい!

 そう思った僕は、唐突とうとつにクローネに話しかけた。

「クローネ、手をりてもいい?」

「はっ……はい、どうぞ」

 クローネの手は、まだ僕の腕を支えたままだったので、その手をそのまま、僕のひたいに当てる。

 クローネは、僕の突然の言動に、あまりにも驚いたようで、そのままかたまったように動かなくなってしまった。

 その時、クローネが見せた、無防備むぼうびな表情が、僕にはとても可愛く思えて、思わず僕はクスリと小さく笑ってしまう。

 それから僕は、静かに息をき、呼吸をととのえた。

 うん、どうやら、やれそうだ

「クローネに祝福しゅくふくを」

 僕がそう言葉をつむぐと、僕とクローネが大きなあたたかい光に包まれるような、不思議な感覚におちいる。

 気がつくと、あたりのざわめきは消え、シーンとした静寂せいじゃくだけが残り……僕とクローネは、まわりを大勢おおぜいの神官様たちに取りかこまれていた。

「レン……レンヤード様……こっ、これは……」

 僕のすぐ横にいたロイさんが、呆然ぼうぜんとした様子でつぶやく。

 しまった!
 ここ、まだ、教会本部の廊下ろうかだった!

「ごっ……ごめん、クローネ、こんな廊下ろうかで。
 クローネの心遣こころづかいが嬉しくて、何か僕もお返ししたくなって……つい……」

 僕は急いで、 意図いとしない注目をびさせてしまったことを、クローネに謝る。

 そんな僕にクローネは、驚きの表情から一転いってんして、すごく幸せそうな空気をまとうと、逆に僕に対して正式な礼をした。

「私に祝福しゅくふくを与えてくださり、大変感謝いたします、レンヤード様」

「クローネこそ、そんなことしなくていいよ」

 急いで僕も、クローネの礼をこうとしたところ、なぜか、僕以上にあわてたロイさんから、近くの部屋へ入るよう誘導ゆうどうされてしまう。

「レンヤード様、ここは目立ちますから、こちらへ。
 何を見ておる!皆も解散せよ!」

 ロイさんから背中を押されて、強制移動させられている僕を、クローネは礼をかずに、ずっと見送ってくれた。
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