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彼らのはかりごと【アラン&ノエラ】
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ノエラは大きな花柄の飾りがついたワインレッドのドレスを着てパーティ会場に現れた。
その首にはラメの入ったきらめくピンクのストールが巻かれている。
ノエラはアランの手を取り、満足げに会場へと足を運ぶ。
整髪料でかっちり髪を上げ、正装したアランは周囲に愛想を振りまいていた。
「あれはディアナ王国の王太子夫妻ではないか」
周囲がふたりに注目した。
令嬢は特にノエラが身につけているストールに目を向けた。
「まあ、妃殿下が首に巻いているのはカリスのストールではなくて?」
「手に入れられたのね。うらやましいわ」
ノエラはふふっと笑った。
(みんながあたしのことを見ているわ。そうよ、もっとあたしを見て!)
最近はアランに冷たくされ、不満がたまっていた。
今夜はノエラがどれほど注目されているか、アランに知らしめるつもりだ。
そうすればアランはふたたびノエラに夢中になるだろう。
(はぁ……倦怠期を乗り越えるのは大変ね)
ノエラはそう思いながら周囲に笑顔を振りまいた。
さりげなくアランと離れ、ひとりで男性たちのところへ向かって声をかける。
「初めまして。あたくしとお話しませんこと?」
きゅるんとしたノエラの可愛らしさに彼らはすぐさま虜になったようだ。
ノエラのまわりには次々男の貴族たちが集まった。
その代わりに周囲の令嬢たちからは不審に思われていた。
「あの妃、さっきから男にばかり声をかけているわよ」
「私たちにはまったく挨拶もせずにね」
「男に媚びているだけなのよ。結婚しているくせにいやらしいわ」
ひそひそと話す令嬢たちの声などノエラの耳には届かない。
むしろノエラはアランが嫉妬して慌てると思っている。
しかしノエラがアランのいるはずの方へ目を向けると、彼はこつぜんと姿を消していた。
「え? 殿下、どこへ行かれたの?」
*
一方のアランは会場内でリエルを探していた。
さまざまなところからリエルの噂話を聞き、この会場に来ていることを確信していた。
しかし、なかなか見つけることができないので苛立ちを募らせる。
(どこにいるんだ? リエル。迎えに来てやったぞ)
アランはにやりと笑いながら周囲をきょろきょろしていた。
令嬢たちはアランを見てひそひそ話す。
「あれはディアナ王国の王太子?」
「まあ、落ち着きのない人ね」
「そういえば妃とは別行動みたいよ。不仲なのかしら?」
好き勝手に話す令嬢たちの声などアランの耳には届かない。
そんなとき、突如会場内がざわついた。
「ご覧になって。皇太子殿下よ。おとなりはどなたかしら?」
「もしやカーレン令嬢ではありませんこと?」
「まあ、例のストールのお方?」
アランはその声に反応した。
そして、周囲が注目するほうへ目を向けると驚愕のあまり固まった。
(リエル……!)
アランは叫びそうになるのを必死に堪えた。
そしてリエルのとなりにいるグレンを見て、表情を強張らせる。
(皇太子と一緒だと?)
リエルは貴族の令嬢としてパーティに出席したのではなく、まるで皇太子の婚約者のような登場の仕方をしたのだ。
アランの苛立ちは怒りに変わった。
(お前を迎えに来てやったのにこの屈辱……)
アランは恐ろしい形相でグレンとリエルを睨みつける。
(許さない!)
*
同時に、アランの後ろ姿を見つけたノエラが駆け寄ってきた。
「殿下、こんなところにいらしたのね。一体、何を見て……」
ノエラもアランの視線の向こうへ目をやった。
そこには美しく着飾って皇太子の手を取るリエルの姿がある。
(リエル? どうして? 皇太子に振られたんじゃないの?)
お互いに笑顔で見つめ合うグレンとリエルの様子を見て、周囲が一層声を上げた。
「悔しいけどお似合いだわ」
「本当に幸せそうね」
「絵に描いたような美男美女だわね」
ノエラは悔しさのあまり唇を噛み、拳をぎゅっと握りしめる。
(リエルが幸せですって? どうして追放されたあんたが幸せになるのよ!)
ノエラはハッとしてアランに顔を向ける。
アランの悔しそうな顔を見て、ますます憎悪が高まった。
(殿下、やっぱりリエルに未練があったのね。だから最近あたしに冷たいんだわ)
ノエラはふたたびリエルに目を向けて、じろりと睨みつける。
(追放されても殿下の心を奪うなんて! 許さないわ、リエル)
ノエラは憎悪の感情が膨れ上がり、まわりが見えていない。
(こんなことになるなら潰しておくんだった!)
ノエラはくるりと背を向けてパーティ会場を出ていった。
その首にはラメの入ったきらめくピンクのストールが巻かれている。
ノエラはアランの手を取り、満足げに会場へと足を運ぶ。
整髪料でかっちり髪を上げ、正装したアランは周囲に愛想を振りまいていた。
「あれはディアナ王国の王太子夫妻ではないか」
周囲がふたりに注目した。
令嬢は特にノエラが身につけているストールに目を向けた。
「まあ、妃殿下が首に巻いているのはカリスのストールではなくて?」
「手に入れられたのね。うらやましいわ」
ノエラはふふっと笑った。
(みんながあたしのことを見ているわ。そうよ、もっとあたしを見て!)
最近はアランに冷たくされ、不満がたまっていた。
今夜はノエラがどれほど注目されているか、アランに知らしめるつもりだ。
そうすればアランはふたたびノエラに夢中になるだろう。
(はぁ……倦怠期を乗り越えるのは大変ね)
ノエラはそう思いながら周囲に笑顔を振りまいた。
さりげなくアランと離れ、ひとりで男性たちのところへ向かって声をかける。
「初めまして。あたくしとお話しませんこと?」
きゅるんとしたノエラの可愛らしさに彼らはすぐさま虜になったようだ。
ノエラのまわりには次々男の貴族たちが集まった。
その代わりに周囲の令嬢たちからは不審に思われていた。
「あの妃、さっきから男にばかり声をかけているわよ」
「私たちにはまったく挨拶もせずにね」
「男に媚びているだけなのよ。結婚しているくせにいやらしいわ」
ひそひそと話す令嬢たちの声などノエラの耳には届かない。
むしろノエラはアランが嫉妬して慌てると思っている。
しかしノエラがアランのいるはずの方へ目を向けると、彼はこつぜんと姿を消していた。
「え? 殿下、どこへ行かれたの?」
*
一方のアランは会場内でリエルを探していた。
さまざまなところからリエルの噂話を聞き、この会場に来ていることを確信していた。
しかし、なかなか見つけることができないので苛立ちを募らせる。
(どこにいるんだ? リエル。迎えに来てやったぞ)
アランはにやりと笑いながら周囲をきょろきょろしていた。
令嬢たちはアランを見てひそひそ話す。
「あれはディアナ王国の王太子?」
「まあ、落ち着きのない人ね」
「そういえば妃とは別行動みたいよ。不仲なのかしら?」
好き勝手に話す令嬢たちの声などアランの耳には届かない。
そんなとき、突如会場内がざわついた。
「ご覧になって。皇太子殿下よ。おとなりはどなたかしら?」
「もしやカーレン令嬢ではありませんこと?」
「まあ、例のストールのお方?」
アランはその声に反応した。
そして、周囲が注目するほうへ目を向けると驚愕のあまり固まった。
(リエル……!)
アランは叫びそうになるのを必死に堪えた。
そしてリエルのとなりにいるグレンを見て、表情を強張らせる。
(皇太子と一緒だと?)
リエルは貴族の令嬢としてパーティに出席したのではなく、まるで皇太子の婚約者のような登場の仕方をしたのだ。
アランの苛立ちは怒りに変わった。
(お前を迎えに来てやったのにこの屈辱……)
アランは恐ろしい形相でグレンとリエルを睨みつける。
(許さない!)
*
同時に、アランの後ろ姿を見つけたノエラが駆け寄ってきた。
「殿下、こんなところにいらしたのね。一体、何を見て……」
ノエラもアランの視線の向こうへ目をやった。
そこには美しく着飾って皇太子の手を取るリエルの姿がある。
(リエル? どうして? 皇太子に振られたんじゃないの?)
お互いに笑顔で見つめ合うグレンとリエルの様子を見て、周囲が一層声を上げた。
「悔しいけどお似合いだわ」
「本当に幸せそうね」
「絵に描いたような美男美女だわね」
ノエラは悔しさのあまり唇を噛み、拳をぎゅっと握りしめる。
(リエルが幸せですって? どうして追放されたあんたが幸せになるのよ!)
ノエラはハッとしてアランに顔を向ける。
アランの悔しそうな顔を見て、ますます憎悪が高まった。
(殿下、やっぱりリエルに未練があったのね。だから最近あたしに冷たいんだわ)
ノエラはふたたびリエルに目を向けて、じろりと睨みつける。
(追放されても殿下の心を奪うなんて! 許さないわ、リエル)
ノエラは憎悪の感情が膨れ上がり、まわりが見えていない。
(こんなことになるなら潰しておくんだった!)
ノエラはくるりと背を向けてパーティ会場を出ていった。
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