25 / 112
第2章 王宮生活<準備編>
24、相反する理解と納得
しおりを挟む
「結婚……した?
そんな……勝手に……どうして」
きちんと音声にする気力もなくなり、呟くように言った途端、脳裏にシルヴィス様の声が蘇った。
「もしかして……領地に問題が?」
小さな声に出しただけなのに、姉様はすぐ反応してくれた。
「そう、そうなのよ、レン、ちょうどいい機会というのは建前で……本当は……私たちの領地を救うためなの」
姉様の淀みない答えに、兼ねてから聞いてみたかったことを思い出した。
「姉様は『加護持ち』って言葉知ってる?」
「ええ、知ってるわ」
当たり前のように答える姉様に、僕はやり場のない気持ちをぶつける。
「シルヴィス様から、僕が加護持ちだと教えられたんだ。
もしかして姉様は、僕が加護持ちだって、前から知ってたの?
もし知っていたなら、予め、教えて欲しかったな」
姉様にとっては、理不尽な八つ当たりになるはずなのに、いつものように僕の気持ちに寄り添い、受け止めてくれる。
「ライと共に、あなたたち2人が、国教会の洗礼を受けた時に、普段冷静な神官様たちが大騒ぎしたことは、朧げながら覚えているわ。
その時に母様から、レンは特別な子だった……とだけ言われたの。
その時点で、我が領の跡継ぎがあなたに決まった。
ただ元々、私は他へ嫁ぐと決まっていたし、あなたたちは双子とはいえ、レンの方が兄だから順番的にあなたが継ぐんだなぁ……としか思わなかったわ。
大きくなるにつれて知ったことは、大領主様と神官様が折に触れて、レンを気にかけていたぐらいかしら。
あとは……オメガ性ってこともあったけど、2人にというか、特にあなたに護衛をつけることと、レンだけは領地から離れさせないようにという命令が、大領主様と神官様からされていたことを母様から聞いたけど……跡取りだから大切にせよ……という意味合いでしか私は捉えてなかったわ。
だって、レンが誰かの怪我を治すとか、特別な力を持つとかではなかったし、性格の違いとはいえ、レンよりライのほうが何かと話題性があり、常に周囲が華やかだったから……だけどね」
「だけどって何?」
初めて聞く話ばかりで、いつの間にか、憤る気持ちが僕の中から消えた。
それどころか息を飲んで、姉様の話に耳を傾ける。
「レンが特別な子だ……と母様たちが言った本当の意味が分かったのは、あなたが眠っていたこの3年間だった。
この3年……あなたが故郷の領地から去って、まずは気候が激変した。
変わったというか……残っている領地のお年寄りが言うには、元に戻っただけだと悲しい声で言われたけどね。
言われてみれば、確かにあの地は極寒の北の地で……冬は長く、分厚い雪で常に覆われている。
日照時間も短く、土地は肥沃とはほど遠いわ。
むしろ本来は、痩せている土地だったから、育つ作物は限られ、量もそれほど穫れない。
恵まれていた夢みたいな状況からの変化に、人ってすぐに対応が出来なくて……早々に大勢の領民は逃げ出し、あの地方が廃れるのは、あっという間だった。
シルヴィス様の個人的援助がなければ……1年も持たなかったわ」
「だったら、尚更、僕はすぐ領地に帰らないと!!」
姉様の言葉に被せるように僕は提案した。
「確かに、加護の者がいる土地は、言い伝え通り栄えるの。
レンが去った私たちの領地は衰えたけど、その代わりレンがいたここ王都は、この3年治安が安定し、さらに活気が出てきたわ。
加護のことを知らない人々は、新しい王様の手腕だと言っているけれど……レンという存在が大きい、と王様も認められているとシルヴィス様から言われたの」
「そんな……王都なんか僕はどうでもいいんだよ。
僕たちの領地のほうが、大事に決まっている!」
僕はすかさず、必死に姉様に訴えた。
まるで駄々を捏ねる小さな子を宥めるように、姉様は僕の両頬を両手で包んでくれ、しっかりと目線を合わせてこう言った。
「北の小さな1つの領地が栄えるよりも、王都の安定と繁栄のほうが大切だから理解してほしいと、王家の意向とはいえ、ほぼ王命に近い形でレンが王宮に住むことが、既に私たちには伝えられているの。
同時に、レン不在の損失を補填するための援助を、惜しまないこともね」
一つため息をついてから、更に姉様は、むしろこちらの方が大事とばかりに僕に告げた。
「それに、レン、あなたはシルヴィス様の運命だったわ。
色んな代償は払ったかもしれないけど、逆らわず番ったことで、あなた自身も、それにこの王国での防衛の要である、シルヴィス様の命を救った。
バース性にとって、運命と出逢い番うことは、お互いに心身ともに落ち着くし、幸せなことだと思うの」
「でも、姉様、いくら国のためにとはいえ、結果的に僕の大事なライとテオが犠牲になった……僕は納得ができないよ」
上手く説明出来ない、なんとも言えない悔しさを……僕は上手く消化できないでいた。
そんな……勝手に……どうして」
きちんと音声にする気力もなくなり、呟くように言った途端、脳裏にシルヴィス様の声が蘇った。
「もしかして……領地に問題が?」
小さな声に出しただけなのに、姉様はすぐ反応してくれた。
「そう、そうなのよ、レン、ちょうどいい機会というのは建前で……本当は……私たちの領地を救うためなの」
姉様の淀みない答えに、兼ねてから聞いてみたかったことを思い出した。
「姉様は『加護持ち』って言葉知ってる?」
「ええ、知ってるわ」
当たり前のように答える姉様に、僕はやり場のない気持ちをぶつける。
「シルヴィス様から、僕が加護持ちだと教えられたんだ。
もしかして姉様は、僕が加護持ちだって、前から知ってたの?
もし知っていたなら、予め、教えて欲しかったな」
姉様にとっては、理不尽な八つ当たりになるはずなのに、いつものように僕の気持ちに寄り添い、受け止めてくれる。
「ライと共に、あなたたち2人が、国教会の洗礼を受けた時に、普段冷静な神官様たちが大騒ぎしたことは、朧げながら覚えているわ。
その時に母様から、レンは特別な子だった……とだけ言われたの。
その時点で、我が領の跡継ぎがあなたに決まった。
ただ元々、私は他へ嫁ぐと決まっていたし、あなたたちは双子とはいえ、レンの方が兄だから順番的にあなたが継ぐんだなぁ……としか思わなかったわ。
大きくなるにつれて知ったことは、大領主様と神官様が折に触れて、レンを気にかけていたぐらいかしら。
あとは……オメガ性ってこともあったけど、2人にというか、特にあなたに護衛をつけることと、レンだけは領地から離れさせないようにという命令が、大領主様と神官様からされていたことを母様から聞いたけど……跡取りだから大切にせよ……という意味合いでしか私は捉えてなかったわ。
だって、レンが誰かの怪我を治すとか、特別な力を持つとかではなかったし、性格の違いとはいえ、レンよりライのほうが何かと話題性があり、常に周囲が華やかだったから……だけどね」
「だけどって何?」
初めて聞く話ばかりで、いつの間にか、憤る気持ちが僕の中から消えた。
それどころか息を飲んで、姉様の話に耳を傾ける。
「レンが特別な子だ……と母様たちが言った本当の意味が分かったのは、あなたが眠っていたこの3年間だった。
この3年……あなたが故郷の領地から去って、まずは気候が激変した。
変わったというか……残っている領地のお年寄りが言うには、元に戻っただけだと悲しい声で言われたけどね。
言われてみれば、確かにあの地は極寒の北の地で……冬は長く、分厚い雪で常に覆われている。
日照時間も短く、土地は肥沃とはほど遠いわ。
むしろ本来は、痩せている土地だったから、育つ作物は限られ、量もそれほど穫れない。
恵まれていた夢みたいな状況からの変化に、人ってすぐに対応が出来なくて……早々に大勢の領民は逃げ出し、あの地方が廃れるのは、あっという間だった。
シルヴィス様の個人的援助がなければ……1年も持たなかったわ」
「だったら、尚更、僕はすぐ領地に帰らないと!!」
姉様の言葉に被せるように僕は提案した。
「確かに、加護の者がいる土地は、言い伝え通り栄えるの。
レンが去った私たちの領地は衰えたけど、その代わりレンがいたここ王都は、この3年治安が安定し、さらに活気が出てきたわ。
加護のことを知らない人々は、新しい王様の手腕だと言っているけれど……レンという存在が大きい、と王様も認められているとシルヴィス様から言われたの」
「そんな……王都なんか僕はどうでもいいんだよ。
僕たちの領地のほうが、大事に決まっている!」
僕はすかさず、必死に姉様に訴えた。
まるで駄々を捏ねる小さな子を宥めるように、姉様は僕の両頬を両手で包んでくれ、しっかりと目線を合わせてこう言った。
「北の小さな1つの領地が栄えるよりも、王都の安定と繁栄のほうが大切だから理解してほしいと、王家の意向とはいえ、ほぼ王命に近い形でレンが王宮に住むことが、既に私たちには伝えられているの。
同時に、レン不在の損失を補填するための援助を、惜しまないこともね」
一つため息をついてから、更に姉様は、むしろこちらの方が大事とばかりに僕に告げた。
「それに、レン、あなたはシルヴィス様の運命だったわ。
色んな代償は払ったかもしれないけど、逆らわず番ったことで、あなた自身も、それにこの王国での防衛の要である、シルヴィス様の命を救った。
バース性にとって、運命と出逢い番うことは、お互いに心身ともに落ち着くし、幸せなことだと思うの」
「でも、姉様、いくら国のためにとはいえ、結果的に僕の大事なライとテオが犠牲になった……僕は納得ができないよ」
上手く説明出来ない、なんとも言えない悔しさを……僕は上手く消化できないでいた。
211
お気に入りに追加
1,190
あなたにおすすめの小説


王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?
人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途なαが婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。
・五話完結予定です。
※オメガバースでαが受けっぽいです。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中

勘弁してください、僕はあなたの婚約者ではありません
りまり
BL
公爵家の5人いる兄弟の末っ子に生まれた私は、優秀で見目麗しい兄弟がいるので自由だった。
自由とは名ばかりの放置子だ。
兄弟たちのように見目が良ければいいがこれまた普通以下で高位貴族とは思えないような容姿だったためさらに放置に繋がったのだが……両親は兎も角兄弟たちは口が悪いだけでなんだかんだとかまってくれる。
色々あったが学園に通うようになるとやった覚えのないことで悪役呼ばわりされ孤立してしまった。
それでも勉強できるからと学園に通っていたが、上級生の卒業パーティーでいきなり断罪され婚約破棄されてしまい挙句に学園を退学させられるが、後から知ったのだけど僕には弟がいたんだってそれも僕そっくりな、その子は両親からも兄弟からもかわいがられ甘やかされて育ったので色々な所でやらかしたので顔がそっくりな僕にすべての罪をきせ追放したって、優しいと思っていた兄たちが笑いながら言っていたっけ、国外追放なので二度と合わない僕に最後の追い打ちをかけて去っていった。
隣国でも噂を聞いたと言っていわれのないことで暴行を受けるが頑張って生き抜く話です
あなたは僕の運命の番 出会えた奇跡に祝福を
羽兎里
BL
本編完結いたしました。覗きに来て下さった方々。本当にありがとうございました。
番外編を開始しました。
優秀なαの兄達といつも比べられていたΩの僕。
αの父様にも厄介者だと言われていたけど、それは仕方がない事だった。
そんな僕でもようやく家の役に立つ時が来た。
αであるマティアス様の下に嫁ぐことが決まったんだ。
たとえ運命の番でなくても僕をもらってくれると言う優しいマティアス様。
ところが式まであとわずかというある日、マティアス様の前に運命の番が現れてしまった。
僕はもういらないんだね。
その場からそっと僕は立ち去った。
ちょっと切ないけれど、とても優しい作品だと思っています。
他サイトにも公開中。もう一つのサイトにも女性版の始めてしまいました。(今の所シリアスですが、どうやらギャグ要素満載になりそうです。)

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m
オメガの復讐
riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。
しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。
とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる