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皇太子の想い
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気絶したアランは騎士たちに運ばれて部屋を出ていった。
ユリウスは騒ぎに集まってきた人たちに慌てて部屋へ入らないよう促す。
リエルとグレンは部屋の中でふたりきりになった。
グレンはリエルの肩があらわになっているのを見て、自分の上着を羽織らせる。
「よかった。本当に……無事で」
「とんでもないところを見せてしまったわ。ごめんなさい」
「まったくだよ。怒りで死ぬかと思った」
「何それ?」
グレンにいつもの軽妙な口調が戻り、リエルはふふっと笑った。
(でも、どうしてそんなに怒ったのかしら? 心配するのならわかるけど)
グレンの尋常でない怒りにリエルが怯えるほどだった。
彼は落ち着いた表情でリエルの髪を撫でる。
そしてリエルの赤くなった頬にも触れて、眉をひそめた。
「頬が腫れているな。殴られたのか?」
「ええ。でも平気。少し口を切っただけよ」
「血が出ている」
「大丈夫。すぐ止まるわ」
グレンは苦しげな表情でふたたびリエルを抱きしめた。
「もし少しでも遅れていたらと思うと、気がどうにかなりそうだ」
グレンの鼓動の音が激しく鳴るのを感じとったリエルは、彼を安心させるために穏やかな口調で話す。
「大丈夫。実はいざとなったら思いきりド真ん中に膝蹴りしてやろうと思ったの」
それを聞いたグレンはわずかに笑いを洩らした。
「してやればよかったのに」
「その前にあなたが部屋に駆け込んできたから」
「惜しかったな」
「意地悪ね」
「それくらい許してくれ。心臓が止まりそうだったんだ」
グレンの腕に力が入り、彼の胸に押しつけられる。
リエルは胸の奥がぎゅっとして、鼓動が高鳴った。
(不思議だわ。アランに触られたときはあんなに気持ち悪かったのに、グレンはそうでもないわ)
それどころか心地よくて安心する。
リエルはグレンの胸の中で満たされるような気持ちになり微笑んだ。
ルッツが部屋へ入ってきたのも気づかずに、ふたりはしばらく抱き合っていた。
するとルッツはわざとらしく咳払いをした。
「殿下、人が集まっています。そろそろ……」
「……いやだ」
グレンの発言に驚いたのはリエルだけではない。
ルッツも眉をひそめ、呆れ顔になっている。
「続きは自室でされたらいかがですか?」
「えっ!?」
グレンは顔を上げて、急に明るい表情になった。
そして、満面の笑みでリエルに提案する。
「そうか。俺の部屋に来る?」
「どういう意味で言っているの?」
リエルは半眼でグレンを睨みつけた。
グレンは肩をすくめて残念そうにため息をつく。
「仕方ない。騒ぎを収めないとね」
グレンはリエルの頭をぽんぽんと撫でてから名残惜しそうに離れた。
グレンは部屋を出る前にルッツに命じた。
「リエルから片時も離れないでくれ」
「承知しております」
ルッツが頭を下げると、グレンはふたたびリエルに顔を向けて、切なげな表情になった。
「リエル、またあとで」
妙に弱々しい表情をするグレンを見ると、リエルは複雑な心境になる。
ぼんやり突っ立っているとルッツが近づいてきた。
「手を貸しますか?」
「いいえ、大丈夫です」
リエルはルッツとともに部屋を出る。
どれほどの騒ぎになっているのか危惧したが、グレンが人払いをしてくれたおかげか落ち着いていた。
「それにしても、殿下のあれほど狼狽える姿は初めて見た」
ルッツはリエルのとなりで淡々と話す。
そして、ちらりとリエルに目をやって意味ありげなことを口にした。
「それほど、あなたを好いていらっしゃるということだ」
「え?」
リエルは驚いて絶句した。
急激に鼓動が高鳴っていく。
(グレンが私を、好き……?)
ユリウスは騒ぎに集まってきた人たちに慌てて部屋へ入らないよう促す。
リエルとグレンは部屋の中でふたりきりになった。
グレンはリエルの肩があらわになっているのを見て、自分の上着を羽織らせる。
「よかった。本当に……無事で」
「とんでもないところを見せてしまったわ。ごめんなさい」
「まったくだよ。怒りで死ぬかと思った」
「何それ?」
グレンにいつもの軽妙な口調が戻り、リエルはふふっと笑った。
(でも、どうしてそんなに怒ったのかしら? 心配するのならわかるけど)
グレンの尋常でない怒りにリエルが怯えるほどだった。
彼は落ち着いた表情でリエルの髪を撫でる。
そしてリエルの赤くなった頬にも触れて、眉をひそめた。
「頬が腫れているな。殴られたのか?」
「ええ。でも平気。少し口を切っただけよ」
「血が出ている」
「大丈夫。すぐ止まるわ」
グレンは苦しげな表情でふたたびリエルを抱きしめた。
「もし少しでも遅れていたらと思うと、気がどうにかなりそうだ」
グレンの鼓動の音が激しく鳴るのを感じとったリエルは、彼を安心させるために穏やかな口調で話す。
「大丈夫。実はいざとなったら思いきりド真ん中に膝蹴りしてやろうと思ったの」
それを聞いたグレンはわずかに笑いを洩らした。
「してやればよかったのに」
「その前にあなたが部屋に駆け込んできたから」
「惜しかったな」
「意地悪ね」
「それくらい許してくれ。心臓が止まりそうだったんだ」
グレンの腕に力が入り、彼の胸に押しつけられる。
リエルは胸の奥がぎゅっとして、鼓動が高鳴った。
(不思議だわ。アランに触られたときはあんなに気持ち悪かったのに、グレンはそうでもないわ)
それどころか心地よくて安心する。
リエルはグレンの胸の中で満たされるような気持ちになり微笑んだ。
ルッツが部屋へ入ってきたのも気づかずに、ふたりはしばらく抱き合っていた。
するとルッツはわざとらしく咳払いをした。
「殿下、人が集まっています。そろそろ……」
「……いやだ」
グレンの発言に驚いたのはリエルだけではない。
ルッツも眉をひそめ、呆れ顔になっている。
「続きは自室でされたらいかがですか?」
「えっ!?」
グレンは顔を上げて、急に明るい表情になった。
そして、満面の笑みでリエルに提案する。
「そうか。俺の部屋に来る?」
「どういう意味で言っているの?」
リエルは半眼でグレンを睨みつけた。
グレンは肩をすくめて残念そうにため息をつく。
「仕方ない。騒ぎを収めないとね」
グレンはリエルの頭をぽんぽんと撫でてから名残惜しそうに離れた。
グレンは部屋を出る前にルッツに命じた。
「リエルから片時も離れないでくれ」
「承知しております」
ルッツが頭を下げると、グレンはふたたびリエルに顔を向けて、切なげな表情になった。
「リエル、またあとで」
妙に弱々しい表情をするグレンを見ると、リエルは複雑な心境になる。
ぼんやり突っ立っているとルッツが近づいてきた。
「手を貸しますか?」
「いいえ、大丈夫です」
リエルはルッツとともに部屋を出る。
どれほどの騒ぎになっているのか危惧したが、グレンが人払いをしてくれたおかげか落ち着いていた。
「それにしても、殿下のあれほど狼狽える姿は初めて見た」
ルッツはリエルのとなりで淡々と話す。
そして、ちらりとリエルに目をやって意味ありげなことを口にした。
「それほど、あなたを好いていらっしゃるということだ」
「え?」
リエルは驚いて絶句した。
急激に鼓動が高鳴っていく。
(グレンが私を、好き……?)
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