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かどわかされた
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グレンはリエルの姿を見失い、探しまわっていた。
先ほどリエルと話していた貴族を見つけて、声をかけてみる。
「失礼。カーレン令嬢はどちらへ?」
すると彼らは首を傾げながら答えた。
「私たちは先ほど話を終えて、令嬢は別の人と話していたと思いますよ」
「そういや他の令嬢が具合悪そうにしていたから、外へ連れ出してあげたのではないかな?」
グレンは「ありがとう」と言って急いでパーティ会場を出た。
気がかりなことがあり、いても立ってもいられないのだ。
(アランもノエラも会場内で見かけない。もしかしたらリエルと接触している可能性がある)
協定を結んで友好的な外交関係にあるディアナ王国を招待するのは当然のことだったが、グレンは正直アランたちが来ることを好ましく思っていなかった。
自分がリエルにつきっきりでいれば問題ないと思っていた。
だが、リエルの姿が見えない。
グレンは少々焦っていた。
*
その頃、リエルは貴族たちとすれ違いながらグレンのいる会場へ戻っていた。
人目が多く、ここで何かが起こるとすぐに騒ぎになる。
だが、それを逆手に取った者がいた。
「ふっ……!?」
リエルは突然背後から布で口を塞がれて、くらりと眩暈がした。
そのまま床に膝をつき、崩れ落ちる。
誰かが背後からリエルを抱きかかえるようにしてぴったりくっついてきた。
「大丈夫か? 気分が悪いのか?」
わざとらしく周囲に聞こえるように声を上げる背後の者に、リエルは驚愕した。
(この声はアラン……何を言っているの?)
声を上げようにもひとことも言葉を発することができない。
周囲がざわついているのは聞こえた。
「まあ、令嬢が倒れたわ」
「大変。客室で休ませては?」
アランはその声に応えるように、大声で言った。
「彼女は私の婚約者なんです。私が連れていきます」
どくんっと激しく鼓動が鳴った。
リエルは混乱している。
(どういうこと?)
リエルは薄れゆく意識の中、アランに抱きかかえられた。
抵抗したいのにまったく腕に力が入らない。
「リエル、大丈夫か? 少し部屋で休もう。みなさん、ご心配なく」
アランは周囲に声をかけたあと、リエルの髪を撫でた。
その感触にリエルはぞっとした。
(やめてやめてやめて! 触らないで!)
しかし声を出せず、瞼も閉じて、何も見えない。
ただ、耳だけははっきりしていた。
「まあ、お大事に」
「パートナーがいらしてよかったわね」
そう言って周囲の人々は去っていく。
完全にリエルがアランの婚約者だと思い込んでいるようだ。
リエルは絶望感に浸りながら意識を手放した。
アランがリエルを抱えて立ち去ると、貴族たちはふたたび談笑した。
しかし、その中には訝しく思う令嬢もいた。
「あら? 変ね。あの水色のストールをつけた令嬢って、皇太子殿下の婚約者ではなかったかしら?」
先ほどリエルと話していた貴族を見つけて、声をかけてみる。
「失礼。カーレン令嬢はどちらへ?」
すると彼らは首を傾げながら答えた。
「私たちは先ほど話を終えて、令嬢は別の人と話していたと思いますよ」
「そういや他の令嬢が具合悪そうにしていたから、外へ連れ出してあげたのではないかな?」
グレンは「ありがとう」と言って急いでパーティ会場を出た。
気がかりなことがあり、いても立ってもいられないのだ。
(アランもノエラも会場内で見かけない。もしかしたらリエルと接触している可能性がある)
協定を結んで友好的な外交関係にあるディアナ王国を招待するのは当然のことだったが、グレンは正直アランたちが来ることを好ましく思っていなかった。
自分がリエルにつきっきりでいれば問題ないと思っていた。
だが、リエルの姿が見えない。
グレンは少々焦っていた。
*
その頃、リエルは貴族たちとすれ違いながらグレンのいる会場へ戻っていた。
人目が多く、ここで何かが起こるとすぐに騒ぎになる。
だが、それを逆手に取った者がいた。
「ふっ……!?」
リエルは突然背後から布で口を塞がれて、くらりと眩暈がした。
そのまま床に膝をつき、崩れ落ちる。
誰かが背後からリエルを抱きかかえるようにしてぴったりくっついてきた。
「大丈夫か? 気分が悪いのか?」
わざとらしく周囲に聞こえるように声を上げる背後の者に、リエルは驚愕した。
(この声はアラン……何を言っているの?)
声を上げようにもひとことも言葉を発することができない。
周囲がざわついているのは聞こえた。
「まあ、令嬢が倒れたわ」
「大変。客室で休ませては?」
アランはその声に応えるように、大声で言った。
「彼女は私の婚約者なんです。私が連れていきます」
どくんっと激しく鼓動が鳴った。
リエルは混乱している。
(どういうこと?)
リエルは薄れゆく意識の中、アランに抱きかかえられた。
抵抗したいのにまったく腕に力が入らない。
「リエル、大丈夫か? 少し部屋で休もう。みなさん、ご心配なく」
アランは周囲に声をかけたあと、リエルの髪を撫でた。
その感触にリエルはぞっとした。
(やめてやめてやめて! 触らないで!)
しかし声を出せず、瞼も閉じて、何も見えない。
ただ、耳だけははっきりしていた。
「まあ、お大事に」
「パートナーがいらしてよかったわね」
そう言って周囲の人々は去っていく。
完全にリエルがアランの婚約者だと思い込んでいるようだ。
リエルは絶望感に浸りながら意識を手放した。
アランがリエルを抱えて立ち去ると、貴族たちはふたたび談笑した。
しかし、その中には訝しく思う令嬢もいた。
「あら? 変ね。あの水色のストールをつけた令嬢って、皇太子殿下の婚約者ではなかったかしら?」
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