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もういや!全員首にして!【カトリーナ】
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カトリーナは令嬢教育を受けているが、厳しいマナー講師に毎日怒られて辟易していた。
令嬢としての歩行訓練のとき、マナー講師は眼鏡を光らせながら声を張り上げるのだ。
「背筋を伸ばしてあごを引くのです。そして、一本の線の上を歩くように、前屈みにならないように!」
「は、はい……ああっ!」
カトリーナは派手に転んだ。
マナー講師はため息をついた。
お茶を飲む練習の時間では、カトリーナはうっかりカップをがちゃんっとソーサーに置いてしまうし、紅茶を飲むときはズズッと音を立ててしまう。
そのたびに、講師は眼鏡を光らせながらキツイ言葉を浴びせた。
「音を立てるものではありません!」
「ううっ……」
「やり直しです!」
刺繍の時間では、不器用に作業を進めていくカトリーナを、厳しい表情で見講師は見つめた。
カトリーナはあまりにも不器用すぎて、指に針を刺してしまう。
「いったぁーい!」
「貴族の夫人である者はそのような言葉遣いはなさいません」
「だって血が出ているわよ?」
「その程度のことで騒がないのが淑女というものです」
カトリーナはついに苛立ちが頂点に達し、刺繍道具を床にぶちまけてしまった。針や糸や布やはさみが派手な音を立てて散乱した。
「もういや! こんなこと、やってられないわよ!」
カトリーナは怒りのあまり呼吸を乱しながら声を荒らげる。
「カトリーナさま、この程度で投げ出しては貴族の……」
「うるさいわね! 貴族貴族って、貴族の何が偉いっていうのよ!」
カトリーナのめちゃくちゃな言い分にマナー講師はドン引きする。
「し、しかし、あなたは貴族に嫁いだ身……」
「あたしに偉そうな口を利くんじゃないわよ! あんたなんて旦那さまにお願いしてすぐに首にしてやるんだから!」
マナー講師は呆気にとられた。
おそらく、今までこのような態度を取る令嬢を見たのは初めてなのだろう。
しばらく怒りに震えていたが、やがて彼女は真顔ですっと椅子から立ち上がった。そして、眼鏡を光らせながらカトリーナに向かって告げる。
「結構でございます。どうぞお好きになさってくださいませ」
マナー講師はそう言って部屋を出ていってしまった。
残されたカトリーナは唖然としていたが、ふるふると怒りに震え、大声を張り上げた。
「何なのよ、あの態度は! あたしを誰だと思っているのよ!」
カトリーナはドアに向けてクッションを投げつけた。
クッションのカバーが裂けて中身がふわっと跳び出したが、カトリーナはそれを無視した。
どうせ使用人が片付ける仕事だ。
彼女は部屋を散らかし放題にしたまま、夫のところへ向かった。
その夜、カトリーナはベッドの上でダグナーに肩を抱かれ、慰めてもらった。
「もういやよ、旦那さま……なぜ、あたしばかりこんなつらい目に遭わなきゃいけないの?」
ダグナーは困惑の表情でカトリーナの背中を撫でる。
「カトリーナ、これも伯爵夫人となるために必要なんだ。パーティで僕のとなりに並ぶんだよ。君にとってこれほど誇り高いことはないだろう」
カトリーナは内心カチンときたが、ここはしおらしく潤んだ瞳で訴える。
「でもあたし、つらいわ。先生はあたしにきつい言葉で注意するのよ。耐えられないわ」
この表情をするとダグナーはすぐに言うことを聞いてくれることをカトリーナは知っている。
「わかった。そのマナー講師は首にしよう。もっと君に適切な人を探してくるよ」
「優しい人がいいわ。決して私に注意をするような人は駄目よ」
「大丈夫だ。君を傷つける奴は僕が許さない」
「ああ、旦那さま!」
カトリーナは満面の笑みでダグナーに抱きついた。
ダグナーも満足げに彼女を抱きしめている。
目を閉じて優しくカトリーナを撫でるダグナーに対し、カトリーナはにやりと不気味な笑みを浮かべていた。
(やったわ。もうあたしに文句を言う人はいないわね)
令嬢としての歩行訓練のとき、マナー講師は眼鏡を光らせながら声を張り上げるのだ。
「背筋を伸ばしてあごを引くのです。そして、一本の線の上を歩くように、前屈みにならないように!」
「は、はい……ああっ!」
カトリーナは派手に転んだ。
マナー講師はため息をついた。
お茶を飲む練習の時間では、カトリーナはうっかりカップをがちゃんっとソーサーに置いてしまうし、紅茶を飲むときはズズッと音を立ててしまう。
そのたびに、講師は眼鏡を光らせながらキツイ言葉を浴びせた。
「音を立てるものではありません!」
「ううっ……」
「やり直しです!」
刺繍の時間では、不器用に作業を進めていくカトリーナを、厳しい表情で見講師は見つめた。
カトリーナはあまりにも不器用すぎて、指に針を刺してしまう。
「いったぁーい!」
「貴族の夫人である者はそのような言葉遣いはなさいません」
「だって血が出ているわよ?」
「その程度のことで騒がないのが淑女というものです」
カトリーナはついに苛立ちが頂点に達し、刺繍道具を床にぶちまけてしまった。針や糸や布やはさみが派手な音を立てて散乱した。
「もういや! こんなこと、やってられないわよ!」
カトリーナは怒りのあまり呼吸を乱しながら声を荒らげる。
「カトリーナさま、この程度で投げ出しては貴族の……」
「うるさいわね! 貴族貴族って、貴族の何が偉いっていうのよ!」
カトリーナのめちゃくちゃな言い分にマナー講師はドン引きする。
「し、しかし、あなたは貴族に嫁いだ身……」
「あたしに偉そうな口を利くんじゃないわよ! あんたなんて旦那さまにお願いしてすぐに首にしてやるんだから!」
マナー講師は呆気にとられた。
おそらく、今までこのような態度を取る令嬢を見たのは初めてなのだろう。
しばらく怒りに震えていたが、やがて彼女は真顔ですっと椅子から立ち上がった。そして、眼鏡を光らせながらカトリーナに向かって告げる。
「結構でございます。どうぞお好きになさってくださいませ」
マナー講師はそう言って部屋を出ていってしまった。
残されたカトリーナは唖然としていたが、ふるふると怒りに震え、大声を張り上げた。
「何なのよ、あの態度は! あたしを誰だと思っているのよ!」
カトリーナはドアに向けてクッションを投げつけた。
クッションのカバーが裂けて中身がふわっと跳び出したが、カトリーナはそれを無視した。
どうせ使用人が片付ける仕事だ。
彼女は部屋を散らかし放題にしたまま、夫のところへ向かった。
その夜、カトリーナはベッドの上でダグナーに肩を抱かれ、慰めてもらった。
「もういやよ、旦那さま……なぜ、あたしばかりこんなつらい目に遭わなきゃいけないの?」
ダグナーは困惑の表情でカトリーナの背中を撫でる。
「カトリーナ、これも伯爵夫人となるために必要なんだ。パーティで僕のとなりに並ぶんだよ。君にとってこれほど誇り高いことはないだろう」
カトリーナは内心カチンときたが、ここはしおらしく潤んだ瞳で訴える。
「でもあたし、つらいわ。先生はあたしにきつい言葉で注意するのよ。耐えられないわ」
この表情をするとダグナーはすぐに言うことを聞いてくれることをカトリーナは知っている。
「わかった。そのマナー講師は首にしよう。もっと君に適切な人を探してくるよ」
「優しい人がいいわ。決して私に注意をするような人は駄目よ」
「大丈夫だ。君を傷つける奴は僕が許さない」
「ああ、旦那さま!」
カトリーナは満面の笑みでダグナーに抱きついた。
ダグナーも満足げに彼女を抱きしめている。
目を閉じて優しくカトリーナを撫でるダグナーに対し、カトリーナはにやりと不気味な笑みを浮かべていた。
(やったわ。もうあたしに文句を言う人はいないわね)
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