「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第1章 番(つがい)になるまで

11、悲痛な叫び

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 互いの指がからみあってつないでいる手を見続けながら、僕は質問を続ける。

「気候の安定に僕が関わっているとは……正直、お話が壮大そうだいすぎて信じられないです。
 もし、気候の安定に人が関わることがあったとしても、僕ではなく他の方という可能性はないのですか?」

 シルヴィス様はいてるもう片方の手で、僕の右頬を包み込んだ。

「先ほど、加護かごの件は秘匿ひとく情報と言ったが、レンは当事者とうじしゃだから、オレが知っている範囲で特別に教えよう」

「お願いします」

 包み込まれた右頬を、シルヴィス様の大きな親指で、そっとなぞられる……少し、くすぐったい。

「まず1つ目は、第一性別が男女どちらであっても、第二性別でオメガ性の者のみに現れるということだ。
 理由は、はっきりと分かっていないが、産む性は大地の加護かごを受けやすいのではないか……と主張する研究者がいる。

 2つ目は、洗礼を行う神官が、神力しんりょくが高ければ見える、あるいは感じることができるらしいが……加護かご持ちのオメガの者は首周りに、通常では見えない保護装置プロテクターを持っているらしい。
 これは、加護かごの力を得ることを目的とした、悪意あるつがい契約をけるためではないかと言われている」

 僕は視線を、つないでいる手から目の前にいるシルヴィス様に戻した。
 僕とシルヴィス様の目も……からみ合い、離れなくなってしまう。

「第3には……身体的欠陥けっかんがあること。
 手や足の指が欠けているなどの四肢しし欠損けっそんや、目が見えない、耳が聞こえないなどの感覚器の障害……こちらも個人によってことなると言われている。
 人の身で膨大ぼうだい神力しんりょくを得ることへの代償だいしょうではないかと解釈されているが、こちらも原因は分かっていない」

 シルヴィス様は、えて触れなかったが……そう、僕には子宮がない。

「自領の気候が安定し、オメガ性である。
 首周りの透明保護装置プロテクターを持ち、身体的欠損けっそんがある。
 レンには加護かご持ちの条件がそろっているのだ」

 そう言うと、シルヴィス様は、僕の額にそっと口づけた。

 思わず、目をつぶってしまう……羽のようにやわらかで優しいキス。
 こんなキスされたら……自分がすごく愛されていると勘違かんちがいしてしまう。

加護かご持ちだったことは、本当に驚いたが、まずはレンがオレのつがいと分かったことが、心の底から嬉しい。

 だが、レンは戸惑とまどっているだろう。
 そしてオレのことを不審ふしんに思っていても不思議ではない。

 長年ながねん婚約者候補としてせっしていた弟から、あっさりと、その兄に乗り替えているからな。
 運命のつがいのことがあるとはいえ、いい印象を与えていないということも分かっている」

 右頬をなぞっていたシルヴィス様の親指が、今度は僕の下唇をゆっくりとなぞる。

「本当に勝手だと思うが、オレの事情を聞いてくれたら有難ありがたい。
 最強アルファと呼ばれることもあるが、ようは、獣性じゅうせいが一番強く現れたのがオレだった。
 成長するにつれてアルファとしての能力も高くなったが、同じくらい獣性じゅうせいも強くなり……特にここ数年は、我を失うほどの衝動を、どうやって統制コントロールするかということに悩んでいた。

 運良く、母上の一族が医学をおさめており……これまではなんとか、薬を使って獣性じゅうせいおさえていた。
 抑制剤よくせいざいなどの研究開発を積極的に支援したり、治験ちけんに参加してその有効性を率先そっせんしてアピールしてきたのも、元は自分のためだからだ。

 ただ、もう薬で獣性じゅうせいおさえ込むには、身体が限界を迎えている。
 今日打っている抑制剤よくせいざいも、他のものが打てば致死量ちしりょうあたいする量なのだ。
 残念ながら、これ以上、薬に頼るわけにはいかない」

 話ながら、シルヴィス様の唇は僕の額から鼻筋にゆっくりと降りていき……鼻の頭にぶつかると……そっと浅く吸った。

軍属ぐんぞくしているのも、獣性じゅうせいと関係がある。
 王族という身分ゆえに将軍職をつとめているが、副官のタナーのほうが優秀だ。

 ただ、このおさえきれない獣性じゅうせいは、合法的に許されることが唯一ある。
 それは、戦争中、敵相手に放出することだ。

 兵器での戦いが主流とはいえ、接近戦もけられない。
 嬉々ききとして先陣せんじんを切って戦いにいどみ、ふと正気に戻ると、自国の勝利と引き換えにオレの足元には……敵国とはいえ、たくさんの死者と負傷者が散らばっている。
 その光景を見るたびに……まるで魂がけずられるような……ひどい痛みが、胸の中にじんわりと広がるのだ」
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