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第2章 朝チュンの混乱

23、食堂の日常風景<後>

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 彼の言動げんどうは、あの王太子の近衛このえ騎士としては、とりわけ異例いれいなものとされている。

 なぜなら王太子は、自らの近衛このえ騎士隊について、諜報ちょうほう活動能力をみが一環いっかんとして、婚姻状態を問わず、自由恋愛を推奨すいしょうしているからだ。

 諜報ちょうほう活動は、いかに欲しい情報をターゲットから収集しゅうしゅう出来るかがかぎとなるらしい。

 そのターゲットとなる相手にどうアプローチするかの実践じっせんを、自由恋愛という場を借りてテクニックをみがいてこい……というのが王太子の意図いとらしいが、この話を聞いた時のマリコさんは『ナチュラルにゲスな案件あんけんなんだけど、確かに一理いちりあるかも……』と一定いっていの評価をしていた。

 ただし、お互いが人間である以上、こういったことを堂々どうどうと行うと、必ずトラブルが発生するものである。

 そのため唯一ゆいいつの禁止事項として、決してお相手たち(複数可!)とめないことが、決められていた。

 例え表面上、お相手たちとめてないにしても、うわさが出た時点じてんで、人心じんしん把握はあく能力が欠如けつじょしているとみなされ、王太子の近衛このえ騎士隊から除隊じょたいされる、というきびしいルールが存在するのである。

 ただ裏を返せば、めなければ、例え既婚きこん者の近衛このえ騎士さえも、恋愛は自由なのだ!

 しかもお相手の数も問われないため、二股、三股、何股でもOK!

 それに王太子の近衛このえ騎士という職業上、ある程度ていどの身分を持つ者が多く、一時ひとときの夢でいいからと全てを承知の上、王太子の近衛このえ騎士にむらがる女性たちは後をたなかった。

 表面上おだやかそうに見えるが、かくされた女性関係が派手はでな王太子付き近衛このえ騎士が多い中、想い人に一途いちず姿勢しせいつらぬくエドワード様に好意こうい的な女性は多く、その人気は今や城内じょうないにおいて、とどまるところを知らない。

 だが時には、エドワード様は人心じんしん把握はあく能力がないため一途いちずなフリをしているだけだ!と主張する男性もいた。

 しかし我が国をおとずれ、例え短時間にせよ、エドワード様が警備けいびを担当したしょ外国の王族女性たちが、帰国するにあたり、こぞってエドワード様を自国へ連れ帰ろうと必ず一波乱ひとはらん起こすので、その主張は、あくまでもモテない男性のひがみとしてあつかわれているのであった。

 そんなエドワード様なので、あくまでも非公式だが、ファンクラブが存在するのはもちろん、「おはよう」「お疲れ様」という挨拶あいさつと同じように、「エドワード様」のことがいつでもどこでも、城内で働く者たち、特に女性たちの話題に登場するのである。

 実はマーガレット、城内じょうない勤め歴は長いが、まだ残念ながら、 うわさのエドワード様を一度も見たことがなかった。

 そもそも仕事上、マーガレットは滅多めった刺繍ししゅう担当部屋から出ない。

 あまりにも人気者ゆえ、互いの職務しょくむさまたげになるような行動はつつしむべしとの通達つうたつは出ているが、エドワード様が歩くだけで、大勢の女性たちがアレコレもっともな理由をつけて、遠巻きとはいえ、へばり付いているので、あの場所にエドワード様がいるらしいとは分かっても、ファンクラブの女性たちの姿にかくされて、肝心かんじんのお姿を見ることができないのであった。

 まぁ……別に、エドワード様は自分には何ら関係ないし、興味きょうみもないしね

 食べ終わった食器を片付けながら、うわさを聞くたびにマーガレットは思う。

 ただ、時折ときおり思うことは、今はエドワード様の想い人がかされていないので平和だが、もしエドワード様が想いを寄せている相手があきらかになった場合、はたしてファンクラブメンバーや、うれしそうにうわさ話をする女性たちはどういう態度を取るのだろう?と。

 嫉妬しっとの嵐はもちろん、血の雨がるのは間違いなく……そのお相手を亡き者にしようと、例えばこの食堂にファンクラブメンバー全員が集まり、呪詛じゅそを行ったりして?

 ふと浮かんだ自分の考えに、人ごととはいえ、ブルリと身体からだふるわせながら、マーガレットは今度こそ自室に戻って睡眠を取るべく、足早あしばやに食堂を後にした。

 近い将来、自分が当事者とうじしゃとして、その大きな騒動そうどうに巻き込まれるとは……全く予想すらしないままに。
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