「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

文字の大きさ
上 下
39 / 110
第3章 王宮生活<始動編>

38、奇妙なお茶会<中>

しおりを挟む
「なんだ、なんだ、知り合いなのか?」

 僕がクスクス笑っていると、金髪の男性から興味きょうみぶかげに声をかけられてしまった。

 僕はあわてて体格たいかくの良い神官様から、目の前の男性へ視線を向け、簡単に経緯けいいを説明した。

「以前、天気の良い日にブラっと散歩してた時に、あちらの庭園に水りの仕事をいただいた、ごえんがありまして……」

 そう僕は答えると、ここのガラス窓からよく見える、見事な庭園を指差ゆびさした。

 僕の指先ゆびさきさそわれるように、皆が庭園へ一斉いっせいに目を向ける。

「最近、一段とかがやいて見えるので、誰が手入れしているのかと気になってはいたのだが……そうか、そなただったのか」

 感慨かんがいぶかげに、金髪の男性に言われるので、僕はうれしさがみ上げてきて……誤魔化ごまかすように、へへへっと笑ってしまった。

 一方いっぽう、セリム様は、ちょっと意外そうに、体格たいかくの良い神官様へ話しかけられる。

「ロイ、お前が?」

「申し訳ありません。
 あの時は地方から来たばかりの新入しんいりだと、勘違かんちがいしており……一方いっぽう的にめいじてしまったのです」

 ロイと呼ばれた神官様が、大きな身体を目いっぱい小さくして、心底しんそこ申し訳なさそうに言うので、僕は急いで、お二人の会話へ入りんで説明した。

「いえ、いいんです、侍女じじょにも注意されたんですが、動きやすそうなこの服のデザインを僕が気に入ってしまい……ワガママをとおして作ってもらったのが、勘違かんちがいさせてしまった原因でしょう。

 それに、最近やっと体調が回復して元気になったのですが、何もやることがなく、少々しょうしょうひまを持てあましておりましたので、仕事をいただいて、ぎゃくうれしかったです。

 ありがとうございました、ロイ様」

 僕はそう言い終えると、ロイ様に向かって頭を下げた。

「そっ、そんな私ごときに……頭をお上げください」

 ロイ様からそう言われると同時に、セリム様からも注意を受けた。

「ロイは私の副官だから、敬称けいしょうは不要だ、レンヤード」

 えっ、そうなの?

 僕はあわてて、言いえる。

「申し訳ありません、私は、ずっとながらくやまいせっておりまして……恥ずかしながら、宮中のことなど、何もぞんじ上げないのです」

 そう、まずはセリム様がどういうかたか知らないんだけど……このロイさんが部下だから……それなりにえらかただよね?

 ついでに、目の前にいる金髪の男性も、誰なのか気になるんだけど……今さら質問しにくい!
 どうしよう?

 色んな思いが脳内をめぐり……こめかみに汗が流れるのを気にしつつ、僕は正直しょうじきに申し上げると、僕の心中しんちゅうを読んだかのように、目の前の男性から質問された。

「では、私のことも?」

おそれながら……はい……ぞんじ上げません」

 僕は……もう……頭を下げつづけるしかない。

「はははははっ……だから、先ほど、私の茶のさそいを無視したのか!」

 大笑いする男性に、これ以上誤解ごかいされないよう、僕は一度頭を上げ、必死に弁解べんかいした。

「あっ……あの……そのぉ……無視したのではなく……会話されていたのがセリム様だったので……面識めんしきがない私が同席するのも……不敬ふけいかと思い……」

 軽くパニックを起こしている僕は、真っになるやら、真っさおになるやらで、言葉もすんなり出てこない。

「ふっ……不敬ふけいだと……」

 僕の言葉のどれがツボに入ったのか分からないが、金髪の男性は身体からだを折り曲げ、さらにクククッと笑い続ける。

「レンヤード様……この方は」

 見かねたロイさんが、僕に声をかけようとした時、空気が急変きゅうへんした。

「言うな……このままでよい」

 一瞬いっしゅんでピーンと緊張きんちょう感がめる。

 まるで支配者の一声ひとこえだ……もしかして……この方もアルファ?

 僕の顔色がガラリと変化したのを見られて、めた空気が、すぐゆるめられた。

 何事もなかったように……それと意識されてだろうか、幾分いくぶん声のトーンが楽しげなものに変わり、僕は男性からふたたび、声をかけられた。

「では、起きてる時には、初めましてだな。
 私はアルフという。
 先ほど無意識に覇気はきを出してしまい……申し訳なかった。
 多分、そなたには感じ取れたと思うが……私はアルファだ。
 だが、安心しろ、すでつがいである妻もいるし、かわいい子もいる」

「はぁ」
 なんとも間抜まぬけだが、僕はそう返事するしかなかった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

どうも。チートαの運命の番、やらせてもらってます。

Q.➽
BL
アラフォーおっさんΩの一人語りで話が進みます。 典型的、屑には天誅話。 突発的な手慰みショートショート。

【本編完結】αに不倫されて離婚を突き付けられているけど別れたくない男Ωの話

雷尾
BL
本人が別れたくないって言うんなら仕方ないですよね。 一旦本編完結、気力があればその後か番外編を少しだけ書こうかと思ってます。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

処理中です...