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復縁なんて冗談じゃありません

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 ダグナーはにやにやしながら内心歓喜にわいていた。

(よし、もう少しだ。このまま丸め込んでしまおう)

 厳しい言葉のあとに甘い言葉を与えれば、女は簡単に陥落することを知っている。
 ダグナーはマリアに笑いかける。

「何を言っているんだ。僕は君にそんな惨めな思いはさせないよ。正妻として迎えるつもりだ」

 正妻の立場ならマリアも喜んで受け入れるだろうと考えたのだった。
 しかし、マリアの反応はダグナーの思惑どおりにはいかない。

「そちらこそ何をおっしゃっているのですか? カトリーナさまがいらっしゃるでしょう」

 マリアは当たり前のことを口にする。
 すると、ダグナーはさらりととんでもないことを言い放った。

「あの女とは離縁するので問題ない」
「今なんとおっしゃいました? 簡単に離縁などと口にするものではございませんわ」

 マリアは感情的に声を荒らげる。
 周囲がちらちらとこちらを見ているのを悟り、マリアは黙る。
 ダグナーはマリアを見下ろしてヘラヘラ笑っている。

「君は僕に婚約を破棄されて困っているのだろう? 今日だって周囲で話題になっていたからな。マリアは嫁としてふさわしくない令嬢だったと。だが安心するといい。僕が復縁してやる。そうすれば君の噂も立ち消えになるだろう」

 マリアはダグナーをキッと睨みつける。
 思いっきり引っ叩いてやりたくなった。
 まがりなりにも貴族の令嬢。これほどプライドを傷つけられて黙ってはいられない。

「そんなこと、必要ありませ……」
「必要ない!」

 マリアの背後から、エディの声が高らかに響き、周囲の者たちも注目した。

 エディは険しい表情で近づいてくると、マリアの腕を掴んでダグナーの手を振り払った。
 そして、彼はすぐさまマリアの肩を抱いて自分に引き寄せたのだった。
 周囲がざわつく中、エディはまったく気にせず、ダグナーに向かって言い放った。

「マリアは俺の恋人だ。気安く触るな」

 ダグナーはぽかーんと口を開けて絶句し、エディに肩を抱かれたマリアは硬直。そして、周囲からは「きゃあっ」とか「うそっ」という令嬢の声が響いた。
 マリアは混乱しながらエディを見上げる。

「エディ、あの……」
「しっ! 合わせてくれ」

 マリアは急に恥ずかしくなって頬を赤らめ、うつむいた。
 どんどん人が集まってくる。

「何の騒ぎだ?」
「喧嘩ではないか?」
「マクレガー公爵とバートル家の令息? 一体何があったんだ?」

 マリアは周囲を見まわした。

(このままでは変な噂が広まってしまうわ)

 不安に思うマリアをよそに、エディはまっすぐダグナーを睨み据えて言った。

「君には妻がいるだろう? それなのに、他の女性を追いかけるとは何事だ?」

 ダグナーは怪訝な目でエディを見据えながら舌打ちする。

「マリアは僕の元婚約者だ。話をするくらい、いいだろう?」
「話をするだけで女性に触れる必要などないだろう。それも人の恋人に触れるとは失礼極まりない」

 ダグナーの表情がみるみるうちに歪んでいく。

「マリアがあなたの恋人ですって?」
「ああ、そうだ。俺がこの世で唯一愛する女性だ」

 マリアは顔から首まで真っ赤になった。

(え、演技ですわ。これはエディの演技なのですわ)

 そうだとわかっていても、マリアの鼓動はどくどくと高鳴っていく。
 ダグナーは驚愕し、絶句している。
 エディはダグナーを見てわざとらしく勝ち誇ったような顔で笑った。

「そういえば君は以前こう言っていたな? 本物の愛を知っていると。君の愛とは、自分に都合が悪くなると別の相手に乗り換えることなのか?」

 ダグナーはギリッと歯を食いしばり、エディを睨みつける。

「それは偽愛というのではないか?」
「くっ……!」

 ダグナーは拳を握りしめて今にも発狂しそうな勢いだった。

 マリアは知っている。
 ダグナーは人一倍プライドが高くバカにされることを嫌う。
 それも、これほど人の多くいる場所で、ましてや正論を突きつけられて何も返せない状況になれば、彼は間違いなくぶち切れて大ごとになってしまうだろう。

 そうなると、エディの立場にも影響してくる。
 ただでさえ、マリアを恋人などと嘘をついている状況なのだ。
 周囲はマリアが原因でマクレガー家とバートル家がいざこざを起こしていると社交界に広めてしまう可能性がある。

「エディ、もういいですわ。これ以上は……」

 マリアがそっと声をかけるとエディは少し落ち着いたようで、ため息をついて肩の力を抜いた。
 それを察したマリアは少し安堵する。

 しかし、エディはさらにマリアをぎゅっと抱き寄せた。
 マリアは再び真っ赤な顔で硬直した。

「これ以上、君と話す時間はないんだ。失礼する」

 エディはそう言ってマリアの肩を抱いたまま、周囲の人のあいだを通り抜けて立ち去った。

 残されたダグナーは呆然としていた。

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