42 / 112
第3章 王宮生活<始動編>
41、癒しのチカラ<後>
しおりを挟む
「レンヤード」
アルフ様は、呆然として僕の名前を呼んだ後、ゆっくりと息を吐かれた。
なんだか、身体が重い
こんなこと今まで一度もなかったから……きっと失敗したに違いない
僕はアルフ様の手を、失礼にならない程度に急いで解放し、慌ててその場にうずくまり、謝罪を口にした。
「申し訳ありません」
「何がだ?」
困惑したアルフ様の声が、僕の頭上から聞こえる。
「あのぉ……どうやら……失敗してしまったようでして……誠に申し訳ありません」
僕は息を切らしながら、さらに身体を縮めて謝った。
「逆だ、レンヤード」
アルフ様は、笑みを浮かべてそう言われた。
「えっ?」
僕は訳が分からなくなって、顔を上げてしまう。
アルフ様が僕の目線に合うように、ゆっくりとかがみ込まれた。
「大成功だ、レンヤード!
今の位に就いて以来、苛まれるような頭痛に時折襲われ……その頻度が段々と短くなっていった。
あらゆることを試してみたが、痛みが少しだけ抑えられるだけで、頭痛そのものがなくなることは、残念ながら……一度もなかったのだ。
それが、今はどうだ?
すっかり頭痛が消え、身体が軽い!!
私は、未だかつてない、清々しさを感じている!
礼を言うぞ、レンヤード」
「えっ……と……」
僕は理解が追いつかなくて、振り返ってセリム様を見つめる。
セリム様も僕を静かに見つめ返して、こう言った。
「レンヤード、そなたは、邪気を祓う神力を発動したのだ」
「邪気を祓う神力?」
聞き慣れない言葉に、僕はただ、セリム様の言葉を繰り返した。
そんなこと、今まで聞いたことないんだけど……
そう思うと同時に、僕は軽い眩暈に襲われ、視界がグニャリと歪んだ。
咄嗟に片手で両目を覆い、もう片手で床に手をついて、フラつく身体を自分で支えるようにする。
「「レンヤード!!」」
セリム様とアルフ様が、同時に僕の名を呼ぶ声が聞こえた。
しまった!
床についた手は、通常なら杖代わりになり、僕の身体を支えるはずだが……今回は腕に全く力が入らず、カクンと更に身体が傾いていく。
あっ、支えきれない!!
床に身体が崩れ落ちることを覚悟したその時、僕の身体は、力強い腕にギュッと抱き止められ……次にフワリとした浮遊感を感知した。
気がつくと、側にあったソファに、僕は仰向きに寝かされていた。
僕の額に誰かの手が、当てられているのを感じる。
「アルフ!」
セリム様の少し焦った声が、近くで聞こえた。
「大丈夫か?
すまない……無理をさせたようだ。
セリムに診てもらおう」
まだボヤッとした視界に、澄んだアクアマリンが映る。
キレイだなぁ……
僕は思わず、小さく呟いていた。
その後、額にあった温もりがそっと引いていき……僕はそのことを、なぜか寂しいと思ってしまった。
ええっ!
自身の思わぬ心の動きに、僕が戸惑っていると、今度はひんやりとした手のひらが、僕の額に乗せられる。
「レンヤード……気分はどうだ?」
スーッとした清涼感が、僕の身体を通り抜け、眩暈が次第に治ってくる。
ゆっくりと目を開けると、セリム様の顔が案外近くにあり、僕は驚きのあまり、身体をビクッと揺らしてしまった。
「ご迷惑かけて申し訳ありません」
僕は慌てて身体を起こそうとすると、セリム様に止められる。
「レンヤード、まだ、起き上がってはダメだ。
それにしても……まさか、アルフの精神に根付いた邪気を、全て取り払ってしまうとは。
普通なら意識を失い……下手したら、そのまま息が止まっていたぞ」
淡々と言うセリム様のこめかみから、ひと粒、汗が伝い落ちる。
「あのままだと、アルフ様の呼吸が止まっていたということですか?」
意識がまだぼんやりとしており、頭が働かない。
僕は確認のため、そう聞き返した。
「違う!そなたのだ!
シルヴィスから、くれぐれもそなたの事をよろしく頼むと言われているのに……本当に無事でよかった」
うそ!
シルヴィス様は、そんなお願いをしてたの?
冷え切っていた僕の心に、じんわりと温かさが灯る。
「セリム様は、シルヴィス様のお知り合いですか?」
僕は俄かに信じられなくて……もう一度セリム様に聞き直してしまった。
「そうだ、セリムはシルヴィスの古くからの友人だ。
ちなみに、私とシルヴィスも仲は良いぞ」
僕のセリム様への質問に、またしてもアルフ様が答えた。
「アルフ!……あなたという人は」
セリム様が思わずといったように、苦笑いをする。
「だから、困ったことがあったら、いつでも我々を頼るがよい」
そう言って、アルフ様は太陽のように、カラリと笑った。
アルフ様は、呆然として僕の名前を呼んだ後、ゆっくりと息を吐かれた。
なんだか、身体が重い
こんなこと今まで一度もなかったから……きっと失敗したに違いない
僕はアルフ様の手を、失礼にならない程度に急いで解放し、慌ててその場にうずくまり、謝罪を口にした。
「申し訳ありません」
「何がだ?」
困惑したアルフ様の声が、僕の頭上から聞こえる。
「あのぉ……どうやら……失敗してしまったようでして……誠に申し訳ありません」
僕は息を切らしながら、さらに身体を縮めて謝った。
「逆だ、レンヤード」
アルフ様は、笑みを浮かべてそう言われた。
「えっ?」
僕は訳が分からなくなって、顔を上げてしまう。
アルフ様が僕の目線に合うように、ゆっくりとかがみ込まれた。
「大成功だ、レンヤード!
今の位に就いて以来、苛まれるような頭痛に時折襲われ……その頻度が段々と短くなっていった。
あらゆることを試してみたが、痛みが少しだけ抑えられるだけで、頭痛そのものがなくなることは、残念ながら……一度もなかったのだ。
それが、今はどうだ?
すっかり頭痛が消え、身体が軽い!!
私は、未だかつてない、清々しさを感じている!
礼を言うぞ、レンヤード」
「えっ……と……」
僕は理解が追いつかなくて、振り返ってセリム様を見つめる。
セリム様も僕を静かに見つめ返して、こう言った。
「レンヤード、そなたは、邪気を祓う神力を発動したのだ」
「邪気を祓う神力?」
聞き慣れない言葉に、僕はただ、セリム様の言葉を繰り返した。
そんなこと、今まで聞いたことないんだけど……
そう思うと同時に、僕は軽い眩暈に襲われ、視界がグニャリと歪んだ。
咄嗟に片手で両目を覆い、もう片手で床に手をついて、フラつく身体を自分で支えるようにする。
「「レンヤード!!」」
セリム様とアルフ様が、同時に僕の名を呼ぶ声が聞こえた。
しまった!
床についた手は、通常なら杖代わりになり、僕の身体を支えるはずだが……今回は腕に全く力が入らず、カクンと更に身体が傾いていく。
あっ、支えきれない!!
床に身体が崩れ落ちることを覚悟したその時、僕の身体は、力強い腕にギュッと抱き止められ……次にフワリとした浮遊感を感知した。
気がつくと、側にあったソファに、僕は仰向きに寝かされていた。
僕の額に誰かの手が、当てられているのを感じる。
「アルフ!」
セリム様の少し焦った声が、近くで聞こえた。
「大丈夫か?
すまない……無理をさせたようだ。
セリムに診てもらおう」
まだボヤッとした視界に、澄んだアクアマリンが映る。
キレイだなぁ……
僕は思わず、小さく呟いていた。
その後、額にあった温もりがそっと引いていき……僕はそのことを、なぜか寂しいと思ってしまった。
ええっ!
自身の思わぬ心の動きに、僕が戸惑っていると、今度はひんやりとした手のひらが、僕の額に乗せられる。
「レンヤード……気分はどうだ?」
スーッとした清涼感が、僕の身体を通り抜け、眩暈が次第に治ってくる。
ゆっくりと目を開けると、セリム様の顔が案外近くにあり、僕は驚きのあまり、身体をビクッと揺らしてしまった。
「ご迷惑かけて申し訳ありません」
僕は慌てて身体を起こそうとすると、セリム様に止められる。
「レンヤード、まだ、起き上がってはダメだ。
それにしても……まさか、アルフの精神に根付いた邪気を、全て取り払ってしまうとは。
普通なら意識を失い……下手したら、そのまま息が止まっていたぞ」
淡々と言うセリム様のこめかみから、ひと粒、汗が伝い落ちる。
「あのままだと、アルフ様の呼吸が止まっていたということですか?」
意識がまだぼんやりとしており、頭が働かない。
僕は確認のため、そう聞き返した。
「違う!そなたのだ!
シルヴィスから、くれぐれもそなたの事をよろしく頼むと言われているのに……本当に無事でよかった」
うそ!
シルヴィス様は、そんなお願いをしてたの?
冷え切っていた僕の心に、じんわりと温かさが灯る。
「セリム様は、シルヴィス様のお知り合いですか?」
僕は俄かに信じられなくて……もう一度セリム様に聞き直してしまった。
「そうだ、セリムはシルヴィスの古くからの友人だ。
ちなみに、私とシルヴィスも仲は良いぞ」
僕のセリム様への質問に、またしてもアルフ様が答えた。
「アルフ!……あなたという人は」
セリム様が思わずといったように、苦笑いをする。
「だから、困ったことがあったら、いつでも我々を頼るがよい」
そう言って、アルフ様は太陽のように、カラリと笑った。
161
お気に入りに追加
1,190
あなたにおすすめの小説


巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?
人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途なαが婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。
・五話完結予定です。
※オメガバースでαが受けっぽいです。
あなたは僕の運命の番 出会えた奇跡に祝福を
羽兎里
BL
本編完結いたしました。覗きに来て下さった方々。本当にありがとうございました。
番外編を開始しました。
優秀なαの兄達といつも比べられていたΩの僕。
αの父様にも厄介者だと言われていたけど、それは仕方がない事だった。
そんな僕でもようやく家の役に立つ時が来た。
αであるマティアス様の下に嫁ぐことが決まったんだ。
たとえ運命の番でなくても僕をもらってくれると言う優しいマティアス様。
ところが式まであとわずかというある日、マティアス様の前に運命の番が現れてしまった。
僕はもういらないんだね。
その場からそっと僕は立ち去った。
ちょっと切ないけれど、とても優しい作品だと思っています。
他サイトにも公開中。もう一つのサイトにも女性版の始めてしまいました。(今の所シリアスですが、どうやらギャグ要素満載になりそうです。)

勘弁してください、僕はあなたの婚約者ではありません
りまり
BL
公爵家の5人いる兄弟の末っ子に生まれた私は、優秀で見目麗しい兄弟がいるので自由だった。
自由とは名ばかりの放置子だ。
兄弟たちのように見目が良ければいいがこれまた普通以下で高位貴族とは思えないような容姿だったためさらに放置に繋がったのだが……両親は兎も角兄弟たちは口が悪いだけでなんだかんだとかまってくれる。
色々あったが学園に通うようになるとやった覚えのないことで悪役呼ばわりされ孤立してしまった。
それでも勉強できるからと学園に通っていたが、上級生の卒業パーティーでいきなり断罪され婚約破棄されてしまい挙句に学園を退学させられるが、後から知ったのだけど僕には弟がいたんだってそれも僕そっくりな、その子は両親からも兄弟からもかわいがられ甘やかされて育ったので色々な所でやらかしたので顔がそっくりな僕にすべての罪をきせ追放したって、優しいと思っていた兄たちが笑いながら言っていたっけ、国外追放なので二度と合わない僕に最後の追い打ちをかけて去っていった。
隣国でも噂を聞いたと言っていわれのないことで暴行を受けるが頑張って生き抜く話です

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

手の届かない元恋人
深夜
BL
昔、付き合っていた大好きな彼氏に振られた。
元彼は人気若手俳優になっていた。
諦めきれないこの恋がやっと終わると思ってた和弥だったが、仕事上の理由で元彼と会わないといけなくなり....
オメガの復讐
riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。
しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。
とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる