「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第1章 番(つがい)になるまで

10、加護とは

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秘匿ひとくと言ったが正直なところ、『加護かご』の全貌ぜんぼうが分からないため、どちらかというと一部の者しか知らない伝承でんしょうに近いな」

 そう言うとシルヴィス様は、僕の両肩近くにひじをついて、少し上体じょうたいを起こすと、暴れて乱れた僕の髪を優しい手つきでととのえてくれた。

「なぁ、レン。
 そなたが領地を出たのは、もしや、今回が初めてか?」

「はい」

 シルヴィス様は、すごく丁寧に髪をととのえてくれ……それは意識して表情を引き締めていないと、思わずうっとりしてしまいそうな心地良さだった。

「王都につくまでの間、何か感じたことはなかったか?」

 僕の髪をととのえ終えたシルヴィス様は、今度はひたいにかかった僕の前髪を、ゆっくり横へでつける。

「特に…何事もなく、平穏な旅でした。
 今は秋でまだ本格的な冬になっていないので、雪にも困りませんでしたし。
 ただ自領を離れ隣の領地に入った途端とたん、すごく寒くてあわてて外套がいとうを買い求めました。
 領地によってこんなに気候が違うんだなぁと、驚いたことは覚えてます。
 王都《おうと》に近づくにつれ、だんだん街が栄えていき……自然豊かな環境で育った僕には、全てが物珍しかったです」

「そなたの領地と隣は……確かそんなに離れていなかった気がするが、そんなに気候が違うのか?」

「はい、改めて自領はめぐまれているんだなぁと感じました。
 一年を通して、そんなに天候がくずれることなく、過ごしやすいです。
 おかげで、農作物の収穫量も安定していますし、人口も増えているそうです」

 ふと、シルヴィス様は小さく笑ったので、気になった僕は問いかけた。

「僕は、何かおかしなことを言いましたか?」

「いいや、レン。
 自身は気がついてないようだが、それが加護かごの力の一部だ」

 そう言ってシルヴィス様は、身体の横に投げ出されたままだった僕の左手をゆっくり口元へ持ってきて、指先へ軽く口づけた。
 まだ威圧いあつかれてないので、僕は身体を自由に動かせないが、驚きのあまり目を見開く。

加護かごといっても個人で持っている能力は色々あるらしいが、全員に共通するのが、その人物がいる領地は、気候にめぐまれ、作物だかも良好、よって領地に人が集まり栄えていくそうだ」

 指先に口づけられた手は、僕とシルヴィス様の指が交互にからみ合うようにつなぎなおされ、そのままそっと僕の左頬の横へ下された。

 すぐ近くに寄せられたシルヴィス様の顔を見ているのが、なんだか僕は気恥きはずかしくなってしまい……迷ったげ句、横目でつながれた手を見続けることになった。

 そんな僕を温かく見守りながら、シルヴィス様は説明を続けてくれた。

「詳細はよく分からない。
 なぜなら加護かごを持つ人物を、なるべく領地から出さないようにするからだ。
 だから知っているのは、その地の領主や神官、それから我々王族など……ごく一部だ。

 領主はその土地に密着しているから情報が入りやすいし、神官は国教の洗礼を行うさいに、加護かごを持つ者が現れたどうか、知ることができると言われている。
 我ら王族は、おさめられる税や報告された情報などで、何となく分かる程度だ。

 レンは自領と隣の領地がかなり離れているために、気候が違うと思っているようだが……地図上で見ると、2つの領地はそんなに離れていない。
 だから本来、レンの自領は隣の領地と同じ、寒さがとりわけきびしい土地のはずなのだ。
 だが、加護かごを持つレンが領地にいるからこそ、気候がおだやかになっている。

 我々が推測すいそくする時も同じだ。
 なぜ気候がきびしいこの場所が、こんなに税がおさめられるのか、と疑問に思った場所を調べると、大抵たいてい加護かごを持つ者がいる。

 だが、我々は深追いはしない。
 こちらとしては、遅れず納税してくれればそれで問題はないし、むしろ多くおさめてくれれば有難ありがたい。
 それに加護かごの者を、実際、育て守りゆくのは、その土地の者たちだ。
 だからそのままにしておくが、その分くわしい情報は入ってこない」

 僕にとってはにわかに信じがたい話だった。
 自分が生まれた時から、めぐまれた領地が当たり前だったし、それに今日は色々あり過ぎて脳内が麻痺まひし、情報が通り過ぎていく。

 それよりも……さりげにシルヴィス様につながれた左手が……気になった。
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