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第3章 王宮生活<始動編>
33、新たな出会い<前>
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「さあ、お水だよ。
いっぱい浴びて、綺麗な花を咲かせてくれたら、嬉しいな」
動きやすそうだからという理由で、神官服のデザインそのままの服を、仕立てさせた僕。
結果、侍女の忠告通り、新入りの神官と間違われ、住んでいる所から少し距離がある、この庭園の水やりを命じられたのだが……暇を持て余していた僕は、言われた通り嬉々としてこの仕事を行っていた。
しかも最近、提供される食事を受け取る時ぐらいしか、人と話していないせいか……思わず、水やりをしながら植物たちに話しかけてしまう。
我ながら虚しさを感じ……ふと手を止めて、雲一つない真っ青な空を見上げた。
想うことはただ一つ……故郷に帰りたい
すぐには叶えられそうにない願いを、今日もため息一つで振り払って、ほぼ日課になりつつあるこの水やりを手早く終わらせた。
この時折訪れる憂鬱さを、どうにかしたいなぁ~と考えていると、すっかり忘れていた、ある事を僕は思い出した。
そうだ!
僕には、もう一つやる事が増えたんだった!!
それは少し前に、いつも通り水やりをしていた時のことだった。
その日はなぜだか、この庭園を周囲から隠すかのように囲んでいる生垣の奥が、僕はどうしてもすごく気になってしまった。
何かに導かれるように、フラフラとその生垣に近付いてみると、一箇所だけ、人一人分通れるような、僅かな隙間が空いているのを発見したのだった。
思わず湧き上がる好奇心を抑えきれずに、その隙間を通り抜けると、今度は結構急な傾斜がある坂道が、僕の目の前に現れた。
もちろん、僕は何かに押されるかのように、坂道を登って行く。
まるで螺旋階段のように坂道はグルグルと続き……やがて小高い丘に辿り着いた。
少し息を弾ませた僕の前には、壁一面ガラス張りの……規模は小さいが、洗練された教会が佇んでいた。
入ってみたい!という誘惑には勝てず、玄関扉のノブを回すと、鍵はかかっておらず……なぜかその時は入るのが当然な気がして、スルッと室内へ足を踏み入れる。
室内に続くアプローチを抜けると、そこは教会内とは思えないほど、優雅で上品な空間が、待ち構えていた。
壁一面がガラス張りなせいか、惜しみなく日光がキラキラと降り注ぎ、思わず僕は、わあぁっと感嘆の声を漏らしてしまう。
太陽光の恩恵を目一杯受け入れる窓の側には、座り心地が良さそうなソファセットと小さなガラステーブルが置いてあった。
ここで一時でもお昼寝したら、最高だろうなぁ
教会内であることも忘れて、不謹慎な感想を抱くと、もっとここから見える景色を堪能したくて、僕は窓際に駆け寄った。
そこで発見したのだ!
この窓からは、僕が(勝手に)水やりを担当している庭園全体が見えることを。
つまりこの教会は、あの庭園を見下ろせる位置に建っているのであった。
この教会を発見した日を思い出しながら、僕はその優雅で安らぎに満ちた空間を通り抜けると、更に奥へと向かう。
僕がやりたい事は、この奥の場所にあったからだ。
10歩くらいだろうか、そのまま奥へ進むと、国教神グーノーが祀られた、小さな祈りの間が現れる。
その場所は、先ほどの寛げるソファセットとは真反対で、真っ白な壁に囲まれ、とても厳かな空間になっていた。
僕はいつものように祭壇の前に跪くと、胸の辺りで、両手の指を交互に組み、ゆっくりと両目を瞑った後、頭を垂れて、祈りを捧げる。
祈りの内容は日々異なるが、生かされている感謝と、番であり、国防のために戦地で奮闘しているシルヴィス様の無事や領地にいる家族の無事は、必ず祈るようしていた。
ひとしきり、自分が満足するまで無心に祈りを捧げると、そのうち足先から頭まで必ず身体全体がフワッと暖かさで包まれる。
いつもその熱が冷めるのを待ってから、祈りを終え、立ち上がって帰るのだが……今日は立ち上がって帰ろうとした瞬間、背後に気配を感じた。
いっぱい浴びて、綺麗な花を咲かせてくれたら、嬉しいな」
動きやすそうだからという理由で、神官服のデザインそのままの服を、仕立てさせた僕。
結果、侍女の忠告通り、新入りの神官と間違われ、住んでいる所から少し距離がある、この庭園の水やりを命じられたのだが……暇を持て余していた僕は、言われた通り嬉々としてこの仕事を行っていた。
しかも最近、提供される食事を受け取る時ぐらいしか、人と話していないせいか……思わず、水やりをしながら植物たちに話しかけてしまう。
我ながら虚しさを感じ……ふと手を止めて、雲一つない真っ青な空を見上げた。
想うことはただ一つ……故郷に帰りたい
すぐには叶えられそうにない願いを、今日もため息一つで振り払って、ほぼ日課になりつつあるこの水やりを手早く終わらせた。
この時折訪れる憂鬱さを、どうにかしたいなぁ~と考えていると、すっかり忘れていた、ある事を僕は思い出した。
そうだ!
僕には、もう一つやる事が増えたんだった!!
それは少し前に、いつも通り水やりをしていた時のことだった。
その日はなぜだか、この庭園を周囲から隠すかのように囲んでいる生垣の奥が、僕はどうしてもすごく気になってしまった。
何かに導かれるように、フラフラとその生垣に近付いてみると、一箇所だけ、人一人分通れるような、僅かな隙間が空いているのを発見したのだった。
思わず湧き上がる好奇心を抑えきれずに、その隙間を通り抜けると、今度は結構急な傾斜がある坂道が、僕の目の前に現れた。
もちろん、僕は何かに押されるかのように、坂道を登って行く。
まるで螺旋階段のように坂道はグルグルと続き……やがて小高い丘に辿り着いた。
少し息を弾ませた僕の前には、壁一面ガラス張りの……規模は小さいが、洗練された教会が佇んでいた。
入ってみたい!という誘惑には勝てず、玄関扉のノブを回すと、鍵はかかっておらず……なぜかその時は入るのが当然な気がして、スルッと室内へ足を踏み入れる。
室内に続くアプローチを抜けると、そこは教会内とは思えないほど、優雅で上品な空間が、待ち構えていた。
壁一面がガラス張りなせいか、惜しみなく日光がキラキラと降り注ぎ、思わず僕は、わあぁっと感嘆の声を漏らしてしまう。
太陽光の恩恵を目一杯受け入れる窓の側には、座り心地が良さそうなソファセットと小さなガラステーブルが置いてあった。
ここで一時でもお昼寝したら、最高だろうなぁ
教会内であることも忘れて、不謹慎な感想を抱くと、もっとここから見える景色を堪能したくて、僕は窓際に駆け寄った。
そこで発見したのだ!
この窓からは、僕が(勝手に)水やりを担当している庭園全体が見えることを。
つまりこの教会は、あの庭園を見下ろせる位置に建っているのであった。
この教会を発見した日を思い出しながら、僕はその優雅で安らぎに満ちた空間を通り抜けると、更に奥へと向かう。
僕がやりたい事は、この奥の場所にあったからだ。
10歩くらいだろうか、そのまま奥へ進むと、国教神グーノーが祀られた、小さな祈りの間が現れる。
その場所は、先ほどの寛げるソファセットとは真反対で、真っ白な壁に囲まれ、とても厳かな空間になっていた。
僕はいつものように祭壇の前に跪くと、胸の辺りで、両手の指を交互に組み、ゆっくりと両目を瞑った後、頭を垂れて、祈りを捧げる。
祈りの内容は日々異なるが、生かされている感謝と、番であり、国防のために戦地で奮闘しているシルヴィス様の無事や領地にいる家族の無事は、必ず祈るようしていた。
ひとしきり、自分が満足するまで無心に祈りを捧げると、そのうち足先から頭まで必ず身体全体がフワッと暖かさで包まれる。
いつもその熱が冷めるのを待ってから、祈りを終え、立ち上がって帰るのだが……今日は立ち上がって帰ろうとした瞬間、背後に気配を感じた。
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