上 下
18 / 30
第2章 朝チュンの混乱

18、マーガレットの激白(げきはく)<前>

しおりを挟む
 ダリアは、もう何も言わなかった。

 代わりに、マーガレットの肩を抱き寄せ、強く抱きしめてくれた。

 だから、涙声になりながらも、マーガレットは、全部ダリアに告白する。

「さすがにこのメイクだと目立つから、継母ままははから指示されて、王様に挨拶あいさつするまでは、ドレスの上にまとっていた、白色のレースで出来たショールを頭にかぶっていたの。

 今でも、王様に挨拶あいさつするために、ショールを取った時の、人々の驚愕きょうがくの表情は忘れられない。

 しかもあの時、私の正面には、可愛らしい男の子がいたの。

 その子は、真っ白なウサギのぬいぐるみを、耳の部分を鷲掴わしづかみにして持っていたわ。

 私が顔を上げた瞬間、男の子は驚きのあまり手の力が抜けたみたいで、ポカンと口を開けたまま、ぬいぐるみを落としてしまったの。

 落下らっかするぬいぐるみの真っ白な残像ざんぞうと、叔父おじから急いで部屋を連れ出された数秒後、閉じられた扉からドッとき上がった人々の笑い声は……いまだに夢に見て、うなされるわ」

 一旦いったん、マーガレットは言葉を切った。

 のどが……焼け付くように痛い
 だが、抱え込んだ全てを、もう手放てばなしたい

 マーガレットの強い想いは止まらず、制御せいぎょできない気持ちが、口からあふれていくようだった。

 ダリアもマーガレットの肩を抱き寄せたまま、ピクリとも動かない。

 だからマーガレットは、そのままひとしゃべり続けた。

待機たいきしていた馬車に乗せられる前に、叔父おじにピカピカにみがかれた、窓の前に連れて行かれたの。

 うつしだされた、自分の姿があまりにもひどくて、言葉を失ったわ。

 呆然ぼうぜんとしたまま馬車に乗せられ、自宅に着いても当然何も手に付かなくて、そのまま自室の椅子に座っていたの。

 すると、いつの間にか帰宅した継母ままははが目の前に立っていて、勝ちほこったような笑みを浮かべて、こう言われたわ。

 1人だけ留守番するのは嫌だとあまりにも泣きわめいたため、仕方なく一緒に連れていった義妹いもうとを、叔父おじによって連れ出された私の代わりに、王様に挨拶あいさつさせたって。

 あの子義妹に、デビュタントの機会を与えてくれてありがとう、と。

 それを聞いた途端とたん継母ままははが私の告白を聞いた時、なぜあんなに綺麗きれいに、ううん、ニンマリと邪悪じゃあくに笑ったかを理解したわ。

 継母ままははから、まさか踊れないとは思わなかった、とも言われたけど、実母の闘病とうびょう期間はわりと長く、自分が離れている間に、母に何かあったらと思うと恐ろしくて、母から離れて積極せっきょく的に何かしようとは思わなかったの。

 母が亡くなってからは、父は悲しみのあまり、私のことを気にかける余裕よゆうもなかったしね。

 もっとも、あの時に踊りを習う時間があっても、やっぱり母のそばに1秒でも長くることを、選んだと思う。

 そして……継母ままはは思惑おもわくに気付いちゃった以上、さすがの私も我慢がまん出来なくて、心の奥底からき出した怒りのまま、継母ままははに飛びかったの」

 ダリアは相変わらず抱きしめてくれたけど、ハッと息を飲んだ音が、マーガレットにはこえた。

 マーガレットは、ダリアから静かに身体からだを離すと、あれから10年以上った今でも、よく見ると、皮膚が引きれて、へこんだままとなっている、右ほほ傷痕きずあとを指した。

「私の勢いにひるんだ継母ままははは、しつけのためと言いながら、常に手元に置いておいたむちを、私の顔目掛めがけて、躊躇ちゅうちょなく振りかざしたわ。

 私は、いきおいよく振りかざされたむちを完全にはけきれず、結果として右ほほに、大きな裂傷れっしょうってしまったの。

 その後、どうやら傷口からきんが入ったらしく、長い間化膿かのうしていたわ。

 ようやく傷が治って喜んでいたけど、残念ながら、大きな傷痕きずあとが残ってしまったの」

「とんでもない継母ままははね!」

 ダリアの語気ごきは荒かったが、止まらないマーガレットの涙をぬぐってくれる指先は、羽根のようにとても優しい。

 その時マーガレットは、涙だけじゃなく、背負せおっている深いやみまでも、ダリアの指先がぬぐってくれるような気がした。

 ダリアから助けられた人が、恩を絶対に忘れないのは当然のことだろうと、マーガレットは、身を持って知ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。

白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。

【R18/TL】息子の結婚相手がいやらしくてかわいい~義父からの求愛種付け脱出不可避~

宵蜜しずく
恋愛
今日は三回目の結婚記念日。 愛する夫から渡されたいやらしい下着を身に着け、 ホテルで待っていた主人公。 だが部屋に現れたのは、愛する夫ではなく彼の父親だった。 初めは困惑していた主人公も、 義父の献身的な愛撫で身も心も開放的になる……。 あまあまいちゃラブHへと変わり果てた二人の行く末とは……。 ──────────── ※成人女性向けの小説です。 この物語はフィクションです。 実在の人物や団体などとは一切関係ありません。 拙い部分が多々ありますが、 フィクションとして楽しんでいただければ幸いです😊

処理中です...