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狙われている?
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「あれはリエル・カーレン令嬢ではないか?」
「お前、知っているのか?」
「ほら、流行の品を売っていると有名な」
「商人の真似事かよ」
「だが見る目があるらしく、かなりヒットしていると聞いたぞ」
リエルは大勢の人々の前で圧倒されていた。
パーティと言えば、前回アランに婚約破棄されたときは全員の目がリエルを蔑むようだった。
今回は状況が異なるものの、リエルは少々怯えて手が震えてしまった。
すると、グレンがとなりでリエルの手を握った。
「大丈夫?」
「ええ。でも、少し緊張するわ。私は場違いではないかしら?」
「それはない。だって、みんな君の噂を知っているからね。異国から来た令嬢が商売で成功し、その名を社交界にとどろかせたってね」
リエルはふと思い立ってグレンを見上げた。
「あなたが私の噂を流したの?」
「俺は少し情報を与えただけさ。貴族の連中は噂話が大好物だからね」
「すべてあなたの企みだったのね」
「計画と言ってくれ」
リエルは安堵してふふっと笑った。
グレンはリエルの手を引いてゆっくりと歩く。
(不思議ね。こうしていると落ち着くわ)
リエルはグレンの手をぎゅっと握りしめた。
リエルはグレンとともに貴族たちに挨拶をしてまわった。
一部の貴族たちはリエルの商売について好意的に捉え、事業についての相談を持ちかけてくる者もいた。
「ぜひ令嬢の意見をお聞かせ願いたい」
「私どもも事業を起こしているのだが、いまいちうまくいかなくてね」
リエルは笑顔で応じる。
「私でよろしければ……ですが」
ちらりとグレンを見ると、彼は笑顔で答えた。
「俺はあっちに挨拶へ行ってるから、あとで合流しよう」
「ええ、そうね」
お互いに別行動となり、リエルは今の商売について彼らに語った。
すると、どんどん人が集まってきて話題が広がっていき、リエルに好印象を抱く者が増えていった。
あまりに夢中で話していたため、視界にグレンの姿が見えなくなった。
会場内はあまりに多くの人で混雑している。
リエルがグレンの姿を目で探していると、ひとりの令嬢がそばで倒れた。
リエルは慌てて令嬢に声をかける。
「まあ、あなた大丈夫?」
「ええ、少し人に酔ってしまって……」
令嬢は吐き気を催している。
リエルは彼女を周囲から隠すように肩に手をまわして支えた。
「すみません」
「いいえ。ここを出ましょう。外の空気を吸うと楽になるわ」
「……ええ」
リエルは令嬢を抱えて混雑した会場内で道を空けてもらうよう促した。
そして会場を出て人の少ない場所まで移動する。
玄関ホールに近い大階段の場所なら人は行き交うだけで集まっていないので比較的空いていた。
「本当にすみません」
「いいわ。冷たい水でももらってこようかしら?」
「いいえ、もう大丈夫です。ありがとうございました」
令嬢は頭を下げながら立ち去った。
リエルが会場へ戻ろうとすると、別の貴族から呼び止められた。
少し挨拶をして、たわいない話をしてから戻るつもりだった。
*
令嬢たちの控え室として用意されている客室にはノエラがいた。
実は先ほどの令嬢はノエラが連れてきた侍女だったのだ。
「これでよろしいでしょうか?」
「ええ。うまく誘い出してくれたわね。これはお駄賃よ」
「は、はい……ありがとうございます」
侍女は不安げな顔でノエラから銀貨を受けとった。
ノエラは笑みを浮かべながら客室を出ていく。
(リエル、今日があなたの令嬢としての最後よ)
ノエラの計画はこうだ。
リエルを誘い出し、薬の入った酒で眠らせて適当な客室へ連れていく。
こういう場では酒が入ると数人は夜の遊び相手を探す令息が必ずいる。
ノエラは彼らを誘い出し、リエルのいる客室へ誘導する。
そのあいだに皇太子と接触し、リエルのいる部屋へ自ら案内するというものだった。
(婚約者の不貞の現場を見てどう思うかしらね?)
ノエラはにやりと笑った。
(これでリエルは破滅するわ。殿下も二度とリエルに心が動くことはないでしょうね)
「お前、知っているのか?」
「ほら、流行の品を売っていると有名な」
「商人の真似事かよ」
「だが見る目があるらしく、かなりヒットしていると聞いたぞ」
リエルは大勢の人々の前で圧倒されていた。
パーティと言えば、前回アランに婚約破棄されたときは全員の目がリエルを蔑むようだった。
今回は状況が異なるものの、リエルは少々怯えて手が震えてしまった。
すると、グレンがとなりでリエルの手を握った。
「大丈夫?」
「ええ。でも、少し緊張するわ。私は場違いではないかしら?」
「それはない。だって、みんな君の噂を知っているからね。異国から来た令嬢が商売で成功し、その名を社交界にとどろかせたってね」
リエルはふと思い立ってグレンを見上げた。
「あなたが私の噂を流したの?」
「俺は少し情報を与えただけさ。貴族の連中は噂話が大好物だからね」
「すべてあなたの企みだったのね」
「計画と言ってくれ」
リエルは安堵してふふっと笑った。
グレンはリエルの手を引いてゆっくりと歩く。
(不思議ね。こうしていると落ち着くわ)
リエルはグレンの手をぎゅっと握りしめた。
リエルはグレンとともに貴族たちに挨拶をしてまわった。
一部の貴族たちはリエルの商売について好意的に捉え、事業についての相談を持ちかけてくる者もいた。
「ぜひ令嬢の意見をお聞かせ願いたい」
「私どもも事業を起こしているのだが、いまいちうまくいかなくてね」
リエルは笑顔で応じる。
「私でよろしければ……ですが」
ちらりとグレンを見ると、彼は笑顔で答えた。
「俺はあっちに挨拶へ行ってるから、あとで合流しよう」
「ええ、そうね」
お互いに別行動となり、リエルは今の商売について彼らに語った。
すると、どんどん人が集まってきて話題が広がっていき、リエルに好印象を抱く者が増えていった。
あまりに夢中で話していたため、視界にグレンの姿が見えなくなった。
会場内はあまりに多くの人で混雑している。
リエルがグレンの姿を目で探していると、ひとりの令嬢がそばで倒れた。
リエルは慌てて令嬢に声をかける。
「まあ、あなた大丈夫?」
「ええ、少し人に酔ってしまって……」
令嬢は吐き気を催している。
リエルは彼女を周囲から隠すように肩に手をまわして支えた。
「すみません」
「いいえ。ここを出ましょう。外の空気を吸うと楽になるわ」
「……ええ」
リエルは令嬢を抱えて混雑した会場内で道を空けてもらうよう促した。
そして会場を出て人の少ない場所まで移動する。
玄関ホールに近い大階段の場所なら人は行き交うだけで集まっていないので比較的空いていた。
「本当にすみません」
「いいわ。冷たい水でももらってこようかしら?」
「いいえ、もう大丈夫です。ありがとうございました」
令嬢は頭を下げながら立ち去った。
リエルが会場へ戻ろうとすると、別の貴族から呼び止められた。
少し挨拶をして、たわいない話をしてから戻るつもりだった。
*
令嬢たちの控え室として用意されている客室にはノエラがいた。
実は先ほどの令嬢はノエラが連れてきた侍女だったのだ。
「これでよろしいでしょうか?」
「ええ。うまく誘い出してくれたわね。これはお駄賃よ」
「は、はい……ありがとうございます」
侍女は不安げな顔でノエラから銀貨を受けとった。
ノエラは笑みを浮かべながら客室を出ていく。
(リエル、今日があなたの令嬢としての最後よ)
ノエラの計画はこうだ。
リエルを誘い出し、薬の入った酒で眠らせて適当な客室へ連れていく。
こういう場では酒が入ると数人は夜の遊び相手を探す令息が必ずいる。
ノエラは彼らを誘い出し、リエルのいる客室へ誘導する。
そのあいだに皇太子と接触し、リエルのいる部屋へ自ら案内するというものだった。
(婚約者の不貞の現場を見てどう思うかしらね?)
ノエラはにやりと笑った。
(これでリエルは破滅するわ。殿下も二度とリエルに心が動くことはないでしょうね)
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