27 / 102
第2章 王宮生活<準備編>
26、偉大なる姉心(あねごころ)
しおりを挟む
どれだけの時間、姉様の肩を借りて泣き続けたであろうか……
現実の時間に追いつけない焦燥感や、テオに対する恋情を封印しなければならない理不尽さ、望んでもいない高貴な身分への拒否感など、今にも飛び出してきそうな複雑な黒い感情の合成体を、身を切るような鋭い痛みを感じながら、慟哭に乗せて、僕の身体から吐き出していった。
姉様は何も言わず、僕が感情を発散させることに付き合ってくれた。
ようやく何もかもが抜け落ち、僕の心身が空っぽになったことで、姉様が声をかけてくれた。
「ねえ、レン、とても残念だけど、これから私は領地へ帰らないといけないの」
姉様の言葉を聞いて、僕は愕然とした。
「えっ?もう?」
ショックのあまり固まる僕の頬を、姉様は優しく撫ででくれる。
「そうなの、実はあなたが目覚めた時、帰郷の挨拶をレイラ様にしていたところなの。
逆に、だからこそ、あなたが目覚めた時に一番に駆けつけることができたのよ」
「そうだったんだ……目が覚めた時、姉様がいてくれて、どれだけ僕が安心したか……本当にありがとう。
もし姉様がいなかったら、僕はパニックを起こして暴れていたと思うし、現実を把握するのも、かなり時間がかかっていたと思う。
でも、ワガママを言うようだけど、もっともっと、姉様と一緒にいたかったな」
枯れたはずの涙が、再び僕の目に盛り上がってきた。
「そうね、私も、レンともっと一緒にいたかった。
せめて、今、レンの側にシルヴィス様がいらしたら……と思うけど、残念ながら、ご不在だしね」
姉様は、グッと顔を僕に近づけると、幾分、声を落として僕に助言された。
「レン、もう、道は決められてしまったの。
今さらグズグズ言ってないで、早めに覚悟を決めることよ。
それと、一見、煌びやかにみえるこの場所だけど、見えない何かが潜んでいることが多い。
ライと違って、田舎で領地経営している世界しか知らないあなたは、残念ながら、これから苦労することが多いと思う。
いくら、シルヴィス様やレイラ様が後ろ盾として味方になってくれるとしても、お2人ともご自分の責務があるから、常に、レンの側にいることはできないわ。
この複雑な王宮で、生き抜くためには、まずはしっかりと自分を持つことよ。
神の愛し子である、あなたなら、きっと頑張って乗り越えていけるはず。
それでも、どうしようもなく辛い時は、姉様の元へ帰ってきなさい。
努力家のあなたが、もうダメだと思う時は、よっぽどの時よ。
その時は、周りに構うことなく、すぐに帰ってくるのよ。
いつでも、待っているから。
くれぐれも思い詰めないでね」
あまりにも重い言葉に、僕は何も言い出せなかったが、我慢できずに、また涙だけが止まらず次々と溢れ落ちる。
「レン、なんであなただけに、こんなことが起こるのかしら……ううっ……不憫な……でも、愛し子のあなたには、神のご加護があるわ。
きっと幸せになるはず」
姉様の目からも、涙が溢れ出す。
姉様は、もう一度だけ僕をギュッと抱きしめてから、何かを振り切るように、部屋から出ていった。
僕は、ただ、見送るしかなかった。
そして、この姉様の助言は、これから僕が王宮生活をおくる中で、大きな心の支えになっていった。
姉様を見送ってから疲労を感じた僕は、そのまま眠ってしまった。
どうやら3年という年月を、目覚めてすぐ受け止めるには、心身が追いつかなかったようで……その夜から僕は高熱を出して、また寝込んでしまった。
シルヴィス様が手配してくれ、僕が目覚める前からずっと僕の身体を診てくれていた医師団や、恐れ多くも、僕の義母上になられたレイラ様が、僕のところへ何度も足を運んでくれた。
そんな人々の支えもあり、ようやく自分の力で僕が歩けるようになったのは、目覚めてから3ヶ月が経った頃だった。
現実の時間に追いつけない焦燥感や、テオに対する恋情を封印しなければならない理不尽さ、望んでもいない高貴な身分への拒否感など、今にも飛び出してきそうな複雑な黒い感情の合成体を、身を切るような鋭い痛みを感じながら、慟哭に乗せて、僕の身体から吐き出していった。
姉様は何も言わず、僕が感情を発散させることに付き合ってくれた。
ようやく何もかもが抜け落ち、僕の心身が空っぽになったことで、姉様が声をかけてくれた。
「ねえ、レン、とても残念だけど、これから私は領地へ帰らないといけないの」
姉様の言葉を聞いて、僕は愕然とした。
「えっ?もう?」
ショックのあまり固まる僕の頬を、姉様は優しく撫ででくれる。
「そうなの、実はあなたが目覚めた時、帰郷の挨拶をレイラ様にしていたところなの。
逆に、だからこそ、あなたが目覚めた時に一番に駆けつけることができたのよ」
「そうだったんだ……目が覚めた時、姉様がいてくれて、どれだけ僕が安心したか……本当にありがとう。
もし姉様がいなかったら、僕はパニックを起こして暴れていたと思うし、現実を把握するのも、かなり時間がかかっていたと思う。
でも、ワガママを言うようだけど、もっともっと、姉様と一緒にいたかったな」
枯れたはずの涙が、再び僕の目に盛り上がってきた。
「そうね、私も、レンともっと一緒にいたかった。
せめて、今、レンの側にシルヴィス様がいらしたら……と思うけど、残念ながら、ご不在だしね」
姉様は、グッと顔を僕に近づけると、幾分、声を落として僕に助言された。
「レン、もう、道は決められてしまったの。
今さらグズグズ言ってないで、早めに覚悟を決めることよ。
それと、一見、煌びやかにみえるこの場所だけど、見えない何かが潜んでいることが多い。
ライと違って、田舎で領地経営している世界しか知らないあなたは、残念ながら、これから苦労することが多いと思う。
いくら、シルヴィス様やレイラ様が後ろ盾として味方になってくれるとしても、お2人ともご自分の責務があるから、常に、レンの側にいることはできないわ。
この複雑な王宮で、生き抜くためには、まずはしっかりと自分を持つことよ。
神の愛し子である、あなたなら、きっと頑張って乗り越えていけるはず。
それでも、どうしようもなく辛い時は、姉様の元へ帰ってきなさい。
努力家のあなたが、もうダメだと思う時は、よっぽどの時よ。
その時は、周りに構うことなく、すぐに帰ってくるのよ。
いつでも、待っているから。
くれぐれも思い詰めないでね」
あまりにも重い言葉に、僕は何も言い出せなかったが、我慢できずに、また涙だけが止まらず次々と溢れ落ちる。
「レン、なんであなただけに、こんなことが起こるのかしら……ううっ……不憫な……でも、愛し子のあなたには、神のご加護があるわ。
きっと幸せになるはず」
姉様の目からも、涙が溢れ出す。
姉様は、もう一度だけ僕をギュッと抱きしめてから、何かを振り切るように、部屋から出ていった。
僕は、ただ、見送るしかなかった。
そして、この姉様の助言は、これから僕が王宮生活をおくる中で、大きな心の支えになっていった。
姉様を見送ってから疲労を感じた僕は、そのまま眠ってしまった。
どうやら3年という年月を、目覚めてすぐ受け止めるには、心身が追いつかなかったようで……その夜から僕は高熱を出して、また寝込んでしまった。
シルヴィス様が手配してくれ、僕が目覚める前からずっと僕の身体を診てくれていた医師団や、恐れ多くも、僕の義母上になられたレイラ様が、僕のところへ何度も足を運んでくれた。
そんな人々の支えもあり、ようやく自分の力で僕が歩けるようになったのは、目覚めてから3ヶ月が経った頃だった。
175
お気に入りに追加
1,105
あなたにおすすめの小説
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
悪役令息の死ぬ前に
やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる