「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第4章 王宮生活<大祭準備編>

54、苦闘の供物管理<中>

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 一難いちなんってまた一難いちなん

 そんな古いことわざが、痛いほど僕の身にみ渡る。

 ふと、以前、レイラ様から受けた忠告ちゅうこく脳裏のうりによみがえった。

 ここは王宮……自分1人で行うのは限界げんかいがある。

 そんな時、自分の手足となる侍女じじょが助けとなると言われたが、今の僕に侍女じじょはいない。

 この教えの本質部分は、何か?

 どんよりとした気分に呼応こおうするかのように、ひどく重く感じる足を引きずるように僕はあゆんでいたが、一旦いったん、足を止める。

 シルヴィス宮に戻る途中とちゅうにある、手入れが行き届いた見事な中庭の緑を、回廊かいろうがわから見上げながら、僕は考えた。

 この巨大で策略さくりゃくうごめく大河を泳ぎきる方法……まずは味方みかたを増やすことだ。

 専属せんぞく侍女じじょがいないのは、もはや仕方がない……わずかな自身の人脈じんみゃくかして道を探そう

 同時に答えもさずけてくださったレイラ様に、またしても僕は深く感謝する。

 僕は加護かご持ちであり、神の愛し子とも呼ばれていて、教会はちかしい存在であるらしい。

 教会と言えば、セリム様が浮かび……セリム様と言えば、クローネの兄君。

 そうだ!

 クローネにお願いしてセリム様に会わせてもらい、この件を相談しよう!

 早速さっそくクローネの宮を教えてもらうために、回廊かいろうを歩いている侍女じじょを呼び止めるべく、これまでの重い足取りから一転いってん、僕はかろやかに走り出した。

 くない事の次はい事が来るようで……ローサもうでの反省から、先触さきぶれをクローネ宛てに届けた時に、偶然ぐうぜん、本人が在室ざいしつしており、僕はすぐにクローネ本人と会うことができた。

 まぁ、クローネからは、訪問ほうもん先触さきぶれを僕自身が届けたことに、何よりも驚かれはしたが……。

 これ以上、不要なトラブルを起こさないようにするため、ローサによる僕への個人的攻撃には極力きょくりょく触れずに、まずは現在の状況をクローネへ説明する。

 事実として、ローサから引きいだ資料を見たところ、とてもじゃないけど供物くもつの必要数が足りない。

 僕の唯一ゆいいつの知り合いである、教会がわであるセリム様にこの件を相談したいので、その取次とりつぎをお願いしたいことを、僕はクローネへ懇願こんがんした。

 僕の話を時折ときおうなずきながら、真剣に聞いてくれたクローネは、こころよく僕の頼み事を引き受けてくれたが、1つだけ大きな問題点が発覚はっかくした。

儀式ぎしきり行い、最後に供物くもつ諸侯しょこうへ与えるのは教会ですので、教会がわに話を通すことは、何よりも重要なことです。
 ですが、我が兄セリムは、今、われて地方へ視察しさつに行っており、不在のはずですの」

「えっ!じゃあ、どうしよう!!」

 せっかくの希望の案がなくなってしまい、クローネの前だというのに、今度こそ、僕は大きく取り乱してしまった。

「落ち着いてください。
 ぬしが不在な時こその代理をつとめる、兄の副官である、ロイはいるはずです。
 ロイに話を通しましょう」

「そうか、ロイさんが!
 ぜひお願いするよ」

 僕はいきおいよく、クローネに頭を下げた。

「レンヤード様はロイとも、すで面識めんしきがおありなのですか?」

 クローネは目をまたたかせながら、そうであるならば、直接、教会本部へ行くべきだと進言しんげんされる。

「ロイさんとは何度か顔を合わせているけど、挨拶あいさつ程度ていどに言葉をわしただけで……しかも会った場所は教会本部ではない所なんだよ。
 僕自身、教会本部へ足をみ入れたことは、まだ一度もないんだ。

 知っての通り、僕は今回の大祭たいさいが王族としての初めての活動であり、僕がシルヴィス妃と知る者は、教会本部でもほとんどいないと思う。
 そんな中、突然、教会本部へ行って、知らない人物のいう事など聞けぬなどと言われ、門前もんぜんばらいされるのが1番怖いんだ。

 ただでさえ、大祭たいさい間近まじかなのに、そのせいで余計よけいな時間が、かかってしまうからね」

「確かに……その可能性は高いですわね。
 この後、私は出かける予定があるので、今からですと、本当に教会本部への道のりを案内することと、ロイへ引き合わせるだけになってしまいますが、それでもかまいませんか?

 教会側とのめ事を起こさないためにも、王族がわとして冷静に経緯けいいを話すべきで、その席に自分が同席出来ず、大変心苦しいのですが……」

 心配そうに僕を見つめながらも、そう提案してくれたクローネに、僕は深く感動した。

 大祭たいさい間近まじかせまっているこの時期に、数量違いという初歩的なミスが発覚し、しかもそのミスの原因が、ローサと僕での間の、いわば、王族内の不和ふわから発生している、とクローネは気がついている。

 クローネの申し出の裏には、もし用事さえなければ、僕の不利ふりにならないよう、口添くちぞえ出来るのに……とも言っているからだ。

「大丈夫だよ、教会本部でロイさんに僕を紹介さえしてくれたら、後は上手くやるよ。
 心配してくれて、本当にありがとう」

 僕もハッキリ言って、上手くいく自信はないが、肝心かんじんなのは、僕がそれなりに力のある者から紹介され、まずは国教会がわ門前もんぜんばらいされず、相談する問題に真摯しんしに目を向けてもらい、その上で協力してもらうことだ。

 それができれば……この問題は、ほぼ解決できたのも同然なのだから。

 クローネはそんな僕のから元気までをも見通していて、では、教会本部へまいりましょうか?と優しく微笑ほほえんでくれた。
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