上 下
51 / 97
第4章 王宮生活<大祭準備編>

50、妃教育の洗礼<前>

しおりを挟む
 そして王妃様はもう一度、つどった一同いちどうを見渡しながら、言葉を続けた。

「申し訳ないが、今回はここで解散する。
 もう少しこまかいことをめたかったが、王のお呼びだ、仕方がない。
 後のことは、個人的に呼び出して決めることとする。
 今日は皆、集まってくれてありがとう。

 あっ、妃たちは、良かったら、れたお茶を飲んでいってほしい。
 今日のためにわざわざ取り寄せたものだから。
 悪いけどローサ、後はよろしく」

「おまかせ下さい、王妃様」

 ローサがそう答えると、レイラ様と王妃様はお立ちになられた。

 扉までの見送りは不要ふようと言われたので、僕たち妃はその場で立ち上がり、深く礼をして、レイラ様と王妃様の退室たいしつを見送る。

 侍女じじょたちも、ひかえている場所から一歩出て姿を見せ、皆、同じ角度で深くお辞儀じぎをした。

「「「「「いってらっしゃいませ」」」」」

 僕たちの声だけでなく、一糸いっしみだれぬ侍女じじょたちの声までかさなると、かなりの迫力はくりょくだ。

 お2人の退室たいしつが完了した合図あいずとして、入口扉が閉じた音が聞こえると、全員が一斉いっせいに顔を上げた。

「王妃様のご厚意こういです。
 有りがたいただきましょう」

 ローサからそううながされたので、僕たちはふたた着席ちゃくせきし、カップを口元くちもとに近づける。

 少しめてしまったが、果実かじつ豊潤ほうじゅんな香りが、鼻をくすぐった。

 香りにみちびかれるまま、僕はひと口、お茶をふくんでみる。

 ん?……つつっ!

 ピリリッとしたしびれが、一瞬、舌をめぐる。

 何だ?

 僕は動揺どうようを気付かれぬよう、だが、それ以上お茶を飲むのは止めにして、静かにカップをソーサーへ戻した。

 なるべく大げさにならないよう、視線だけで、僕の右ななめ前に座っているローサと、右どなりにいるクローネの様子をうかがったが、2人共、異変いへんはないように見える。

 それどころか、さすが王族の妃たちだ。
 背筋せすじはピンと伸び、お茶を飲む所作しょささえ美しい。

 何となく、気詰きづまりを覚えた僕は、視線をせ、目の前のカップを、なんとはなしに見つめた。

 すると、いつものように、唐突とうとつ一筋ひとすじの光があらわれ、カップの表面を通りけていき、数秒後にかすかだが、っすらと黒いけむり空中くうちゅうけた。

 うそっ!
 もしかしてコレって……

 咄嗟とっさに浮かんだ疑念ぎねんに、さすがに平静へいせいでいられず、思わず口元くちもとを手で押さえてしまった僕は、ローサからいかけられる。

「どうかなされました?」

 ここは王妃様の居室きょしつであり、お茶も王妃様が選ばれたのだ
 迂闊うかつなことは言えない

 僕はあわてて口元くちもとから手を離し、ぎこちなかったかもしれないが、無理矢理みを浮かべて答えた。

「かっ……果実かじつの香りが、瑞々みずみずしくて……感動しました」

 最初だけ、言葉がふるえてしまったが、何とか言い終える。

「そうですわね」

 口角こうかくがゆっくりと上がり、ニッコリという言葉に相応ふさわしい、綺麗なみを浮かべながら、ローサがおうじてくれた。

「さすが、王妃様ですね。
 このようなお茶は、初めてです」

 クローネも大きな目を見開いて、大きくうなずきながら、会話にわった。

 僕は背中にや汗が一筋ひとすじ流れたが、何事もなかったように、みを浮かべ続けた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

処理中です...