「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第3章 王宮生活<始動編>

36、金髪の人

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 うらやましすぎる……僕もやりたかったのに!!

 羨望せんぼう眼差まなざしを向けながら、さりげなく、眠っている男性を観察する。
 端正たんせいな顔立ちの男性は、ピクリとも動かないので、一瞬だけ、とても精巧せいこうな人形かと思ったが、よくよく見てみると、胸のあたりが規則正しく上下に動いているので、深く眠っているだけだと分かった。

 顔色は……あまり良くない
 もしかして、すごく疲れている?

 僕は気になって、どれくらい疲れているのかなぁと、その男性をながめていたら、唐突とうとつにその方の頭の先から足先まで、一筋の光が通り抜けていき……やがてボンっと真っ黒なけむりが上がった。

 うわっ、これは相当そうとう疲れているな

 僕は、そう判断した。

 あの長い眠りから覚めて、悲しい思いや、やるせ無さなど、の感情をいだくことのほうが多かったが、唯一良かったなぁと思えたことが、いつの間にか、この能力が使えるようになっていたことだった。

 最初にこの能力に気がついたのは、食事の時に出されたお茶を飲んでいる時だった。
 その日は、なんだか今日のお茶は、変な味がするな……と感じて、今のように、じっとそのお茶を見つめていた。
 そうしていると、数秒後に一筋の光が現れて、お茶の表面を通り抜け……その後、そのお茶に真っ黒いけむりが上がった。
 その時は何だか気持ち悪いけど、目の錯覚さっかくかなと思い、気にも止めず、そのままお茶を飲み終えてしまった。
 だがその夜……僕は急激なお腹の痛みに苦しめられたのだった。
 後から分かったことだが、使われていた茶葉ちゃばが、くさっていたのだ。

 そんな事が幾度いくどか続き、あの黒いけむりが出てくる時は、これは良くないものだと、教えてくれているんだなぁと、僕はそう解釈かいしゃくするようになった。
 確かに便利なんだけど、どうせなら美味しい野菜が光って見える能力のほうが、領民の役に立てるので、僕はそっちのほうが欲しかったなぁ、とこっそり思っていたりもする。
 つらつらと、どうでもいいことを考えながら、しばらくその男性を見ていたが、相当そうとうお疲れなようで、全く起きる気配けはいもないし、僕は奥の間に祈りに行きたいだけなので……考えた結果、そのまま通りすぎることにした。

 そもそもよく考えたら、侵入者しんにゅうしゃなのは、僕の方なのだ。
 だから、その男性を起こさないように、僕はそぉっと、なるべく音を立てずに奥の間に進み、祈りを終えて帰る時も、自分は空気に一部だとおのれに言いきかせ……極力足音をさせず、息をも殺して、可及的かきゅうてきすみやかに、僕は退室することに成功した。
 無事、教会から出られてホッとした僕は、このままこの事は忘れてしまおうと心に決め、足早に来た道を戻っていった。

 僕はあの男性を見たことを忘れてしまおう……と思ったが、それは出来なかった。
 なぜならそれからも時々、あの金髪の男性は、同じ場所の同じ姿勢しせいで、同じくグッスリと眠っていたからだ。
 それに不思議な事に、その男性を見かける時は、セリム様が同席されていない時ばかりなのだ。
 だから結果的に、僕は誰にもその事を話すことはなかった。
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