「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第3章 王宮生活<始動編>

39、奇妙なお茶会<後>

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 それより僕は、アルフ様に一言ひとこと謝りたかった。

「あの……この教会はすごく素敵でして……知らなかったとはいえ、僕は無断むだんで入りみ、その上、祈りの間まで勝手に使わせてもらっていました。
 大変申し訳ありませんでした」

 単なるその場で感じたかんみたいなものだったが、この教会は、アルフ様の持ち物ではないかという考えが、僕の頭の中を、ふとよぎったからだ。

 たして……僕のかんは当たっていたようだった。

 アルフ様は僕の謝罪しゃざいが思いがけないものだったようで、一瞬驚かれ、目を丸くされていたが、やがて優しく微笑ほほえまれた。

「こちらこそ、庭園の手入れといい、ここの神の間で祈りまでささげてもらい……この教会もまるで喜んでいるようだ。

 心なしか居心地いごこちが良くなった気がする。

 それに私の昼寝を、さまたげることのないよう、いつも気遣きづかって行動していることもがたく思っている」

 なんせ、今日のセリムもそうだけど、そなた以外の者は、私をすぐ起こそうとしてくるしな……とかろやかに笑いながらアルフ様はそう続けられた。

 そんな会話をアルフ様としていたら、僕が気付いた時には、いつの間にかお茶の準備がととのい、支度したくされた方々かたがたもいなくなり……セリム様だけが、静かにお茶を飲まれていた。

「おい、セリム、たのんだ私より先に飲むなんて……本当に遠慮えんりょがないヤツだな!」

 文句もんくを言いながらも、屈託くったくなく笑っているアルフ様に、その苦情くじょうすら受け流して、ました顔でお茶を飲み続けているセリム様。

 そんなしたしいからこそ遠慮えんりょがないお二人の態度を見て、この宮中で友人がいない僕は、すごくうらやましく感じた。


 その後も隠れみたいなこの教会へ祈りに訪れると、アルフ様があのソファで休まれている姿すがたを、僕は時々ときどきお見かけした。

 セリム様がいらっしゃらない時は、今まで通り、アルフ様の眠りをさまたげることがないよう、僕は声がけすることもなく、そのまま静かに立ちっていたが、セリム様がいらっしゃる時は、なぜか三人でそのままお茶をすることが、当たり前になっていった。

 お茶と美味おいしいお菓子をいただきながら、会話を楽しむのはもっぱらアルフ様と僕で、セリム様はお茶を飲まれながらも、だまって僕たちの会話を聞かれて、過ごされていることが多い。

 アルフ様は大変博識はくしきで、アルフ様が話されているのをただ聞いているだけでも、僕はすごく楽しいのだが、僕も話に参加できる野菜の流行や、領地りょうち経営の苦労話なども、さりげに話題にしてくださった。

 時にはセリム様まで巻き込んで、多いにり上がることもあり、宮中に入って僕は初めて、心から楽しい時間を持つことができた。

 アルフ様もセリム様もお忙しいので、そんな頻繁ひんぱんに、茶会が行われるわけではない。

 だが、なんとはなしに集まり、ただ一杯のお茶を飲みながら、少しの時間、雑多ざったな話をする……そんな、なんとも安寧あんねいな時間だか、その機会を僕は大切にし、次、いつ開かれるのかを心待ちにしていた。

 ただ、お二人の素性すじょうを僕だけがよく知らない……そんな奇妙きみょう側面そくめんを残しながら。

 その日、いつものお茶会をしようと、ソファに座られたアルフ様は、なんだか顔色が悪かった。

「顔色がえないようだが、何かあったのか?」

 僕でも気付くような顔色の悪さだから、さすがにセリム様からも、アルフ様の体調を気遣きづかう問いかけがなされる。

「いや、ちょっと急ぎの用があって、単なる寝不足だ。
 さすがにこうも連日れんじつだと、身体からだ負担ふたんがくるな」

 眉間みけんみながらそう答えるアルフ様に、僕は少し躊躇ためらいながらも、提案してみた。

「姉が疲れている時に僕がやってあげて好評こうひょうだった、一種いっしゅの、まじないのようなものがあります。
 いつもお茶をご馳走ちそうになっているお礼に、アルフ様が良ければやらせていただきたいのですが、いかがでしょうか?」

「ほう、それは興味あるな。
 これでも色々とやってはいるのだが、なかなかいい方法が見つからなくて困っていたところだ」

「アルフ」

 僕の提案に、前向きに答えられたアルフ様だが、セリム様が静かにアルフ様へ声をかけられる。

 ほんの一瞬、お二人の視線が交差こうさし、何らかの意思いし疎通そつうはかられた。
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