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直接対決【リエル&ノエラ】

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 リエルが簡単な挨拶と世間話を済ませると、話していた相手は会釈をしてそのまま大階段を降りていった。
 それを見送ったあと、リエルが会場へ戻ろうとすると、背後から声をかけられた。

「あなたもこのパーティに参加していたのね」

 リエルはどきりとして振り返った。

「……ノエラ」

 ノエラはやけに笑顔を振りまいている。
 だが、リエルはそれを警戒した。
 ノエラは微笑みながら自身の首に巻いたピンクのストールを触ってみせる。

「このストール、とっても評判がいいのよ。あなたと色違いでお揃いなのね」
「デザインが少し違うわ。私のストールは試作品で、あなたのはオーダーメイドだもの」
「ふふっ、あたしのために特別に作ってくれたのね。嬉しいわ。さすが親友ね」

 リエルは親友という言葉に違和感を抱いた。
 妙にご機嫌なノエラにますます警戒心が高まっていく。
 リエルは冷静に話す。

「私はいただいたお金に見合うものを作っただけよ」
「あたしのドレス10着分ですものね。リエルはすっかり商売人になったのね」

 ノエラの表情がわずかに歪んだのを、リエルは見落とさなかった。

「皇太子殿下と婚約したのですって? おめでとう、リエル。お祝いさせてほしいわ」
「ありがとう。でも、戻らなければならないの」
「少しくらい、いいでしょ? 久しぶりにあなたと話したいわ。ふたりきりで」

 ノエラの口もとが不自然ににやける。
 どくんっとリエルの鼓動が鳴った。

 回帰前の記憶がよみがえる。
 あの事件の直前にも、ノエラとふたりきりで話をした。
 あのときワインを飲んだが、少し酔う程度だった。
 しかしノエラと別れたあと、だんだん身体がふらついてきて、廊下の端で壁にもたれていたところ、見知らぬ男が声をかけてきたのだ。
 そこからの記憶がなく、気づいたらアランに目撃された不貞の現場だ。

(あれは酔っていたのではなく、ノエラに薬を混ぜられていた?)

 あのときはパニックになっていてそこまで思考が及ばなかった。
 だが、すべてノエラがやったことなら納得がいく。

「ごめんなさい。そんな暇はないの」

 リエルが真顔できっぱり断ると、ノエラは苛立ちを滲ませた。
 しかしあくまで残念そうな顔で瞳をうるませながら返す。

「冷たいわ。リエルは変わってしまったのね。以前はもっと優しかったのに、皇太子殿下のせいかしら?」
「そうね。皇太子殿下と出会って私は変わってしまったの。以前の私とは違うわ」

 堂々と答えるリエルに、ノエラの口もとが歪む。

「まさか関係が続いているなんて思わなかったわ。あの飽きっぽい皇太子がリエルを相手にするとはね」
「何が言いたいの?」

 リエルが眉をひそめると、ノエラは口角を上げて言い放った。

「あなたは幸せになんかなれないわ。アラン殿下を裏切り、家族を捨てて、国まで捨てたのだから」

 もう愛想笑いをやめてしまったノエラに、リエルはある意味吹っ切れた。

「私が幸せになれるかどうかと、アラン殿下や家族の問題は別だと思うけど?」
「あなたが出ていったせいで殿下がどれほど苦労したと思ってるの?」
「私は殿下に追い出されたのよ。その後の殿下がどうなろうと私には何もできないわよ」
「リエルは自分さえよければいい人間なのね。なんて冷酷で薄情なのかしら?」

 ノエラは吐き捨てるように言い放った。
 リエルは呆れ返っている。

(もう反論する気にもなれないわ)

「ごめんなさい。あなたと話している暇はないのよ。これで失礼するわ」
「待ちなさいよ!」

 ノエラは立ち去ろうとするリエルを止めようと、慌てて手を伸ばした。
 リエルの後ろ姿を見て憎悪が膨れ上がる。
 ノエラの頭の中には学院時代に周囲からちやほやされるリエルの姿が浮かんだ。

(リエルがすべて奪った)

 アランに婚約者として選ばれ、王宮入りしたリエルの姿を思い出し、ノエラの胸中は怒りにわいた。

(やっと手に入れたのに……)

 リエルが婚約破棄され、王太子妃になれた。
 しかし、今やアランの心はリエルに向いている。

(また、あなたはあたしの幸せを奪おうとしている)

 皇太子のとなりで笑顔を振りまくリエルの姿を思い出す。

(それなのに、あなたが幸せになるなんて許せないわ!)

 リエルの腕を掴もうとしていたノエラは、激情に任せてその背中を思いきり突き飛ばした。

 その先にあるのは大階段。
 リエルはぐらりと体勢を崩し――。
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