「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第4章 王宮生活<大祭準備編>

47、王妃の挨拶

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さきにももうしたが、今回は特別な神祭しんさいと、まずは認識にんしきしてほしい」

 王妃カメリーア様は、グルリと部屋全体を見渡しながら、まるで宣言せんげんされるかのごとく、力強く言い切られた。

 なぜ、部屋全体を見渡されたのだ?

 僕の脳裏のうりに、突如とつじょとして、疑問がぎる。

 しばらくの間、考えても答えが出なかったので、王妃様の真似まねをして、僕もコッソリと部屋全体を見渡すと、おのずと正解が見えてきた。

 僕の考え方が異端いたんなだけだが、通常、妃と呼ばれる立場となると、王妃様付きのリリー、ローサ付きのサラと言ったように、何名かの専属せんぞく侍女じじょたちが、妃と行動を共にする。

 そして、背筋せすじを伸ばしてこの部屋をグルリと見渡すと、僕たちが座っている場所からはあからさまには見えないが、家具のかげなどに、侍女じじょたちが着用ちゃくようしている服のすそがチラチラと見えかくれしている。

 つまり侍女たちは、必要ならいつでもすぐにつかえられるよう、物陰ものかげひかえているのだ。

 妃だけがテーブル席に座っているが、この部屋の中には王妃様と妃きの、それぞれの専属せんぞく侍女じじょたちがおり……つまり王妃様は、今回の大祭たいさい準備に中心的となって関わるであろう、全員に向けて発言しているのである。

 そういう視点からすると、これは茶会という名をりた、関係者の全体会議の場であることが判明はんめいする。

 それを意識いしきした瞬間しゅんかん、とてつもない緊張きんちょう感が一気いっきに押し寄せてきて、僕の体温を急激きゅうげきうばった挙句あげく、視界もまたたかすんできた。

 僕はあわてて、静かに深呼吸をり返して身体からだに酸素を送り込み、意識を明瞭化めいりょうかさせる。

 なおも王妃様は、言葉を続けられた。

「今回は、げん王が王位を継承けいしょうされ、初めてのぞまれる大祭たいさいである。
 この大祭たいさいとどこおりなく行われることで、王の治世ちせいの安定にもつながると考えられる。
 だからわたくしは、何としてでも、この大祭たいさいを成功させたい」

 一度、王妃様は言葉を切って、席を立たれた。

「今回は神祭しんさいなので、肝心かんじん儀式ぎしきは国教会がおこなう。
 儀式ぎしきでは、供物くもつの提供要請ようせいのぞいて、私たちが関わることはない。

 むしろ重要なのは、儀式ぎしき前後における、諸侯しょこうへの応対おうたいである。
 今回はいつもの王都周辺をおさめているものに加えて、以前から王との面会を求めていた、あらゆる地方の諸侯しょこうも招待され、かつてない規模きぼの参加者となっている。

 皆は、常日頃つねひごろから、わたくしたちによくくしてくれており、そのことには大変感謝している。
 さらなる負担ふたんをかけることになり、申し訳なくも思うが、このまま気をくことなく、大祭を成功で終わらせるよう、今一度いまいちど、協力して欲しい」

 そう述べ終わると王妃様は、この部屋に集結しゅうけつした皆に向かって、綺麗な一礼をされた。

 すかさず全ての侍女じじょたちから、一糸いっしみだれることもなく、忠誠ちゅうせいちかう言葉が返ってくる。

「「「「「かしこまりました、王妃様」」」」」

 僕も遅れながら、礼を取って、同じ言葉を口にする。

「ありがとう、皆の働きに期待している」

 王妃様は、幾分いくぶんホッとしたかのように、軽くうなずかれて、再び着席ちゃくせきされた。

 それを合図にしたかのように、王妃様きの侍女じじょたちが動き出し、茶器にお茶がそそがれる。

 妃たちがひと口飲んだところで、ローサが王妃様へ話しかけた。

「王妃様、私に1つ提案がございます」

「さっそくか……さすがローサだ。
 今回は本当にそなたに助けられている。
 ぜひ聞かせてもらいたい」

 王妃様は声をはずませて、ローサに発言をうながした。

「もちろんですわ、王妃様」

 ローサは、一度僕にチラリと視線を送ってから、王妃様に向かって、満面まんめんの笑みを浮かべた。
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