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王太子の廃位

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 アランとノエラが帰国した王宮は殺伐としていた。
 帰国してすぐ、事件を知った国王陛下が命令を下したからだ。

「アラン。お前の王位継承権を剥奪する」

 アランは父王の前で膝をつき、呆然としていた。

「私はお前に何度もチャンスを与えた。だが、お前は何も変わらなかった。それどころか、自分が捨てた婚約者を追いかけるとは、この国の王太子としてとんでもない恥さらしだ」

 アランは俯いたまま歯を食いしばる。

「俺は……」

 アランは顔を上げて何か言いわけをしようとしたが、すぐに騎士たちに腕を掴まれてしまった。
 アランは激昂し、暴れながら周囲に叫ぶ。

「放せ! 俺を誰だと思ってる? 王太子だぞ!」

 国王はアランを無言で見つめている。

「やめろ! 無礼なことをするな!」

 アランは騎士たちに引きずられながら喚き散らす。

「やめろおおおっ!!!」

 バタンと扉が閉まった。
 静寂が訪れると、別室からユリウスが静かに出てきた。

「父上、これでよかったのですか? 兄上は……」
「お前もわかっていたことだろう?」

 ユリウスは神妙な面持ちで記憶を辿る。
 あれはアランとリエルの婚約披露パーティの3日前のことだ。
 貴賓室に呼び出されたユリウスが目にしたのは国王とグレンの姿だった。
 彼らは今後についての話をしていたのである。


 ――――
 ―――――――

「これは何事ですか?」

 ユリウスが訊ねると、それに答えたのはグレンだった。

「今後、我が国との橋渡し役として君が選ばれた」
「え? だって、兄上は……?」
「君の兄上は俺のことが大嫌いでね。仕事に私情を挟むからやりにくいんだ。今後は君と密に連絡を取り合いたいと思っている」
「それは……僕はかまいませんが、やはり兄上がどう思うか……」

 ユリウスの歯切れの悪い回答に、国王とグレンは神妙な面持ちで見つめる。
 グレンは少し強い口調でユリウスに告げた。

「君の話は聞いている。心優しい人だと俺は思う。だが、それだけでは国を治めることはできない」
「えっ……?」

 突然そんなことを言われたユリウスは戸惑い混乱する。

「何を言って……よく、話が見えないのですが……」

 それには国王が答えた。

「私はまだ、王位の継承をどちらにするか決めていない」
「え? だって権利があるのは兄上ですよね?」
「お前の目から見て、あやつが王に向いていると思うか?」
「それは……」

 ユリウスは言葉に詰まった。

 するとグレンが明るく話しかけた。

「そういうこと。だから、君はもっと強くならなきゃいけない。優しいだけでは王にはなれないからね」

 その後、しばらく話し合って、国王が先に退室した。
 その場にふたりが残り、グレンはユリウスに小さな麻袋を差し出した。

「これは何ですか?」
「ラグレンスの葉だ。知っているか?」
「ええっ!? こんな貴重なもの、いただけません!」
「いいんだ。俺からの詫びだ。これからちょっと騒ぎを起こすから」
「騒ぎ、ですか?」
「リエルとともにこの国を出る」
「どういうことですか? どうして義姉上あねうえとあなたが?」
「リエルには我が国に来てもらう。彼女に必要なのは彼女の実力が発揮できる環境だ」

 ユリウスは困惑の表情で言葉に詰まる。

「君も気づいているだろう? リエルがどんな状況に置かれているか。君の兄にどんな扱いを受けているか」

 ユリウスはそれを聞くと黙って俯いた。
 知っている。だが、あの兄に反発する勇気がない。
 だから、見て見ぬふりをしていた。
 そのことはリエルに申しわけないと思っているが、兄は何を言っても無視するから諦めていた。

「ごめんなさい」
「謝る必要はないが、申しわけないと思っているなら、君がこの国を変えろ」

 グレンはそう言って席を立った。

「君の兄がやらかした問題は山積みだ。君はそれをどう解決する?」
「僕にできるのでしょうか?」
「できるかどうかじゃない。やるしかないんだ。王になる人間なら」
「僕は王になんて……」

 グレンはユリウスの弱々しい言葉を遮るように、力強く言った。

「民のことを一番に考えられる人間が、王になるべきだと俺は思う」

 グレンはそう言ったあと、さっさと部屋を出ていく。
 ユリウスがその背中を目で追っていると、グレンは立ち止まり、少し振り返って言った。

「王宮では毒殺未遂がよく起こる。ラグレンスの茶は飲んでいて損はないよ」

 グレン退室したあと、ユリウスはラグレンスの葉が入った袋を見つめていた。

 ―――――――
 ――――

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