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第2章 朝チュンの混乱
18、マーガレットの激白(げきはく)<前>
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ダリアは、もう何も言わなかった。
代わりに、マーガレットの肩を抱き寄せ、強く抱きしめてくれた。
だから、涙声になりながらも、マーガレットは、全部ダリアに告白する。
「さすがにこのメイクだと目立つから、継母から指示されて、王様に挨拶するまでは、ドレスの上に纏っていた、白色のレースで出来たショールを頭に被っていたの。
今でも、王様に挨拶するために、ショールを取った時の、人々の驚愕の表情は忘れられない。
しかもあの時、私の正面には、可愛らしい男の子がいたの。
その子は、真っ白なウサギのぬいぐるみを、耳の部分を鷲掴みにして持っていたわ。
私が顔を上げた瞬間、男の子は驚きのあまり手の力が抜けたみたいで、ポカンと口を開けたまま、ぬいぐるみを落としてしまったの。
落下するぬいぐるみの真っ白な残像と、叔父から急いで部屋を連れ出された数秒後、閉じられた扉からドッと湧き上がった人々の笑い声は……未だに夢に見て、うなされるわ」
一旦、マーガレットは言葉を切った。
喉が……焼け付くように痛い
だが、抱え込んだ全てを、もう手放したい
マーガレットの強い想いは止まらず、制御できない気持ちが、口から溢れていくようだった。
ダリアもマーガレットの肩を抱き寄せたまま、ピクリとも動かない。
だからマーガレットは、そのまま独り喋り続けた。
「待機していた馬車に乗せられる前に、叔父にピカピカに磨かれた、窓の前に連れて行かれたの。
映しだされた、自分の姿があまりにも酷くて、言葉を失ったわ。
呆然としたまま馬車に乗せられ、自宅に着いても当然何も手に付かなくて、そのまま自室の椅子に座っていたの。
すると、いつの間にか帰宅した継母が目の前に立っていて、勝ち誇ったような笑みを浮かべて、こう言われたわ。
1人だけ留守番するのは嫌だとあまりにも泣き喚いたため、仕方なく一緒に連れていった義妹を、叔父によって連れ出された私の代わりに、王様に挨拶させたって。
あの子に、デビュタントの機会を与えてくれてありがとう、と。
それを聞いた途端、継母が私の告白を聞いた時、なぜあんなに綺麗に、ううん、ニンマリと邪悪に笑ったかを理解したわ。
継母から、まさか踊れないとは思わなかった、とも言われたけど、実母の闘病期間はわりと長く、自分が離れている間に、母に何かあったらと思うと恐ろしくて、母から離れて積極的に何かしようとは思わなかったの。
母が亡くなってからは、父は悲しみのあまり、私のことを気にかける余裕もなかったしね。
もっとも、あの時に踊りを習う時間があっても、やっぱり母の側に1秒でも長く居ることを、選んだと思う。
そして……継母の思惑に気付いちゃった以上、さすがの私も我慢出来なくて、心の奥底から湧き出した怒りのまま、継母に飛び掛かったの」
ダリアは相変わらず抱きしめてくれたけど、ハッと息を飲んだ音が、マーガレットには聴こえた。
マーガレットは、ダリアから静かに身体を離すと、あれから10年以上経った今でも、よく見ると、皮膚が引き攣れて、へこんだままとなっている、右頬の傷痕を指差した。
「私の勢いに怯んだ継母は、躾のためと言いながら、常に手元に置いておいた鞭を、私の顔目掛けて、躊躇なく振りかざしたわ。
私は、勢いよく振りかざされた鞭を完全には避けきれず、結果として右頬に、大きな裂傷を負ってしまったの。
その後、どうやら傷口から菌が入ったらしく、長い間化膿していたわ。
ようやく傷が治って喜んでいたけど、残念ながら、大きな傷痕が残ってしまったの」
「とんでもない継母ね!」
ダリアの語気は荒かったが、止まらないマーガレットの涙を拭ってくれる指先は、羽根のようにとても優しい。
その時マーガレットは、涙だけじゃなく、背負っている深い闇までも、ダリアの指先が拭ってくれるような気がした。
ダリアから助けられた人が、恩を絶対に忘れないのは当然のことだろうと、マーガレットは、身を持って知ったのだった。
代わりに、マーガレットの肩を抱き寄せ、強く抱きしめてくれた。
だから、涙声になりながらも、マーガレットは、全部ダリアに告白する。
「さすがにこのメイクだと目立つから、継母から指示されて、王様に挨拶するまでは、ドレスの上に纏っていた、白色のレースで出来たショールを頭に被っていたの。
今でも、王様に挨拶するために、ショールを取った時の、人々の驚愕の表情は忘れられない。
しかもあの時、私の正面には、可愛らしい男の子がいたの。
その子は、真っ白なウサギのぬいぐるみを、耳の部分を鷲掴みにして持っていたわ。
私が顔を上げた瞬間、男の子は驚きのあまり手の力が抜けたみたいで、ポカンと口を開けたまま、ぬいぐるみを落としてしまったの。
落下するぬいぐるみの真っ白な残像と、叔父から急いで部屋を連れ出された数秒後、閉じられた扉からドッと湧き上がった人々の笑い声は……未だに夢に見て、うなされるわ」
一旦、マーガレットは言葉を切った。
喉が……焼け付くように痛い
だが、抱え込んだ全てを、もう手放したい
マーガレットの強い想いは止まらず、制御できない気持ちが、口から溢れていくようだった。
ダリアもマーガレットの肩を抱き寄せたまま、ピクリとも動かない。
だからマーガレットは、そのまま独り喋り続けた。
「待機していた馬車に乗せられる前に、叔父にピカピカに磨かれた、窓の前に連れて行かれたの。
映しだされた、自分の姿があまりにも酷くて、言葉を失ったわ。
呆然としたまま馬車に乗せられ、自宅に着いても当然何も手に付かなくて、そのまま自室の椅子に座っていたの。
すると、いつの間にか帰宅した継母が目の前に立っていて、勝ち誇ったような笑みを浮かべて、こう言われたわ。
1人だけ留守番するのは嫌だとあまりにも泣き喚いたため、仕方なく一緒に連れていった義妹を、叔父によって連れ出された私の代わりに、王様に挨拶させたって。
あの子に、デビュタントの機会を与えてくれてありがとう、と。
それを聞いた途端、継母が私の告白を聞いた時、なぜあんなに綺麗に、ううん、ニンマリと邪悪に笑ったかを理解したわ。
継母から、まさか踊れないとは思わなかった、とも言われたけど、実母の闘病期間はわりと長く、自分が離れている間に、母に何かあったらと思うと恐ろしくて、母から離れて積極的に何かしようとは思わなかったの。
母が亡くなってからは、父は悲しみのあまり、私のことを気にかける余裕もなかったしね。
もっとも、あの時に踊りを習う時間があっても、やっぱり母の側に1秒でも長く居ることを、選んだと思う。
そして……継母の思惑に気付いちゃった以上、さすがの私も我慢出来なくて、心の奥底から湧き出した怒りのまま、継母に飛び掛かったの」
ダリアは相変わらず抱きしめてくれたけど、ハッと息を飲んだ音が、マーガレットには聴こえた。
マーガレットは、ダリアから静かに身体を離すと、あれから10年以上経った今でも、よく見ると、皮膚が引き攣れて、へこんだままとなっている、右頬の傷痕を指差した。
「私の勢いに怯んだ継母は、躾のためと言いながら、常に手元に置いておいた鞭を、私の顔目掛けて、躊躇なく振りかざしたわ。
私は、勢いよく振りかざされた鞭を完全には避けきれず、結果として右頬に、大きな裂傷を負ってしまったの。
その後、どうやら傷口から菌が入ったらしく、長い間化膿していたわ。
ようやく傷が治って喜んでいたけど、残念ながら、大きな傷痕が残ってしまったの」
「とんでもない継母ね!」
ダリアの語気は荒かったが、止まらないマーガレットの涙を拭ってくれる指先は、羽根のようにとても優しい。
その時マーガレットは、涙だけじゃなく、背負っている深い闇までも、ダリアの指先が拭ってくれるような気がした。
ダリアから助けられた人が、恩を絶対に忘れないのは当然のことだろうと、マーガレットは、身を持って知ったのだった。
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