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母からの命令
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その日、マリアは使用人から手紙を受けとった。
その差出人を見てマリアは顔を強張らせた。
自分の実家からだったのだ。
(お母さまからだわ。お兄さまに私がここにいることを聞いたのね)
虚ろな気分で手紙を開封し、さらっと目を通してみると、そこにはなんとも都合のいいことが書かれていた。
「私に、パーティへ出席しろですって?」
マリアは手紙を持つ手が震えた。
勘違いではないか、もう一度じっくり確認する。
【わがケリンズ家の不穏な噂が立っています。すべてはあなたに責任があるのです。あなたは公爵家の当主と懇意にしていると耳にしました。公爵とともにパーティへ出席し、あなたの噂を払拭することでケリンズ家の名誉を回復させるのです】
マリアは驚愕の表情で歯を食いしばる。
怒りのあまり指先に力が入り、手紙にくしゃっとしわが寄った。
「うちの家門のために、エディを利用しろと言うのですか?」
エディと一緒にパーティへ出席すれば、間違いなく周囲はマリアが彼の婚約者であると勘違いするだろう。
エディは前の婚約者に捨てられた令嬢を拾ったと侮辱され、公爵家にとってもあまりよい印象ではない。
彼には多くの縁談が来ているはずだ。それを断って捨てられた令嬢との縁談を進めていると思われたら、公爵家と懇意にしている家門からの信頼も損なう恐れがある。
「大切な友人に、そんなことができるわけがないでしょう。なんて身勝手なことをおっしゃるのですか!」
マリアは手紙を破って捨てようとしたが、思いとどまった。
(お母さまのことだからきっと、無視をしてもまたしつこく手紙を送ってくるでしょうね。もしかしたらここに押しかけてくるかもしれないわ)
マリアは憂鬱な気分でソファに腰を下ろす。
そして、ぼんやり考える。
(これ以上、エディにご迷惑をおかけするわけにはいかない)
ひそかに、ここを出ていく覚悟を決めていた。
幸い自分には剣の腕があるので、どこかの町の自警団に入って働くこともできる。計算も得意なのでどこかの商店で商売の助手として働くこともできる。
生きていくための能力があるのはありがたいことだ。
マリアは書斎へ入ると、紙とペンを持ち、エディに置き手紙をすることにした。
(黙って出ていくことをお許しください)
手紙を書いている途中にノックをする音がして、使用人が声をかけてきた。
「マリアさま、お客様でございます」
マリアは慌てて書きかけた手紙を引き出しにしまい込んだ。
そして、急いでドアを開ける。
「どなたですか?」
「クリフさまですよ」
「まあ、すぐに行きますわ」
心の許せる友人の来訪により、マリアは少し気分が落ち着いた。
急いで応接室へ出向くと、そこにはクリフともうひとりの客人がいた。
「マリア、今日は特別な人を連れてきたよ」
クリフの言葉を聞くと同時にマリアはもう笑顔になっていた。
よく知ったなつかしい女の姿がある。
騎士訓練学校でともに過ごした同室の仲間であり、親友のサラだ。
「はぁい、マリア。元気そうね」
「サラ!」
マリアは彼女に飛びついて抱き合って再会を喜んだ。
その差出人を見てマリアは顔を強張らせた。
自分の実家からだったのだ。
(お母さまからだわ。お兄さまに私がここにいることを聞いたのね)
虚ろな気分で手紙を開封し、さらっと目を通してみると、そこにはなんとも都合のいいことが書かれていた。
「私に、パーティへ出席しろですって?」
マリアは手紙を持つ手が震えた。
勘違いではないか、もう一度じっくり確認する。
【わがケリンズ家の不穏な噂が立っています。すべてはあなたに責任があるのです。あなたは公爵家の当主と懇意にしていると耳にしました。公爵とともにパーティへ出席し、あなたの噂を払拭することでケリンズ家の名誉を回復させるのです】
マリアは驚愕の表情で歯を食いしばる。
怒りのあまり指先に力が入り、手紙にくしゃっとしわが寄った。
「うちの家門のために、エディを利用しろと言うのですか?」
エディと一緒にパーティへ出席すれば、間違いなく周囲はマリアが彼の婚約者であると勘違いするだろう。
エディは前の婚約者に捨てられた令嬢を拾ったと侮辱され、公爵家にとってもあまりよい印象ではない。
彼には多くの縁談が来ているはずだ。それを断って捨てられた令嬢との縁談を進めていると思われたら、公爵家と懇意にしている家門からの信頼も損なう恐れがある。
「大切な友人に、そんなことができるわけがないでしょう。なんて身勝手なことをおっしゃるのですか!」
マリアは手紙を破って捨てようとしたが、思いとどまった。
(お母さまのことだからきっと、無視をしてもまたしつこく手紙を送ってくるでしょうね。もしかしたらここに押しかけてくるかもしれないわ)
マリアは憂鬱な気分でソファに腰を下ろす。
そして、ぼんやり考える。
(これ以上、エディにご迷惑をおかけするわけにはいかない)
ひそかに、ここを出ていく覚悟を決めていた。
幸い自分には剣の腕があるので、どこかの町の自警団に入って働くこともできる。計算も得意なのでどこかの商店で商売の助手として働くこともできる。
生きていくための能力があるのはありがたいことだ。
マリアは書斎へ入ると、紙とペンを持ち、エディに置き手紙をすることにした。
(黙って出ていくことをお許しください)
手紙を書いている途中にノックをする音がして、使用人が声をかけてきた。
「マリアさま、お客様でございます」
マリアは慌てて書きかけた手紙を引き出しにしまい込んだ。
そして、急いでドアを開ける。
「どなたですか?」
「クリフさまですよ」
「まあ、すぐに行きますわ」
心の許せる友人の来訪により、マリアは少し気分が落ち着いた。
急いで応接室へ出向くと、そこにはクリフともうひとりの客人がいた。
「マリア、今日は特別な人を連れてきたよ」
クリフの言葉を聞くと同時にマリアはもう笑顔になっていた。
よく知ったなつかしい女の姿がある。
騎士訓練学校でともに過ごした同室の仲間であり、親友のサラだ。
「はぁい、マリア。元気そうね」
「サラ!」
マリアは彼女に飛びついて抱き合って再会を喜んだ。
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