92 / 110
かどわかされた
しおりを挟む
グレンはリエルの姿を見失い、探しまわっていた。
先ほどリエルと話していた貴族を見つけて、声をかけてみる。
「失礼。カーレン令嬢はどちらへ?」
すると彼らは首を傾げながら答えた。
「私たちは先ほど話を終えて、令嬢は別の人と話していたと思いますよ」
「そういや他の令嬢が具合悪そうにしていたから、外へ連れ出してあげたのではないかな?」
グレンは「ありがとう」と言って急いでパーティ会場を出た。
気がかりなことがあり、いても立ってもいられないのだ。
(アランもノエラも会場内で見かけない。もしかしたらリエルと接触している可能性がある)
協定を結んで友好的な外交関係にあるディアナ王国を招待するのは当然のことだったが、グレンは正直アランたちが来ることを好ましく思っていなかった。
自分がリエルにつきっきりでいれば問題ないと思っていた。
だが、リエルの姿が見えない。
グレンは少々焦っていた。
*
その頃、リエルは貴族たちとすれ違いながらグレンのいる会場へ戻っていた。
人目が多く、ここで何かが起こるとすぐに騒ぎになる。
だが、それを逆手に取った者がいた。
「ふっ……!?」
リエルは突然背後から布で口を塞がれて、くらりと眩暈がした。
そのまま床に膝をつき、崩れ落ちる。
誰かが背後からリエルを抱きかかえるようにしてぴったりくっついてきた。
「大丈夫か? 気分が悪いのか?」
わざとらしく周囲に聞こえるように声を上げる背後の者に、リエルは驚愕した。
(この声はアラン……何を言っているの?)
声を上げようにもひとことも言葉を発することができない。
周囲がざわついているのは聞こえた。
「まあ、令嬢が倒れたわ」
「大変。客室で休ませては?」
アランはその声に応えるように、大声で言った。
「彼女は私の婚約者なんです。私が連れていきます」
どくんっと激しく鼓動が鳴った。
リエルは混乱している。
(どういうこと?)
リエルは薄れゆく意識の中、アランに抱きかかえられた。
抵抗したいのにまったく腕に力が入らない。
「リエル、大丈夫か? 少し部屋で休もう。みなさん、ご心配なく」
アランは周囲に声をかけたあと、リエルの髪を撫でた。
その感触にリエルはぞっとした。
(やめてやめてやめて! 触らないで!)
しかし声を出せず、瞼も閉じて、何も見えない。
ただ、耳だけははっきりしていた。
「まあ、お大事に」
「パートナーがいらしてよかったわね」
そう言って周囲の人々は去っていく。
完全にリエルがアランの婚約者だと思い込んでいるようだ。
リエルは絶望感に浸りながら意識を手放した。
アランがリエルを抱えて立ち去ると、貴族たちはふたたび談笑した。
しかし、その中には訝しく思う令嬢もいた。
「あら? 変ね。あの水色のストールをつけた令嬢って、皇太子殿下の婚約者ではなかったかしら?」
先ほどリエルと話していた貴族を見つけて、声をかけてみる。
「失礼。カーレン令嬢はどちらへ?」
すると彼らは首を傾げながら答えた。
「私たちは先ほど話を終えて、令嬢は別の人と話していたと思いますよ」
「そういや他の令嬢が具合悪そうにしていたから、外へ連れ出してあげたのではないかな?」
グレンは「ありがとう」と言って急いでパーティ会場を出た。
気がかりなことがあり、いても立ってもいられないのだ。
(アランもノエラも会場内で見かけない。もしかしたらリエルと接触している可能性がある)
協定を結んで友好的な外交関係にあるディアナ王国を招待するのは当然のことだったが、グレンは正直アランたちが来ることを好ましく思っていなかった。
自分がリエルにつきっきりでいれば問題ないと思っていた。
だが、リエルの姿が見えない。
グレンは少々焦っていた。
*
その頃、リエルは貴族たちとすれ違いながらグレンのいる会場へ戻っていた。
人目が多く、ここで何かが起こるとすぐに騒ぎになる。
だが、それを逆手に取った者がいた。
「ふっ……!?」
リエルは突然背後から布で口を塞がれて、くらりと眩暈がした。
そのまま床に膝をつき、崩れ落ちる。
誰かが背後からリエルを抱きかかえるようにしてぴったりくっついてきた。
「大丈夫か? 気分が悪いのか?」
わざとらしく周囲に聞こえるように声を上げる背後の者に、リエルは驚愕した。
(この声はアラン……何を言っているの?)
声を上げようにもひとことも言葉を発することができない。
周囲がざわついているのは聞こえた。
「まあ、令嬢が倒れたわ」
「大変。客室で休ませては?」
アランはその声に応えるように、大声で言った。
「彼女は私の婚約者なんです。私が連れていきます」
どくんっと激しく鼓動が鳴った。
リエルは混乱している。
(どういうこと?)
リエルは薄れゆく意識の中、アランに抱きかかえられた。
抵抗したいのにまったく腕に力が入らない。
「リエル、大丈夫か? 少し部屋で休もう。みなさん、ご心配なく」
アランは周囲に声をかけたあと、リエルの髪を撫でた。
その感触にリエルはぞっとした。
(やめてやめてやめて! 触らないで!)
しかし声を出せず、瞼も閉じて、何も見えない。
ただ、耳だけははっきりしていた。
「まあ、お大事に」
「パートナーがいらしてよかったわね」
そう言って周囲の人々は去っていく。
完全にリエルがアランの婚約者だと思い込んでいるようだ。
リエルは絶望感に浸りながら意識を手放した。
アランがリエルを抱えて立ち去ると、貴族たちはふたたび談笑した。
しかし、その中には訝しく思う令嬢もいた。
「あら? 変ね。あの水色のストールをつけた令嬢って、皇太子殿下の婚約者ではなかったかしら?」
1,852
お気に入りに追加
5,344
あなたにおすすめの小説
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
私、女王にならなくてもいいの?
gacchi
恋愛
他国との戦争が続く中、女王になるために頑張っていたシルヴィア。16歳になる直前に父親である国王に告げられます。「お前の結婚相手が決まったよ。」「王配を決めたのですか?」「お前は女王にならないよ。」え?じゃあ、停戦のための政略結婚?え?どうしてあなたが結婚相手なの?5/9完結しました。ありがとうございました。
王子様、あなたの不貞を私は知っております
岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。
「私は知っております。王子様の不貞を……」
場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で?
本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる