90 / 110
直接対決【リエル&ノエラ】
しおりを挟む
リエルが簡単な挨拶と世間話を済ませると、話していた相手は会釈をしてそのまま大階段を降りていった。
それを見送ったあと、リエルが会場へ戻ろうとすると、背後から声をかけられた。
「あなたもこのパーティに参加していたのね」
リエルはどきりとして振り返った。
「……ノエラ」
ノエラはやけに笑顔を振りまいている。
だが、リエルはそれを警戒した。
ノエラは微笑みながら自身の首に巻いたピンクのストールを触ってみせる。
「このストール、とっても評判がいいのよ。あなたと色違いでお揃いなのね」
「デザインが少し違うわ。私のストールは試作品で、あなたのはオーダーメイドだもの」
「ふふっ、あたしのために特別に作ってくれたのね。嬉しいわ。さすが親友ね」
リエルは親友という言葉に違和感を抱いた。
妙にご機嫌なノエラにますます警戒心が高まっていく。
リエルは冷静に話す。
「私はいただいたお金に見合うものを作っただけよ」
「あたしのドレス10着分ですものね。リエルはすっかり商売人になったのね」
ノエラの表情がわずかに歪んだのを、リエルは見落とさなかった。
「皇太子殿下と婚約したのですって? おめでとう、リエル。お祝いさせてほしいわ」
「ありがとう。でも、戻らなければならないの」
「少しくらい、いいでしょ? 久しぶりにあなたと話したいわ。ふたりきりで」
ノエラの口もとが不自然ににやける。
どくんっとリエルの鼓動が鳴った。
回帰前の記憶がよみがえる。
あの事件の直前にも、ノエラとふたりきりで話をした。
あのときワインを飲んだが、少し酔う程度だった。
しかしノエラと別れたあと、だんだん身体がふらついてきて、廊下の端で壁にもたれていたところ、見知らぬ男が声をかけてきたのだ。
そこからの記憶がなく、気づいたらアランに目撃された不貞の現場だ。
(あれは酔っていたのではなく、ノエラに薬を混ぜられていた?)
あのときはパニックになっていてそこまで思考が及ばなかった。
だが、すべてノエラがやったことなら納得がいく。
「ごめんなさい。そんな暇はないの」
リエルが真顔できっぱり断ると、ノエラは苛立ちを滲ませた。
しかしあくまで残念そうな顔で瞳をうるませながら返す。
「冷たいわ。リエルは変わってしまったのね。以前はもっと優しかったのに、皇太子殿下のせいかしら?」
「そうね。皇太子殿下と出会って私は変わってしまったの。以前の私とは違うわ」
堂々と答えるリエルに、ノエラの口もとが歪む。
「まさか関係が続いているなんて思わなかったわ。あの飽きっぽい皇太子がリエルを相手にするとはね」
「何が言いたいの?」
リエルが眉をひそめると、ノエラは口角を上げて言い放った。
「あなたは幸せになんかなれないわ。アラン殿下を裏切り、家族を捨てて、国まで捨てたのだから」
もう愛想笑いをやめてしまったノエラに、リエルはある意味吹っ切れた。
「私が幸せになれるかどうかと、アラン殿下や家族の問題は別だと思うけど?」
「あなたが出ていったせいで殿下がどれほど苦労したと思ってるの?」
「私は殿下に追い出されたのよ。その後の殿下がどうなろうと私には何もできないわよ」
「リエルは自分さえよければいい人間なのね。なんて冷酷で薄情なのかしら?」
ノエラは吐き捨てるように言い放った。
リエルは呆れ返っている。
(もう反論する気にもなれないわ)
「ごめんなさい。あなたと話している暇はないのよ。これで失礼するわ」
「待ちなさいよ!」
ノエラは立ち去ろうとするリエルを止めようと、慌てて手を伸ばした。
リエルの後ろ姿を見て憎悪が膨れ上がる。
ノエラの頭の中には学院時代に周囲からちやほやされるリエルの姿が浮かんだ。
(リエルがすべて奪った)
アランに婚約者として選ばれ、王宮入りしたリエルの姿を思い出し、ノエラの胸中は怒りにわいた。
(やっと手に入れたのに……)
リエルが婚約破棄され、王太子妃になれた。
しかし、今やアランの心はリエルに向いている。
(また、あなたはあたしの幸せを奪おうとしている)
皇太子のとなりで笑顔を振りまくリエルの姿を思い出す。
(それなのに、あなたが幸せになるなんて許せないわ!)
リエルの腕を掴もうとしていたノエラは、激情に任せてその背中を思いきり突き飛ばした。
その先にあるのは大階段。
リエルはぐらりと体勢を崩し――。
それを見送ったあと、リエルが会場へ戻ろうとすると、背後から声をかけられた。
「あなたもこのパーティに参加していたのね」
リエルはどきりとして振り返った。
「……ノエラ」
ノエラはやけに笑顔を振りまいている。
だが、リエルはそれを警戒した。
ノエラは微笑みながら自身の首に巻いたピンクのストールを触ってみせる。
「このストール、とっても評判がいいのよ。あなたと色違いでお揃いなのね」
「デザインが少し違うわ。私のストールは試作品で、あなたのはオーダーメイドだもの」
「ふふっ、あたしのために特別に作ってくれたのね。嬉しいわ。さすが親友ね」
リエルは親友という言葉に違和感を抱いた。
妙にご機嫌なノエラにますます警戒心が高まっていく。
リエルは冷静に話す。
「私はいただいたお金に見合うものを作っただけよ」
「あたしのドレス10着分ですものね。リエルはすっかり商売人になったのね」
ノエラの表情がわずかに歪んだのを、リエルは見落とさなかった。
「皇太子殿下と婚約したのですって? おめでとう、リエル。お祝いさせてほしいわ」
「ありがとう。でも、戻らなければならないの」
「少しくらい、いいでしょ? 久しぶりにあなたと話したいわ。ふたりきりで」
ノエラの口もとが不自然ににやける。
どくんっとリエルの鼓動が鳴った。
回帰前の記憶がよみがえる。
あの事件の直前にも、ノエラとふたりきりで話をした。
あのときワインを飲んだが、少し酔う程度だった。
しかしノエラと別れたあと、だんだん身体がふらついてきて、廊下の端で壁にもたれていたところ、見知らぬ男が声をかけてきたのだ。
そこからの記憶がなく、気づいたらアランに目撃された不貞の現場だ。
(あれは酔っていたのではなく、ノエラに薬を混ぜられていた?)
あのときはパニックになっていてそこまで思考が及ばなかった。
だが、すべてノエラがやったことなら納得がいく。
「ごめんなさい。そんな暇はないの」
リエルが真顔できっぱり断ると、ノエラは苛立ちを滲ませた。
しかしあくまで残念そうな顔で瞳をうるませながら返す。
「冷たいわ。リエルは変わってしまったのね。以前はもっと優しかったのに、皇太子殿下のせいかしら?」
「そうね。皇太子殿下と出会って私は変わってしまったの。以前の私とは違うわ」
堂々と答えるリエルに、ノエラの口もとが歪む。
「まさか関係が続いているなんて思わなかったわ。あの飽きっぽい皇太子がリエルを相手にするとはね」
「何が言いたいの?」
リエルが眉をひそめると、ノエラは口角を上げて言い放った。
「あなたは幸せになんかなれないわ。アラン殿下を裏切り、家族を捨てて、国まで捨てたのだから」
もう愛想笑いをやめてしまったノエラに、リエルはある意味吹っ切れた。
「私が幸せになれるかどうかと、アラン殿下や家族の問題は別だと思うけど?」
「あなたが出ていったせいで殿下がどれほど苦労したと思ってるの?」
「私は殿下に追い出されたのよ。その後の殿下がどうなろうと私には何もできないわよ」
「リエルは自分さえよければいい人間なのね。なんて冷酷で薄情なのかしら?」
ノエラは吐き捨てるように言い放った。
リエルは呆れ返っている。
(もう反論する気にもなれないわ)
「ごめんなさい。あなたと話している暇はないのよ。これで失礼するわ」
「待ちなさいよ!」
ノエラは立ち去ろうとするリエルを止めようと、慌てて手を伸ばした。
リエルの後ろ姿を見て憎悪が膨れ上がる。
ノエラの頭の中には学院時代に周囲からちやほやされるリエルの姿が浮かんだ。
(リエルがすべて奪った)
アランに婚約者として選ばれ、王宮入りしたリエルの姿を思い出し、ノエラの胸中は怒りにわいた。
(やっと手に入れたのに……)
リエルが婚約破棄され、王太子妃になれた。
しかし、今やアランの心はリエルに向いている。
(また、あなたはあたしの幸せを奪おうとしている)
皇太子のとなりで笑顔を振りまくリエルの姿を思い出す。
(それなのに、あなたが幸せになるなんて許せないわ!)
リエルの腕を掴もうとしていたノエラは、激情に任せてその背中を思いきり突き飛ばした。
その先にあるのは大階段。
リエルはぐらりと体勢を崩し――。
2,055
お気に入りに追加
5,344
あなたにおすすめの小説
今日、大好きな婚約者の心を奪われます 【完結済み】
皇 翼
恋愛
昔から、自分や自分の周りについての未来を視てしまう公爵令嬢である少女・ヴィオレッタ。
彼女はある日、ウィステリア王国の第一王子にして大好きな婚約者であるアシュレイが隣国の王女に恋に落ちるという未来を視てしまう。
その日から少女は変わることを決意した。将来、大好きな彼の邪魔をしてしまう位なら、潔く身を引ける女性になろうと。
なろうで投稿している方に話が追いついたら、投稿頻度は下がります。
プロローグはヴィオレッタ視点、act.1は三人称、act.2はアシュレイ視点、act.3はヴィオレッタ視点となります。
繋がりのある作品:「先読みの姫巫女ですが、力を失ったので職を辞したいと思います」
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/496593841/690369074
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前
地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。
あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。
私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。
アリシア・ブルームの復讐が始まる。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。
いずれ最強の錬金術師?
小狐丸
ファンタジー
テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。
女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。
けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。
はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。
**************
本編終了しました。
只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。
お暇でしたらどうぞ。
書籍版一巻〜七巻発売中です。
コミック版一巻〜二巻発売中です。
よろしくお願いします。
**************
【完結】本当の悪役令嬢とは
仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。
甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。
『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も
公爵家の本気というものを。
※HOT最高1位!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる