「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第4章 王宮生活<大祭準備編>

49、突然の指名

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「レイラ様、ローサの提案はいかがでしょうか?」

 王妃様はかなりの間沈黙ちんもくされた後、まずはレイラ様におうかがいを立てた。

「ふむ、私たちにとって大変魅力みりょく的な提案だとは思うが、あやうい問題もふくんでいるな。

 ぎゃくに王妃としてはどうなのだ?
 今回は王同様、王妃も主催者しゅさいしゃの1人となるのだ。
 まずは王妃みずからの見解けんかいべるべきではないのか?」

 やんわりとレイラ様にとがめられ、王妃様は少し顔を青くされてから、パチンとおうぎを閉じた。
 それから、ゆっくりと口を開かれる。

「私は、ローサの提案を素晴らしいものだと思いました。
 今回は規模きぼの大きさゆえ、ただでさえ、予算に通常の倍をかけております。
 何かしたいとは思ってはいますが、これ以上、費用ひようを使うことはけたいのです」

 王妃様の発言から、また沈黙ちんもくが続く。

 本来なら妃の側近そっきんつとめている侍女じじょも、発言は許されている。

 時折ときおりこういう場面で侍女じじょによる見事な提言ていげんがなされ、問題が劇的に解決する場合があると聞いたことがあったが、今回は色々な立場を巻き込む難しい問題のせいか、侍女じじょたちは一応いちおうに口を閉じ、誰も口をはさまない。

 緊張感をはらんだ重い沈黙ちんもくに、僕はそろそろ痛みさえ感じ始めたころ、ふいにレイラ様が口を開いた。

「レンヤード、そなたはこの問題をどう考える?」

 予想しなかった突然の指名に、僕はビクッと肩をらす。

 一斉いっせいに向けられた針のような視線のたばに、下に向けていた顔を上げるのに、ものすごく勇気が必要だった。

 指名された以上、答えないという選択は存在しない

 目まぐるしく脳裏のうりを回転させながら、僕はふるえる唇を、何とかこじ開けた。

「確かにローサの提案は、費用ひよう面で王家に負担ふたんがないという点において、すぐれたものだと思います。

 ただ、私も地方にいたので、その観点かんてんから申し上げますと、はるばる王都に来たからには、まずは王都で流行しているものなど、王都ならではの情報と共に、滅多めったにない機会なので、他の領主りょうしゅとも積極せっきょく的に情報交換を行おうとするでしょう。

 その交流の過程かていにおいて、王都周辺の領主りょうしゅだけの集まりがあると知り、なおかつ、その集まりが王族に関わりがあるものだと知ったら……いくら王様と拝謁はいえつする機会を与えられたとはいえ、逆にその時間に行われるからこそ……王都周辺と地方のものを切り離そうとするか、あるいは何らかの差別化さべつかはかろうとしているのではないかと、チラッと勘繰かんぐるかもしれません」

「なっ……ちかって私はそんなこと……」

 あわてた様子で、ローサは椅子いすから腰を浮かす。

「ローサのことを、疑うわけではありません。
 ただ、そうとらえられる可能性があるという話をしたまでで……王族が関わるとするならば、それだけ大きな影響力があると言いたかっただけなのです」

 変な誤解ごかいまねきたくない僕は、あくまでも可能性の段階であることを強調するため、言葉をかさねて説明した。

「確かに……そんな側面そくめんもあるな」

 ほんのわずかな間であったが、ローサと僕の間に横たわったかべを断ち切ったのは、レイラ様の思慮しりょを含んだ声であった。

 一段いちだん緊迫きんぱくした静寂せいじゃくが広まる中、突如とつじょ、入口扉が開き、1人の侍女があわただしく入室にゅうしつしてきた。

「失礼いたします。
 レイラ様、王妃様、王様がお呼びです」

「すぐにまいる」

 レイラ様と王妃様は軽く目配めくばせをして、王妃様は、入ってきた侍女じじょにそう返事をする。

 すぐにでも席を立とうとする王妃様に向かい、レイラ様は咄嗟とっさに声をかけられた。

「王妃、解散前に1つだけ。
 この神祭しんさいで、レンヤードに何をさせよう?」

 王妃様は一度浮かした腰を、再び椅子に落ち着かせ、しばらく上空じょうくうに視線を移していたが、すぐにレイラ様に答えられた。

「地方からまね領主りょうしゅの人数が増えたため、儀式終了後に領主たちに渡す、供物くもつの数を増やす手配が必要です。

 レンヤードは、王都での神祭しんさいは初めてなので、まずは供物くもつの手配と管理をローサに教わりながらさせようと思いましたが、いかがでしょうか?」

「それはよいな。
 レンヤード、聞いたか?」

 レイラ様は、僕を見て、返事をうながされる。

拝命はいめいいたします」

 この状況で、僕から王妃様に聞きにくかった役割について、代わりに問いかけて下さったレイラ様に感謝しながら、僕は頭を深く下げた。
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