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第4章 王宮生活<大祭準備編>
50、妃教育の洗礼<前>
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そして王妃様はもう一度、集った一同を見渡しながら、言葉を続けた。
「申し訳ないが、今回はここで解散する。
もう少し細かいことを詰めたかったが、王のお呼びだ、仕方がない。
後のことは、個人的に呼び出して決めることとする。
今日は皆、集まってくれてありがとう。
あっ、妃たちは、良かったら、淹れたお茶を飲んでいってほしい。
今日のためにわざわざ取り寄せたものだから。
悪いけどローサ、後はよろしく」
「お任せ下さい、王妃様」
ローサがそう答えると、レイラ様と王妃様はお立ちになられた。
扉までの見送りは不要と言われたので、僕たち妃はその場で立ち上がり、深く礼をして、レイラ様と王妃様の退室を見送る。
侍女たちも、控えている場所から一歩出て姿を見せ、皆、同じ角度で深くお辞儀をした。
「「「「「いってらっしゃいませ」」」」」
僕たちの声だけでなく、一糸乱れぬ侍女たちの声まで重なると、かなりの迫力だ。
お2人の退室が完了した合図として、入口扉が閉じた音が聞こえると、全員が一斉に顔を上げた。
「王妃様のご厚意です。
有り難く戴きましょう」
ローサからそう促されたので、僕たちは再び着席し、カップを口元に近づける。
少し冷めてしまったが、果実の豊潤な香りが、鼻をくすぐった。
香りに導かれるまま、僕はひと口、お茶を含んでみる。
ん?……つつっ!
ピリリッとした痺れが、一瞬、舌を駆け巡る。
何だ?
僕は動揺を気付かれぬよう、だが、それ以上お茶を飲むのは止めにして、静かにカップをソーサーへ戻した。
なるべく大げさにならないよう、視線だけで、僕の右斜め前に座っているローサと、右隣にいるクローネの様子を伺ったが、2人共、異変はないように見える。
それどころか、さすが王族の妃たちだ。
背筋はピンと伸び、お茶を飲む所作さえ美しい。
何となく、気詰まりを覚えた僕は、視線を伏せ、目の前のカップを、なんとはなしに見つめた。
すると、いつものように、唐突に一筋の光が現れ、カップの表面を通り抜けていき、数秒後に微かだが、薄っすらと黒い煙が空中に解けた。
うそっ!
もしかしてコレって……
咄嗟に浮かんだ疑念に、さすがに平静でいられず、思わず口元を手で押さえてしまった僕は、ローサから問いかけられる。
「どうかなされました?」
ここは王妃様の居室であり、お茶も王妃様が選ばれたのだ
迂闊なことは言えない
僕は慌てて口元から手を離し、ぎこちなかったかもしれないが、無理矢理笑みを浮かべて答えた。
「かっ……果実の香りが、瑞々しくて……感動しました」
最初だけ、言葉が震えてしまったが、何とか言い終える。
「そうですわね」
口角がゆっくりと上がり、ニッコリという言葉に相応しい、綺麗な笑みを浮かべながら、ローサが応じてくれた。
「さすが、王妃様ですね。
このようなお茶は、初めてです」
クローネも大きな目を見開いて、大きく頷きながら、会話に加わった。
僕は背中に冷や汗が一筋流れたが、何事もなかったように、笑みを浮かべ続けた。
「申し訳ないが、今回はここで解散する。
もう少し細かいことを詰めたかったが、王のお呼びだ、仕方がない。
後のことは、個人的に呼び出して決めることとする。
今日は皆、集まってくれてありがとう。
あっ、妃たちは、良かったら、淹れたお茶を飲んでいってほしい。
今日のためにわざわざ取り寄せたものだから。
悪いけどローサ、後はよろしく」
「お任せ下さい、王妃様」
ローサがそう答えると、レイラ様と王妃様はお立ちになられた。
扉までの見送りは不要と言われたので、僕たち妃はその場で立ち上がり、深く礼をして、レイラ様と王妃様の退室を見送る。
侍女たちも、控えている場所から一歩出て姿を見せ、皆、同じ角度で深くお辞儀をした。
「「「「「いってらっしゃいませ」」」」」
僕たちの声だけでなく、一糸乱れぬ侍女たちの声まで重なると、かなりの迫力だ。
お2人の退室が完了した合図として、入口扉が閉じた音が聞こえると、全員が一斉に顔を上げた。
「王妃様のご厚意です。
有り難く戴きましょう」
ローサからそう促されたので、僕たちは再び着席し、カップを口元に近づける。
少し冷めてしまったが、果実の豊潤な香りが、鼻をくすぐった。
香りに導かれるまま、僕はひと口、お茶を含んでみる。
ん?……つつっ!
ピリリッとした痺れが、一瞬、舌を駆け巡る。
何だ?
僕は動揺を気付かれぬよう、だが、それ以上お茶を飲むのは止めにして、静かにカップをソーサーへ戻した。
なるべく大げさにならないよう、視線だけで、僕の右斜め前に座っているローサと、右隣にいるクローネの様子を伺ったが、2人共、異変はないように見える。
それどころか、さすが王族の妃たちだ。
背筋はピンと伸び、お茶を飲む所作さえ美しい。
何となく、気詰まりを覚えた僕は、視線を伏せ、目の前のカップを、なんとはなしに見つめた。
すると、いつものように、唐突に一筋の光が現れ、カップの表面を通り抜けていき、数秒後に微かだが、薄っすらと黒い煙が空中に解けた。
うそっ!
もしかしてコレって……
咄嗟に浮かんだ疑念に、さすがに平静でいられず、思わず口元を手で押さえてしまった僕は、ローサから問いかけられる。
「どうかなされました?」
ここは王妃様の居室であり、お茶も王妃様が選ばれたのだ
迂闊なことは言えない
僕は慌てて口元から手を離し、ぎこちなかったかもしれないが、無理矢理笑みを浮かべて答えた。
「かっ……果実の香りが、瑞々しくて……感動しました」
最初だけ、言葉が震えてしまったが、何とか言い終える。
「そうですわね」
口角がゆっくりと上がり、ニッコリという言葉に相応しい、綺麗な笑みを浮かべながら、ローサが応じてくれた。
「さすが、王妃様ですね。
このようなお茶は、初めてです」
クローネも大きな目を見開いて、大きく頷きながら、会話に加わった。
僕は背中に冷や汗が一筋流れたが、何事もなかったように、笑みを浮かべ続けた。
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