「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第4章 王宮生活<大祭準備編>

51、妃教育の洗礼<中>

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 その後は、ローサが当日の神祭しんさいの流れなどを簡単に説明してくれた。

 今のところ、僕の身体からだ不調ふちょうは見られないため、お茶の件は自室じしつに戻ってからゆっくり考えることとし、まずはローサの話に集中する。

 そうしないと、僕にとって初めてのことばかりなので、せっかくの説明が頭の中に入ってこないからだ。

 だが、やっぱり先ほどの動揺どうようがなかなかおさえきれず、僕が説明を理解出来ていないことをローサに見抜みぬかれてしまう。

 王妃様より指示された供物くもつの管理方法については、後日、資料を届けさせるので、それで確認するようにと、逆にローサに気をつかわせてしまった。

 他に質問はないかとローサからわれたが、僕は全てが初めて聞くことばかりで、何を質問すればいいのかさえ、全く思いつかない。

 僕は居心地いごこちの悪さを感じ、何気なにげなくグルリと室内を見渡す。

 すると、ローサの後方こうほう、少し離れた所に、なんだか見覚えのある茶色の髪色が目についた。

 ん?
 あれは……そうだ、サラだ!

 元よりサラはローサにつかえているので、ローサきでこの場にいても驚くことはないが、サラを見ると、過去のあれこれを思い出し……結果として、良い質問を思いついた。

「当日はどういう服装をすればいいのかな?
 何か決まり事があるなら、教えてほしい」

 僕がこの質問をしたら、視界のはしで茶色の頭がれ動いた気がしたが、見ないふりをした。

 すんなりと教えてもらえると思っていたのだが、僕の予想にはんして、なぜかローサは口ごもる。

「王族はこん色を身につけることが慣例かんれいとなっておりますが、レンヤード様は加護かごをお持ちでいらっしゃるので……今回は神祭しんさいですし……そうですね……むしろ神官様たちが身につける白色のほうがいいのかしら?」

 悩み始めたローサは、自分の侍女じじょおうぎを持ってくるよう、命令した。

 しずしずと奥からおうぎを運んで来たのは、なんだかほこらしげな顔をしたサラで……僕はサラを注視ちゅうししていたせいか、運んでこられたおうぎも、自然と僕の目に入ってくる。

 サラからローサの手に渡ったおうぎは、可憐かれんな花々と、優美ゆうび複雑ふくざつ曲線きょくせん模様もよう装飾そうしょくえがかれており、黒い骨組みには、金細工きんざいくほどこされていた。

 深く考え込んでいるせいか、少し熱をびたほおを落ち着かせるように、ローサはおうぎであおぐ。

 無色むしょく透明とうめいの美しい光沢こうたくを持つ宝石が、左右外側そとがわの太い親骨おやぼねに、所々ところどころまれており……背景としての親骨おやぼねの色が黒いせいか、ひらりひらりとローサがおうぎをあおぐたびに、まれている宝石が、夜空に輝く星のようにきらめいた。
 
 なんて豪華なおうぎなんだ!
 そしてこのおうぎだけで、領民の食事が何日分もまかなえるだろうに!

 僕がローサのおうぎに目をうばわれ、ついつい領主だった頃の感覚でその価値を考えながら答えを待っていると、ローサは自分の中で結論が出せなかったようで、今度は同席しているクローネに意見を求めた。

「私じゃ判断はつかないわ。
 ちなみにクローネなら、どう答えるかしら?」

「そうですね……わたしにも難しいです。
 神官様の白色でもいい気がしますが……なんとも。
 レイラ様など、他の方にもお聞きするのが、良いのかもしれません」

 2人とも王族なので、僕が加護かご持ちであることを把握はあくしており、それゆえに悩んでいるようだった。

「ありがとう、他の方にも相談してみるよ」

 相談出来る人は、レイラ様以外思いあたらなかったが、僕の問題なのに、2人が真剣しんけんに考えてくれたことに対し、僕は深く感謝した。

 気がつくと、かなりの時間が経過けいかしており、これでお茶会は無事終了となった。

 2人はそれぞれ、おきの侍女じじょかこまれて、今後についての相談を始めたようだったので、侍女じじょがいない僕は、邪魔じゃまにならないよう、静かに退室たいしつしようと、扉へ向かった。
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