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平穏に戻ったあと

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「リエル」

 声をかけられて振り向くと、先ほどまで冷たい表情だったグレンがにこやかに笑っていた。
 リエルはほっと安堵する。

(あんな姿を見ちゃったから緊張しちゃうわ)

 我を忘れてアランを本気で殺そうとしたグレンの姿を思い出し、リエルは少し身構えてしまった。

「ありがとう。適切な処罰をしてくれて」
「本当はこの城の地下に死ぬまで閉じ込めておきたかったんだけど、同じ空気を吸うだけでこっちが死にそうになるから仕方なく」
「……そ、そう」

 満面の笑みでそんなことを言うグレンに、リエルは呆れ顔になった。

(毒舌ができるくらいだからもう大丈夫よね)

 アランを地下牢に幽閉し、人質にしておけば、ディアナ王国と何かしらの交渉をすることもできる。
 しかしグレンはまったく乗り気ではなかった。

「あの国から得られるものはあまりないしなあ」

 グレンはわざとらしくため息をついてそんなことを言った。

「一応……いいところも、あるのよ……小さい国だけど」

 リエルはぼそりと反論する。
 追放されたとはいえ、育った故郷だ。
 まったく未練がないとは言えない。

「ああ。リエルを育てた国だからな」

 グレンはリエルの肩に腕をまわして自分に抱き寄せながら言う。

「最高の国だ」
「お世辞はいいわよ」

 リエルは赤面しながらぼやいた。
 あまりにもグレンを意識しすぎてしまう。

(私を好き? 本当に? 聞いてみようかしら?)

 リエルはちらりとグレンを見た。
 グレンはリエルの肩を抱いたまま、ルッツと話をしている。

(いいえ、ルッツの勘違いかもしれないわ。だってグレンははっきりと恋人のふりだって言ったもの)

 考えるだけでますます顔が熱くなって困った。

(考えちゃだめよ。平常心)

 リエルは深呼吸をして別のことを考える。
 ちょうどそのタイミングでユリウスに声をかけられた。

「皇太子殿下、リエルさま」

 ユリウスは侍従に手を添えられて歩いてきた。

「ユリウス殿下、お怪我は大丈夫ですか?」
「これくらい、たいしたことないです」

 にっこり笑って返答するユリウスに、グレンが一歩前に出て頭を下げる。

「リエルを守ってくれてありがとう。あなたには感謝している」
「当たり前のことをしただけです」
「少し話そう。リエルも一緒に。ユリウス殿下には辺境の騎士団駐在の件について話したい」

 それを聞いたリエルは「あっ……」と声を上げた。
 つまり、アランとの約束事はすべて破棄するが、ユリウスと新たに同じ協定を結べばいいのだ。

(そういうことだったのね)

 リエルは笑みを浮かべた。
 そして三人は貴賓室へ移動し、お茶を飲みながら今後の話をした。

 それから一週間後――。
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