20 / 24
シエル視点
49、苛立つ王【シエル視点】
しおりを挟む
騎士訓練所はいつも以上に覇気があった。
王宮内に暗殺者を入れたことで騎士たちはより一層訓練をおこない、周囲はピリピリしていた。
大勢が剣を振るう大きな訓練場所の他に、特別な訓練所がある。
そこはシエル専用であり、護衛騎士のベリルと剣を交えていた。
シエルの重く鋭い剣さばきにやられたベリルは吹き飛んで地面に転がった。
ベリルが起き上がる前にシエルは剣先を彼の鼻先に当てる。
「お前、今死んでいるぞ」
「……そのようですね。ご自分の護衛騎士殺してどうするんですか」
「そんな弱い護衛などいらん」
ベリルは両手を上げて降伏の姿勢をとる。
シエルは冷静に見下ろしたまま告げる。
「立て。この程度でやられるような護衛を俺は置いておきたくない」
「いや、まあ、その理屈はわかりますけどね。ひとつ言わせてください」
「何だ?」
シエルが眉をひそめると、ベリルは感情的に叫んだ。
「八つ当たりはやめてくださいよ! アクアさまと何があったのか知りませんけど、めちゃくちゃ機嫌悪いじゃないですか!」
シエルは目を見開き、ベリルの喉元にすらりと剣先を突きつける。
「お前、本当に死にたいか?」
「……わかりましたって。俺、可哀想」
ぶつぶつ文句を言うベリルにシエルは剣を引いて、代わりにじろりと睨む。
ふたりは再び剣を交え、何度か交戦したがやはりベリルはさらに窮地へ追い込まれた。
シエルはベリルの胸もとに剣を突き立てる。ベリルはそれを自身の剣でぎりぎり防いだ。
シエルは冷たく言い放つ。
「それでは大事なものを守れんぞ」
ベリルはぐっと歯を食いしばり、ただ無言でうつむく。
「だが、俺の本気を食い止めたのは認めてやる」
ベリルは顔面蒼白になりながら何とか立っている。
「ほんとに殺す気だったんですか」
「その程度で死ぬようなら俺の護衛など務まらん。お前にはこの城を護ってもらわねばならんからな」
ベリルはごくりと唾を飲み込む。
「本気でやるんですか?」
ベリルの問いにシエルは短く答える。
「さっさと不穏な奴らを一掃してやらねば可哀想だろう」
「それはアクアさまのためですか?」
シエルは返事の代わりにベリルを睨みつける。
「この国のためだ。王宮を護るためだ。そして、お前のためだろう?」
ベリルはハッとしてうつむく。
「お前には悪かったと思ってる。無理に王宮へ入れてしまったからな」
「いいえ、俺も彼女も承知でそうしたんです。あなたを全面的に信頼したからこそ、ここまでついて来たんです」
真剣な表情で話すベリルを、シエルはじっと見据える。
そして、シエルは深いため息をついた。
「お前の忠誠心はなかなかのものだと思ってはいるが、どうしてこんなときに面倒なことをやらかすんだ」
うんざりした顔をするシエルに対し、ベリルは急に青ざめる。
「それは……本当に、申しわけないと……」
「面倒事が解決して俺が解放してやるまで我慢しろと言ったよな?」
「はい、そのとおりですね。おっしゃるとおりでございます」
だらだらと冷や汗を流すベリルを、シエルは容赦なく問い詰める。
「オパールを仮初とはいえ側妃にしたことは、恋人のお前に悪いとは思っていた。だが、たった2年の期限付きだ。その2年がお前は我慢できなかったのか?」
「いや本当、そうですね。何せ半年ぶりのデートだったので、つい盛り上がってしまって」
ふたりのあいだにひゅうっと冷たい風が吹き抜ける。
シエルは突っ立ったままベリルを見据える。
ベリルは苦々しい顔つきでシエルから目をそらす。
「(懐妊の)情報を洩らした奴はすでに王宮から追放した。お前は何も言うな」
「はい、承知しています」
「真実は公表できん。お前は死ぬ気でオパールと子を守れ」
「当然です。命をかけて守りますとも」
2年の期限付きでオパールとベリルに王宮入りしてもらった。
その理由は側妃たちの家門の中で裏切者を暴くためだった。
それがオパールの懐妊という事態になり、早める必要が出てきた。
それだけではない。
ノゼアンの病状が予想より悪化していることも理由のひとつだ。
強固な王政を築くために不穏分子は排除しなければならない。
おおよそ検討はついているが、向こうから仕掛けてこなければ正統な理由で叩き伏せることができない。
「めんどくせぇな」
とシエルがぼやく。
「あのう……」
「何だ?」
シエルがじろりと睨むように見るので、ベリルは少々身を縮める。
「好きな女性には好きだって言わないと伝わりませんよ?」
シエルはさらにベリルをじろりと睨みつけた。
「うるさい!」
「すいません。余計なことを言いました!」
ペコペコ頭を下げるベリルを見下ろしながら、シエルは複雑な心境にあった。
王宮内に暗殺者を入れたことで騎士たちはより一層訓練をおこない、周囲はピリピリしていた。
大勢が剣を振るう大きな訓練場所の他に、特別な訓練所がある。
そこはシエル専用であり、護衛騎士のベリルと剣を交えていた。
シエルの重く鋭い剣さばきにやられたベリルは吹き飛んで地面に転がった。
ベリルが起き上がる前にシエルは剣先を彼の鼻先に当てる。
「お前、今死んでいるぞ」
「……そのようですね。ご自分の護衛騎士殺してどうするんですか」
「そんな弱い護衛などいらん」
ベリルは両手を上げて降伏の姿勢をとる。
シエルは冷静に見下ろしたまま告げる。
「立て。この程度でやられるような護衛を俺は置いておきたくない」
「いや、まあ、その理屈はわかりますけどね。ひとつ言わせてください」
「何だ?」
シエルが眉をひそめると、ベリルは感情的に叫んだ。
「八つ当たりはやめてくださいよ! アクアさまと何があったのか知りませんけど、めちゃくちゃ機嫌悪いじゃないですか!」
シエルは目を見開き、ベリルの喉元にすらりと剣先を突きつける。
「お前、本当に死にたいか?」
「……わかりましたって。俺、可哀想」
ぶつぶつ文句を言うベリルにシエルは剣を引いて、代わりにじろりと睨む。
ふたりは再び剣を交え、何度か交戦したがやはりベリルはさらに窮地へ追い込まれた。
シエルはベリルの胸もとに剣を突き立てる。ベリルはそれを自身の剣でぎりぎり防いだ。
シエルは冷たく言い放つ。
「それでは大事なものを守れんぞ」
ベリルはぐっと歯を食いしばり、ただ無言でうつむく。
「だが、俺の本気を食い止めたのは認めてやる」
ベリルは顔面蒼白になりながら何とか立っている。
「ほんとに殺す気だったんですか」
「その程度で死ぬようなら俺の護衛など務まらん。お前にはこの城を護ってもらわねばならんからな」
ベリルはごくりと唾を飲み込む。
「本気でやるんですか?」
ベリルの問いにシエルは短く答える。
「さっさと不穏な奴らを一掃してやらねば可哀想だろう」
「それはアクアさまのためですか?」
シエルは返事の代わりにベリルを睨みつける。
「この国のためだ。王宮を護るためだ。そして、お前のためだろう?」
ベリルはハッとしてうつむく。
「お前には悪かったと思ってる。無理に王宮へ入れてしまったからな」
「いいえ、俺も彼女も承知でそうしたんです。あなたを全面的に信頼したからこそ、ここまでついて来たんです」
真剣な表情で話すベリルを、シエルはじっと見据える。
そして、シエルは深いため息をついた。
「お前の忠誠心はなかなかのものだと思ってはいるが、どうしてこんなときに面倒なことをやらかすんだ」
うんざりした顔をするシエルに対し、ベリルは急に青ざめる。
「それは……本当に、申しわけないと……」
「面倒事が解決して俺が解放してやるまで我慢しろと言ったよな?」
「はい、そのとおりですね。おっしゃるとおりでございます」
だらだらと冷や汗を流すベリルを、シエルは容赦なく問い詰める。
「オパールを仮初とはいえ側妃にしたことは、恋人のお前に悪いとは思っていた。だが、たった2年の期限付きだ。その2年がお前は我慢できなかったのか?」
「いや本当、そうですね。何せ半年ぶりのデートだったので、つい盛り上がってしまって」
ふたりのあいだにひゅうっと冷たい風が吹き抜ける。
シエルは突っ立ったままベリルを見据える。
ベリルは苦々しい顔つきでシエルから目をそらす。
「(懐妊の)情報を洩らした奴はすでに王宮から追放した。お前は何も言うな」
「はい、承知しています」
「真実は公表できん。お前は死ぬ気でオパールと子を守れ」
「当然です。命をかけて守りますとも」
2年の期限付きでオパールとベリルに王宮入りしてもらった。
その理由は側妃たちの家門の中で裏切者を暴くためだった。
それがオパールの懐妊という事態になり、早める必要が出てきた。
それだけではない。
ノゼアンの病状が予想より悪化していることも理由のひとつだ。
強固な王政を築くために不穏分子は排除しなければならない。
おおよそ検討はついているが、向こうから仕掛けてこなければ正統な理由で叩き伏せることができない。
「めんどくせぇな」
とシエルがぼやく。
「あのう……」
「何だ?」
シエルがじろりと睨むように見るので、ベリルは少々身を縮める。
「好きな女性には好きだって言わないと伝わりませんよ?」
シエルはさらにベリルをじろりと睨みつけた。
「うるさい!」
「すいません。余計なことを言いました!」
ペコペコ頭を下げるベリルを見下ろしながら、シエルは複雑な心境にあった。
362
お気に入りに追加
4,925
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。
Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。
二人から見下される正妃クローディア。
正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。
国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。
クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。