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本当の愛を知って幸せになりました
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王都の大聖堂に王族や貴族が多く集まるこの日。
マクレガー公爵家とケリンズ子爵家の結婚式が執りおこなわれた。
正装をして公爵家の紋章と勲章を身につけたエディと、純白のドレスに身を包んだマリアは、司祭の前で結婚証明書にサインをした。
そして、大勢の人々の前で誓いのキスを交わす。
大聖堂の扉が開くと、多くの人々がふたりのために花を送った。
よく晴れた青空の下で、色とりどりの花びらが舞う。
同時に盛大な拍手と祝いの言葉に包まれる。
「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「お幸せに!」
マリアが多くの人々へ目を向けていると、親族たちの中にケリンズ家の面々の姿を見つけた。
父はいない。もうどこにいるのかさえわからず、諦めている。
兄が子爵代理として結婚式に出席している。
兄は周囲とべらべら何かをしゃべっているようだ。
おそらく自慢話か何かだろうとマリアは推測した。
兄の後方に、車椅子に座った人物を見つけた。
母の姿だ。
使用人に付き添われているが、背筋はピンと伸びていて、とても病を患っているとは思えない様子だった。
それはきっと、娘の晴れ姿のために精いっぱい着飾って、しっかり元気な姿を見せているのだろう。
母は目をそらすことなく、じっとマリアの姿を見つめている。
その表情は今までで一番、穏やかでやわらかい。
マリアは目頭が熱くなり、母に向かって満面の笑みを向けた。
クリフとサラの姿もあったが、とても話せる距離ではなかった。
マリアは人々に笑顔で手を振っていた。
しかし、突然エディがマリアの腰に手をまわして、みんなの前で抱き上げた。
「きゃあっ! エディ、何を……」
昔、絵本で見たことのある格好。
いわゆるお姫さま抱っこである。
エディはマリアの額にキスをして、みんなに聞こえるように声を上げて言った。
「マリア、愛している」
周囲から「きゃああっ!」と歓声が上がった。
マリアは恥ずかしくなり真っ赤な顔で慌てふためく。
しかし、もうやけだと思い、マリアも声を張り上げた。
「私も、愛しておりますわ!」
歓声は最高潮に達した。
*
盛大な結婚式から2年が経った頃。
社交界ではちょっとした噂が広がっていた。
その日も貴族の婦人たちの茶会ではその話題で盛り上がっていた。
「マクレガー公爵家に第一子が誕生したようですよ」
知らなかった婦人が驚いて訊く。
「あら、奥さまは子が出来ないという話ではありませんでしたの?」
「どうやらあれは、前の婚約者が流した嘘のようですわ」
婦人たちは呆れたような、複雑な表情をした。
「実際、子を授かったのですものね」
彼女たちは満面の笑みで公爵家について話す。
「どちらに似ていらっしゃるのかしらね」
「どちらに似ても素敵でしょうね」
婦人たちは紅茶を飲み、高級スイーツ店オッセンデーゼルのケーキを口にして、丁寧に整えられた美しい庭園を観賞しながら、おしゃべりに花を咲かせるのだった。
〈 完 〉
マクレガー公爵家とケリンズ子爵家の結婚式が執りおこなわれた。
正装をして公爵家の紋章と勲章を身につけたエディと、純白のドレスに身を包んだマリアは、司祭の前で結婚証明書にサインをした。
そして、大勢の人々の前で誓いのキスを交わす。
大聖堂の扉が開くと、多くの人々がふたりのために花を送った。
よく晴れた青空の下で、色とりどりの花びらが舞う。
同時に盛大な拍手と祝いの言葉に包まれる。
「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「お幸せに!」
マリアが多くの人々へ目を向けていると、親族たちの中にケリンズ家の面々の姿を見つけた。
父はいない。もうどこにいるのかさえわからず、諦めている。
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兄は周囲とべらべら何かをしゃべっているようだ。
おそらく自慢話か何かだろうとマリアは推測した。
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使用人に付き添われているが、背筋はピンと伸びていて、とても病を患っているとは思えない様子だった。
それはきっと、娘の晴れ姿のために精いっぱい着飾って、しっかり元気な姿を見せているのだろう。
母は目をそらすことなく、じっとマリアの姿を見つめている。
その表情は今までで一番、穏やかでやわらかい。
マリアは目頭が熱くなり、母に向かって満面の笑みを向けた。
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マリアは人々に笑顔で手を振っていた。
しかし、突然エディがマリアの腰に手をまわして、みんなの前で抱き上げた。
「きゃあっ! エディ、何を……」
昔、絵本で見たことのある格好。
いわゆるお姫さま抱っこである。
エディはマリアの額にキスをして、みんなに聞こえるように声を上げて言った。
「マリア、愛している」
周囲から「きゃああっ!」と歓声が上がった。
マリアは恥ずかしくなり真っ赤な顔で慌てふためく。
しかし、もうやけだと思い、マリアも声を張り上げた。
「私も、愛しておりますわ!」
歓声は最高潮に達した。
*
盛大な結婚式から2年が経った頃。
社交界ではちょっとした噂が広がっていた。
その日も貴族の婦人たちの茶会ではその話題で盛り上がっていた。
「マクレガー公爵家に第一子が誕生したようですよ」
知らなかった婦人が驚いて訊く。
「あら、奥さまは子が出来ないという話ではありませんでしたの?」
「どうやらあれは、前の婚約者が流した嘘のようですわ」
婦人たちは呆れたような、複雑な表情をした。
「実際、子を授かったのですものね」
彼女たちは満面の笑みで公爵家について話す。
「どちらに似ていらっしゃるのかしらね」
「どちらに似ても素敵でしょうね」
婦人たちは紅茶を飲み、高級スイーツ店オッセンデーゼルのケーキを口にして、丁寧に整えられた美しい庭園を観賞しながら、おしゃべりに花を咲かせるのだった。
〈 完 〉
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