23 / 111
第2章 王宮生活<準備編>
22、新たな生活に向けて
しおりを挟む
ようやく涙が止まった所で、ユリア姉様の背後から、新たな声がかけられた。
「レン……目覚めてくれて本当に良かった」
その重厚な声に目を向けると、シルヴィス様のお母様、第二妃レイラ様が立っておられた。
姉様は咄嗟に立ち上がり、レイラ様に対して礼を取る。
僕も慌てて起き上がろうとしたが、全く身体が言うことを聞かなかった。
「あっ……あっのぉ……ゲホッゲホッ」
弁明をしようとしたが、情け無いことに発した言葉は一語だけ、しかも高貴な方の前で、咳き込んでしまう。
「よいよい、長い間、意識がなかったのだ。
起き上がれるまでは、しばらくかかるだろう。
それにしても……十分な栄養も摂らず、ほぼ水分だけで……よくぞ生きていた。
やはり選ばれし者は違うな」
そうレイラ様は言われると、僕の目線に合わせて跪き、手を握りしめてくれた。
「恐れ……入り……ます」
粗相がないよう、僕はなんとか言葉を捻りだした。
「まずは、しっかり養生して元気になるのが先決じゃ。
今、シルヴィスは遠征しておる。
すぐには戻れないようだから、そなたが目覚めたことを知らせるよう、伝令を出そうと思う。
シルヴィスが側にいなくて、寂しいかもしれないが、少しだけ我慢してくれ。
それと、そなたのことをくれぐれもよろしく頼むと、シルヴィスから言われておる。
シルヴィスが不在の間は、私が後見人だ。
遠慮せず、何でも申し出るがよい。
最後に、その身体じゃ何かと不便であろう。
そなたに侍女を2人付けようと思う。
今から紹介しても構わないか?」
もちろん僕に異存はなく、急いで頷いた。
レイラ様の「こちらへ」という言葉と同時に2人の女性が姿を見せる。
1人は知っていた……というか、僕が一度目覚めた時に、顔を拭いてくれていた、表情豊かな可愛い少女だった。
「サラと申します。よろしくお願いします」
サラが挨拶を終え、一歩下がると、もう1人が一歩前にでた。
こちらは、サラより背が高く、スラリとしている。
髪は青みがかった黒色で、瞳はグレー。
サラとは正反対で、落ち着いた雰囲気の美人だった。
「リリーと申します」
2人を紹介した後で、レイラ様は、ちょっと言いにくそうに切り出した。
「この2人は、こちらで妃教育を受けていた、ライヨーダを補佐していた者たちだ。
そのままレンに付けるのもどうかと迷っていたが……実力はあり、何かと頼れる人物なので、そのままレンに付けることにした。
もちろん、そなたとライヨーダは、色んな面で違うと思う。
そなたが主人になるので、遠慮せずに自分の好みや意向を伝えればよい」
そう僕付けの侍女を紹介したレイラ様は、次の予定が迫っているとのことで足早に退出され、2人の侍女は残っていたが、僕と2人きりで話したいことがあるから……ということで、ユリア姉様が下がらせてくれた。
やっと、姉様と2人だけの空間になる。
しばらく静寂に包まれていたが、居心地はよかった。
だけど僕の中から、言いようも無い不安が次々と込み上げてきて、堪らず姉様へ手を伸ばす。
姉様は、しっかりと僕の手を握ってくれた。
少し心が落ち着き、現実を把握しようと僕が口を開こうとすると、姉様はすかさず、病人用の寝たままで飲める水差しを僕の口に差し出した。
「分かってる、いろいろ聞きたいんでしょう?
でもまずは、飲みなさい。
喉を潤さないと、質問もできないわよ」
姉様に言われるがまま、まずは、身体に水分を入れることを優先させる。
水が喉を通過するたびに……頭も冷静になれる気がした。
僕の気持ちが落ち着くのを見計らっていた姉様は、なるべく僕を動揺させないよう、穏やかな声で話し始める。
「ねぇ、レン、まずは、どうして意識を失ったか覚えている?」
姉様の根本的な質問に、僕もようやく記憶の扉を開ける気になった。
「シルヴィス様と……番に……なって。
あれ?
でもシルヴィス様って……ライが婚約者候補じゃ……僕はテオと……」
話しながら、過去の記憶を辿っていくが、なんだか現実味がなく、まるで劇をみているようなことばかり浮かんでくる。
そのことを姉様に伝えると、姉様は鎮痛な眼差しで僕を見ながら、答えてくれた。
「記憶が混濁しているようだけど……あなたがまるで劇みたいなといった内容が本当のことよ」
「じゃあ、シルヴィス様の番がライではなく、僕なのは本当だったの?」
「ええ、そうよ、しかも……運命の番……ね」
姉様は努めて冷静さを保っていたが、僕の手を握る指が震えている。
真実が痛いなんて……これまで知らなかったし、予想以上の出来事に耳を塞ぎたくなった。
「レン……目覚めてくれて本当に良かった」
その重厚な声に目を向けると、シルヴィス様のお母様、第二妃レイラ様が立っておられた。
姉様は咄嗟に立ち上がり、レイラ様に対して礼を取る。
僕も慌てて起き上がろうとしたが、全く身体が言うことを聞かなかった。
「あっ……あっのぉ……ゲホッゲホッ」
弁明をしようとしたが、情け無いことに発した言葉は一語だけ、しかも高貴な方の前で、咳き込んでしまう。
「よいよい、長い間、意識がなかったのだ。
起き上がれるまでは、しばらくかかるだろう。
それにしても……十分な栄養も摂らず、ほぼ水分だけで……よくぞ生きていた。
やはり選ばれし者は違うな」
そうレイラ様は言われると、僕の目線に合わせて跪き、手を握りしめてくれた。
「恐れ……入り……ます」
粗相がないよう、僕はなんとか言葉を捻りだした。
「まずは、しっかり養生して元気になるのが先決じゃ。
今、シルヴィスは遠征しておる。
すぐには戻れないようだから、そなたが目覚めたことを知らせるよう、伝令を出そうと思う。
シルヴィスが側にいなくて、寂しいかもしれないが、少しだけ我慢してくれ。
それと、そなたのことをくれぐれもよろしく頼むと、シルヴィスから言われておる。
シルヴィスが不在の間は、私が後見人だ。
遠慮せず、何でも申し出るがよい。
最後に、その身体じゃ何かと不便であろう。
そなたに侍女を2人付けようと思う。
今から紹介しても構わないか?」
もちろん僕に異存はなく、急いで頷いた。
レイラ様の「こちらへ」という言葉と同時に2人の女性が姿を見せる。
1人は知っていた……というか、僕が一度目覚めた時に、顔を拭いてくれていた、表情豊かな可愛い少女だった。
「サラと申します。よろしくお願いします」
サラが挨拶を終え、一歩下がると、もう1人が一歩前にでた。
こちらは、サラより背が高く、スラリとしている。
髪は青みがかった黒色で、瞳はグレー。
サラとは正反対で、落ち着いた雰囲気の美人だった。
「リリーと申します」
2人を紹介した後で、レイラ様は、ちょっと言いにくそうに切り出した。
「この2人は、こちらで妃教育を受けていた、ライヨーダを補佐していた者たちだ。
そのままレンに付けるのもどうかと迷っていたが……実力はあり、何かと頼れる人物なので、そのままレンに付けることにした。
もちろん、そなたとライヨーダは、色んな面で違うと思う。
そなたが主人になるので、遠慮せずに自分の好みや意向を伝えればよい」
そう僕付けの侍女を紹介したレイラ様は、次の予定が迫っているとのことで足早に退出され、2人の侍女は残っていたが、僕と2人きりで話したいことがあるから……ということで、ユリア姉様が下がらせてくれた。
やっと、姉様と2人だけの空間になる。
しばらく静寂に包まれていたが、居心地はよかった。
だけど僕の中から、言いようも無い不安が次々と込み上げてきて、堪らず姉様へ手を伸ばす。
姉様は、しっかりと僕の手を握ってくれた。
少し心が落ち着き、現実を把握しようと僕が口を開こうとすると、姉様はすかさず、病人用の寝たままで飲める水差しを僕の口に差し出した。
「分かってる、いろいろ聞きたいんでしょう?
でもまずは、飲みなさい。
喉を潤さないと、質問もできないわよ」
姉様に言われるがまま、まずは、身体に水分を入れることを優先させる。
水が喉を通過するたびに……頭も冷静になれる気がした。
僕の気持ちが落ち着くのを見計らっていた姉様は、なるべく僕を動揺させないよう、穏やかな声で話し始める。
「ねぇ、レン、まずは、どうして意識を失ったか覚えている?」
姉様の根本的な質問に、僕もようやく記憶の扉を開ける気になった。
「シルヴィス様と……番に……なって。
あれ?
でもシルヴィス様って……ライが婚約者候補じゃ……僕はテオと……」
話しながら、過去の記憶を辿っていくが、なんだか現実味がなく、まるで劇をみているようなことばかり浮かんでくる。
そのことを姉様に伝えると、姉様は鎮痛な眼差しで僕を見ながら、答えてくれた。
「記憶が混濁しているようだけど……あなたがまるで劇みたいなといった内容が本当のことよ」
「じゃあ、シルヴィス様の番がライではなく、僕なのは本当だったの?」
「ええ、そうよ、しかも……運命の番……ね」
姉様は努めて冷静さを保っていたが、僕の手を握る指が震えている。
真実が痛いなんて……これまで知らなかったし、予想以上の出来事に耳を塞ぎたくなった。
207
お気に入りに追加
1,184
あなたにおすすめの小説
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
あなたは僕の運命の番 出会えた奇跡に祝福を
羽兎里
BL
本編完結いたしました。覗きに来て下さった方々。本当にありがとうございました。
番外編を開始しました。
優秀なαの兄達といつも比べられていたΩの僕。
αの父様にも厄介者だと言われていたけど、それは仕方がない事だった。
そんな僕でもようやく家の役に立つ時が来た。
αであるマティアス様の下に嫁ぐことが決まったんだ。
たとえ運命の番でなくても僕をもらってくれると言う優しいマティアス様。
ところが式まであとわずかというある日、マティアス様の前に運命の番が現れてしまった。
僕はもういらないんだね。
その場からそっと僕は立ち去った。
ちょっと切ないけれど、とても優しい作品だと思っています。
他サイトにも公開中。もう一つのサイトにも女性版の始めてしまいました。(今の所シリアスですが、どうやらギャグ要素満載になりそうです。)

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)
ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。
僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。
隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。
僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。
でも、実はこれには訳がある。
知らないのは、アイルだけ………。
さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。


巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる