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14、私が正統な伯爵令嬢よ【マギー視点】

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「マギー、なぜあんなところで違法煙草ヘドニラを吸っていたんだ? 人にバレてしまっては伯爵家は終わりだぞ」

 マギーが伯爵邸の外でこっそり違法煙草ヘドニラを吸っていたことに、伯爵は激怒して怒鳴りつけた。
 伯爵夫人が慌てて訂正する。


「あなた、この子はフローラでしょう。間違えないで……」
「今はそんなことどうでもいい!」

 伯爵は怒りのあまり頭に血がのぼっているのか、体裁を忘れている。
 マギーは歯を食いしばり、伯爵を睨んだ。

 なぜ、私が怒られなければならないの?
 水路に落ちて足を怪我したのに。

 幸いかすり傷で済んだが、骨折していたら大惨事になるところだ。


「お父さまも吸っていらっしゃるでしょう? なぜ私は駄目なのですか?」

 マギーが言い返すと、伯爵はさらに声を荒らげた。


「部屋で吸えばいいだろう! 今後は外で吸うことは禁じる!」
「だったら、もっと香りの強い香水やお花で部屋を飾ってください。煙草の匂いがする部屋に寝泊まりなんてできませんもの」
「うるさい。今後は喫煙を禁止する。公爵家に嫁ぐ身なのだぞ。このことがバレたら破談になるぞ!」


 違法煙草ヘドニラはその効能が凄まじく、吸えば魂が解放されるほどの快楽を得ることができる。
 昔はそれを男女の営みで使われることが多かったが、多用すると精神が崩壊し、獣のように暴れ狂う狂人になり得るのだ。それゆえ、前国王陛下の時代に禁止されてしまった。
 というのは表向きで、材料の草が減少したため、大変貴重なものとなり、主に王族が適量を使用するために独占しているというわけだ。
 それでも、貴族のあいだでは闇取引で流通しているのが現状である。


「お父さまが公爵さまになかなか会わせてくれないから苛立ちが爆発したのですわ。だったらもう、お酒に頼るしかありませんわね。お父さまはおわかりかしら? 私が公爵家に嫁がなくなればこの家がどうなるのか。すべてはこの私にかかっているのよ。お父さまは身の程を知るべきだわ!」

 マギーは憤慨し、八つ当たりぎみに言い捨てる。
 すると、伯爵は怒りが爆発したのか手を振り上げた。


「わがままは許さんぞ!」

 伯爵はマギーの頬を引っ叩いた。
 マギーは驚愕し、母親に抱きついて泣き叫ぶ。

「ああああっ! お母さまぁ! お父さまがぶったわ!」
「あなた、娘を叩くなんて酷いわ。嫁入り前なのに」

 非難する夫人に対しても、伯爵は声を荒らげた。


「お前たちこそ自分たちの身の程をわかっているのか? 平民出身のくせに、私がいなければお前たちは露頭に迷って今頃死んでいるぞ。せっかくフローラを排除してやったのに、これならフローラのほうが大人しい分マシだったな!」
「ひ、酷いわ、お父さま! 私がフローラよ! 生まれたときから私がこの家の令嬢なのよ!」

 泣きながら訴えるマギーに、伯爵はふんっと鼻を鳴らした。


「とにかく、結婚するまで大人しくしているんだ。高い金を払って呪術師まで雇って、お前をフローラにしてやったのだ。感謝しろ」

 伯爵は怒りの収まらない顔で部屋を出ていった。


「さあ、フローラ。泣くのはもうおやめなさい。せっかくの美しい顔が台無しになるわ。あなたは花嫁なのよ」

 夫人に頭を撫でられながら、マギーはぐしゅっとハンカチで鼻をかんだ。

「おかあ、さまぁ……わたし、が……伯爵令嬢、なのよね?」
「当たり前でしょう。お父さまはきっと頭に血がのぼってしまったのよ。気にしなくていいわ」
「そうよ……私が、令嬢よ……あの女が平民よ」


 マギーは悔しさに心が耐えられなかった。
 自室に戻る際、廊下で拭き掃除をしているフローラの姿を見た。
 蹴り飛ばしたくなる衝動にかられ、彼女の背後まで迫る。
 そして、近くにあったバケツに足をかけて、転がした。
 がらんっとバケツが音を立てて倒れ、汚れた水が廊下に流れてフローラの足下を濡らしていく。


「まあっ! なんて無礼なの! 主人の目の前を汚すなんて。躾が必要ね」

 マギーが手を振り上げると、すぐさまフローラにその腕をつかまれた。
 フローラはマギーの腕をつかんだまま、じっと睨みつけてくる。


「な、何よ。何なのよ! あんた、使用人になったくせにどうしてそんなに偉そうなの?」
「私はただ掃除をしていただけ。あなたから近づいてきたのでしょう? 叩かれる筋合いはないわ」
「は、放しなさいよ!」


 マギーが手を振りほどこうと暴れると、フローラは本当に手を離した。
 すると、その衝動でマギーは後ろに反り返り、そのまま床に尻もちをついて転んだ。


「ぶ、無礼者! 主人になんてことをするの? 誰か、誰か来て、この者に鞭打ちをして!」
「誰も来ませんよ。だって、あなたが命令したのでしょう? あなたの部屋の模様替えを今日中に行うようにって。他の使用人はそちらへ行って手が足りません。だから私がここを掃除しているのです」


 マギーはギリギリと歯を食いしばりながら、逃げるように立ち去った。


 覚えていなさいよ、フローラ。
 私が公爵家に嫁いだあとは、あなたを娼館へ売り飛ばしてやるんだから!


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