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最後の危機①
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ディアナ王国はすでにユリウスを中心にまわっていた。
国王の容態が少し安定していたが、多くの手はそちらへまわりユリウスはさまざまな雑務も担うことになった。
執務机には大量の書類が積み上がり、山ほど届く貴族からの嘆願書も目を通さなければならない。
ユリウスはうんざりした顔でそれらを見つめた。
(はぁ……やることが多すぎて死にそう)
それでも、アランの機嫌をうかがいながらおこなっていたときよりも幾分か楽だ。
ユリウスは渋々仕事に取りかかる。
ところが、すぐに侍従が執務室を訪れ、中断させられてしまった。
侍従はかなり慌てた様子で息を切らせている。
「大変です。アラン殿下が騎士を殺害して逃げ出したそうです」
「何だって? 兄上はどこへ?」
「わかりません。すぐに治安隊にも町を探させています」
ユリウスはしばらく考えて、もしやと思い至った。
「国境の検問を強化して!」
「承知しました」
侍従が出ていったあと、ユリウスは神妙な面持ちで考え込んだ。
(もしかしたら兄上は……)
*
そこは辺境にある貧民街だ。
町中のあちこちに飢えで倒れた人々の姿がある。
黒いフードをかぶった男たちが数人、とある古い建物の中に入っていった。
そこには同じようなフード姿の人間が集まっている。
ここは闇商人の取り引き現場だ。
違法な品の売買だけでなく、人買いもおこなっている。
頼まれれば暗殺も請け負っていた。
最近アストレア帝国の皇太子によって動きにくくなっている。
彼らは皇太子の暗殺を目論んでいた。
綿密な計画を練り、皇太子を殺害するチャンスをうかがっている。
そんなときに現れたのが、アランだった。
アランは大量の金貨の入った袋を彼らに見せつけて言った。
「俺をアストレア帝国へ連れて行け」
アランは皇太子とともにいるリエルに近づくために、この暗殺集団に紛れ込むつもりだった。
(リエル、お前のせいで俺の人生はめちゃくちゃになった。お前が手に入らないなら……)
アランは憎悪で歪んだ表情で、口もとだけ笑みを浮かべる。
(お前を殺して俺も死ぬ)
*
アラン失踪の件はアストレア帝国の皇宮にも入った。
「ディアナ王国からの連絡です。アラン王子が逃げ出したそうです。国境を越えた可能性があると」
「何だって?」
騎士のルッツから報告を受けたグレンは驚き、頭を抱えて唸った。
「本当にあの国の警備は緩いな」
「我が国に侵入する可能性があります」
「だろうね。アランの狙いは俺かリエルだ」
「検問を強化しておりますが、すでに入り込んでいる可能性も」
グレンは苦悶の表情で嘆息する。
ルッツはもうひとつ付け加える。
「あと、実は皇家に怨みを持つ者たちの集団と行動しているという情報も」
「それはまずいな。アランひとりなら何とかなるが、一斉に来られると」
「治安隊に警備の強化をさせて、我々も全力で行方を追います」
グレンは神妙な面持ちになる。
せっかくの晴れの日だというのに、それどころではなくなった。
同時に、いやな予感がする。
「今日はリエルの皇宮入りの日だ。急いで連絡を」
「はい」
「いや、俺も行く」
「え?」
グレンは騎士たちとともに馬に乗ってリエルの住む屋敷へ駆けていった。
国王の容態が少し安定していたが、多くの手はそちらへまわりユリウスはさまざまな雑務も担うことになった。
執務机には大量の書類が積み上がり、山ほど届く貴族からの嘆願書も目を通さなければならない。
ユリウスはうんざりした顔でそれらを見つめた。
(はぁ……やることが多すぎて死にそう)
それでも、アランの機嫌をうかがいながらおこなっていたときよりも幾分か楽だ。
ユリウスは渋々仕事に取りかかる。
ところが、すぐに侍従が執務室を訪れ、中断させられてしまった。
侍従はかなり慌てた様子で息を切らせている。
「大変です。アラン殿下が騎士を殺害して逃げ出したそうです」
「何だって? 兄上はどこへ?」
「わかりません。すぐに治安隊にも町を探させています」
ユリウスはしばらく考えて、もしやと思い至った。
「国境の検問を強化して!」
「承知しました」
侍従が出ていったあと、ユリウスは神妙な面持ちで考え込んだ。
(もしかしたら兄上は……)
*
そこは辺境にある貧民街だ。
町中のあちこちに飢えで倒れた人々の姿がある。
黒いフードをかぶった男たちが数人、とある古い建物の中に入っていった。
そこには同じようなフード姿の人間が集まっている。
ここは闇商人の取り引き現場だ。
違法な品の売買だけでなく、人買いもおこなっている。
頼まれれば暗殺も請け負っていた。
最近アストレア帝国の皇太子によって動きにくくなっている。
彼らは皇太子の暗殺を目論んでいた。
綿密な計画を練り、皇太子を殺害するチャンスをうかがっている。
そんなときに現れたのが、アランだった。
アランは大量の金貨の入った袋を彼らに見せつけて言った。
「俺をアストレア帝国へ連れて行け」
アランは皇太子とともにいるリエルに近づくために、この暗殺集団に紛れ込むつもりだった。
(リエル、お前のせいで俺の人生はめちゃくちゃになった。お前が手に入らないなら……)
アランは憎悪で歪んだ表情で、口もとだけ笑みを浮かべる。
(お前を殺して俺も死ぬ)
*
アラン失踪の件はアストレア帝国の皇宮にも入った。
「ディアナ王国からの連絡です。アラン王子が逃げ出したそうです。国境を越えた可能性があると」
「何だって?」
騎士のルッツから報告を受けたグレンは驚き、頭を抱えて唸った。
「本当にあの国の警備は緩いな」
「我が国に侵入する可能性があります」
「だろうね。アランの狙いは俺かリエルだ」
「検問を強化しておりますが、すでに入り込んでいる可能性も」
グレンは苦悶の表情で嘆息する。
ルッツはもうひとつ付け加える。
「あと、実は皇家に怨みを持つ者たちの集団と行動しているという情報も」
「それはまずいな。アランひとりなら何とかなるが、一斉に来られると」
「治安隊に警備の強化をさせて、我々も全力で行方を追います」
グレンは神妙な面持ちになる。
せっかくの晴れの日だというのに、それどころではなくなった。
同時に、いやな予感がする。
「今日はリエルの皇宮入りの日だ。急いで連絡を」
「はい」
「いや、俺も行く」
「え?」
グレンは騎士たちとともに馬に乗ってリエルの住む屋敷へ駆けていった。
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