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第2章 王宮生活<準備編>

27、自分らしさの奪還(だっかん)

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 一応いちおう爵位しゃくいはあるものの、単なる北の一領地いちりょうちぎない環境で育った僕は、当たり前だが、今まで身支度みじたくは自分でおこなってきた。

 だけど、今は、まだ時折ときおり身体がふらつくため、レイラ様が僕につけてくれた侍女じじょのサラとリリーが手伝ってくれている。

 特にサラは、よそおうことを手伝うのが大好きなようで、腰まである僕の長い髪も、いつもってみ込んでくれたり、服や装飾品そうしょくひんなども、楽しそうに毎回はなやかに着付きつけてくれた。

 髪の色や目の色が変わったせいで、以前の僕とはちがい、明るい色も似合にあうようになってきたが……はなやかなよそおいをまとうかがみの中の自分を見るたびに、別人べつじんがいるようで、いつまでたっても今の姿を、僕は自分のものとしてみとめることができなかった。

 僕が生活している場所は、つがいで夫であるシルヴィス様に与えられている王宮の一角いっかくを、そのまま使わせてもらっている。

 自由に使ってもらってかまわないという伝言を、僕はシルヴィス様より受け取っていると同時に、周知しゅうちもされていた。

 とはいえ、あくまでもあるじはシルヴィス様であり、部屋の改装かいそうなどの勝手はできないし、する気もない。

 だから、ここで生きていくという現実感げんじつかんを取り戻すために、まず僕は、馴染なじみのある姿形すがたかたちにしたいという気持ちが、に強くなっていった。

「今日もお綺麗きれいです、レンヤード様」

 侍女じじょのサラが満面まんめんの笑みを浮かべて言ってくれる。

 支度したくととのった僕を、全身がうつし出される大鏡おおかがみの前へ立つよう、ふらつく身体を支えられながら誘導ゆうどうされた。

 そこにうつしだされたのは、身につけている全てのものに、手がかかっているとひと目で分かる、絢爛けんらんころも装飾品そうしょくひん着飾きかざったオメガが、たたずんでいた。

 シルヴィス様とつがったのと、年単位ねんたんい寝込ねこんでいたせいか、僕の身体つきは一見いっけん男性体でありながらも、全体的に線が細く、華奢きゃしゃで、しなやかに丸みをびた女性体にも近づいた、なんとも不思議で独特どくとくな身体的魅力みりょくをもつ、オメガ性の特徴とくちょうそのものの姿になっていた。

 そのオメガ性の身体からだつきを受容じゅようして喜び、美しさや着飾きかざることに関心があったライとはちがい、そちら方面に全く関心がない僕。

 何か行事があるわけではないのに、日常の身支度みじたくを時間をかけておこなうことについて、僕がその必要性を全く感じないこともかさなり、次第しだい苦痛くつうの時間に変わっていった。

 今日は結婚式があるのか……いやいやそうじゃない、普通の日だ……なのに、何でこんなに着飾きかざる必要がある?

 家で領地りょうち経営をしていたら、この長い時間を使って、何枚もの書類決済けっさいが済んだだろうに……

 毎日のように、このような同じ思考しこうがグルグルと頭の中に渦巻うずまいていく。

 だが、ここ王宮は僕にとって全く知らない場所。

 ライにつかえていた2人の言うことが、この場所でのルールだと思い、全て大人しくしたがっていた。

 だけどそれじゃダメだ。

 僕はまるでいつも夢の続きにいるようで、ふわふわしていて、ちっとも現実味げんじつみがない。

 とても地に足をつけて生きている感覚が、僕にはられてなかった。

 よし、今日こそは、自分の意見を言うぞ!

 その前にいつものろうをねぎらわなければ!

 僕は、出来るだけ、にこやかにサラに声をかけた。

「いつもありがとう、サラ」

「そんな、レンヤード様、わざわざお礼なんて。
 でも、さすがご兄弟ですね。
 ライヨーダ様も絶世ぜっせいのオメガ性でしたが、レンヤード様もまたタイプがちがう、目もくらむような美貌びぼうをお持ちです。

 仕事とはいえ、私、レンヤード様の魅力みりょくをよりかがやかせるこの時間が、すっごく好きで、楽しいです」
 
 キラキラとかがやく笑顔でサラにそう言われると、すごくこの後のことが言いづらい。

 でも、僕らしくこの場所で生きていくために、勇気ゆうきを出して言わなければ!

「あっ、あのね、サラ。
 申し訳ないんだけど、これからは、もっとシンプルな服装ふくそうにしてほしいなぁ……」

「えっ、何でですか?」

 キョトンとした表情でサラに問い返された。

「僕は、その、日常は、あんまりよそおうことが必要ない……というか……そのぉ」

 言いづらさのせいか、言葉がかえってぎ落とされてしまい、あまりにも単刀直入たんとうちょくにゅうに、僕の本音ほんねき出しになってしまった。

「日常生活はよそおう必要がない……と?
 シルヴィス将軍の妃なのにぃ?」

 回答するサラの声がワンオクターブ低くなった。
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