「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第4章 王宮生活<大祭準備編>

43、義母(はは)の助言

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「怒っている訳ではないのだ。
 だから、立ちなさい、レンヤード」

 そう言って、レイラ様は、わざわざ僕に手を差し伸べて、僕が立ち上がるのを手伝ってくれた。

 いくらレイラ様からそう言われても、ちょっと考えただけでも、僕がやらかしていることは明白めいはくだ。

 僕の身体からだは自然とふるえ出す。

 レイラ様は、そんな僕の手をギュッとにぎりしめてくれた。

「招待状が、レンヤードの手元てもとに届いていないことは、私から説明するから安心しなさい。
 そなたは、体調をくずしていた期間が長かったため、シルヴィスが帰還きかんするまでは、シルヴィスもわたくしも、そなたを公式行事に参加させるつもりはなかった。
 それに……王宮で生活する上で必須ひっすの、妃教育もまだ受けていないしな。

 だが今年は、新王が即位そくいされてから初めての大祭たいさいであり、しかもグーノーしんに感謝をささげるためのものだ。
 王もそなたの事情じじょうを理解されているとはいえ、グーノーしん加護かごを受けている、いとのそなたをはずすわけにはいかず、出席されるよう命令された。

 ただ、大祭たいさいとなると、神官と協力しながらも、王族もその準備にたずさわなければならない。
 主催しゅさいするのは王だが、王は政務せいむで忙しく、代々だいだいこういった大祭たいさいは、王妃が中心となり、教会と一体となって、取り仕切しきるのだ。

 もちろん、王妃だけでこの規模きぼ大祭たいさいを取り仕切しきるのは無理があるので、身内である、その他の妃たちが王妃の手助けを率先そっせんして行う。
 そなたにとって突然の話で驚くことばかりだと思うが、王の子はまだおさなく、今のところ、シルヴィスがこの国で王の次位じいにいるため、妃となったそなたも、当然この祭りの準備にたずさわることになる……それもかなり重要な役割で、だ。

 まずは、この茶会でそなたに、何かしらの役割が与えられることになる。
 その心の準備をしておいてくれ」

「はい、承知いたしました」

 そう返事をしながら、心の準備をするひと手間を与えてくれたレイラ様に、僕は深く感謝した。

 全く見知らぬ場で、何も知らず、その場で言い渡される怖さを、回避かいひできるからだ。

 ほんの少しだけ、ひと息ついた僕を見透みすかしたように、レイラ様は続けてこう言われた。

「実はそなたと侍女じじょとのうわさを耳にし、その真偽しんぎを確かめたかったのも、ここに来た理由の1つでもある。

 ここは王宮……大勢の人々がつかえ、日々、様々さまざま思惑おもわく渦巻うずまく場所だ。
 地方の小さな領地りょうちでいた頃と規模きぼが違い……自分1人で何もかも行うには、限界げんかいがあるのだ。

 今度の大祭たいさい準備が、王妃1人の手にあまり、他の妃の手助けでようやくその準備がととのえられるように、この王宮で、自分が少しでも思うように動く手助けとなるのが……侍女じじょである。
 したがって侍女の役割は、想像以上に大切なものなのだ。
 今さら終わったことに口をはさむ気はないが、今回の大祭たいさいの準備に限り……侍女じじょが1人もいないのは、正直しょうじき……わたくしは、悪手あくしゅであると考える。

 仕方がない……この大祭たいさいの準備で困ったことが出てきたら、そなたは教会を頼るのだ。
 教会なら、加護かごを持つ神のいとである、そなたの味方みかたに、きっとなってくれるはずだ。

 だが、侍女じじょに関しては、そなたがシルヴィスの妃である以上、これからも直面ちょくめんする問題でもある。
 もちろん、侍女じじょとの相性あいしょうもあるであろう……中には意地いじの悪い者や、気が合わぬ者もいるものだ。
 しかし、人の上に立つ者は、それらも全部み込んで、行動せねばならぬ。

 では、まいるぞ、王妃の茶会へ」

 レイラ様は、僕の目をのぞき込んでそう言われると、にぎっていた僕の手を静かにはなし、出入口の扉へ向かわれた。

 これまでの僕と侍女じじょとのやり取りを、レイラ様は全てご存知ぞんじな上で、僕にそう申されたのだ。

 もちろん、僕に反論はんろんは許されないし、する気もない……ただレイラ様の教えを、心の奥深くしまい込むだけだ。

 僕は1回だけしん呼吸をすると、レイラ様に続いて歩き出した。

 自分の不甲斐ふがいなさに、ふるえる唇をめながら。
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