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皇帝陛下と謁見②

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 となりに目を向けると、グレンは穏やかな笑顔を返した。
 リエルはふたたび皇帝に視線を戻し、質問の答えを口にした。

「正直申し上げますと、最初は失礼な方だと思いました。けれど、それは彼の表の顔に過ぎなかったのです」

 皇帝は眉をひそめるが、リエルは堂々と話を続けた。

「彼は真実を見抜く力があります。普段は軽口だけど、本心ではとても真面目に物事を捉えています。おごり高ぶることなく、誰にでも分け隔てなく優しく接するその姿に、私は感銘を受けたのです」

 皇帝は気難しい顔をしているが、黙って聞いている。
 リエルは真剣な表情で続ける。

「皇太子殿下は私の才能を見出してくれました。それに、つらいときにはそばにいてくれました」

 王宮でアランとの婚約披露パーティ3日前のことを思い出す。

「私は彼の誠実な優しさに惹かれ、ともに歩みたいと思ったのです」

 リエルは話しているうちに、なんだか心が温かくなった。
 グレンは少し驚いているようだった。
 そして、リエルはにっこり笑顔を向けて付け加える。

「あと、彼と話していると気を使わなくていいので楽なんです」

 家同士の政略結婚であったなら、皇太子相手にため口などあり得ないだろう。あのような出会いだったからこそ、今のような関係が築けたのだ。

 リエルは話し終えたあとハッとした。

(いやだわ、これじゃ本当に私がグレンに惚れているみたいじゃないの)

 あくまで婚約者のふりなのに、気合いを入れて答えてしまった。

(でも、うそじゃないわ。たとえそれが恋ではなくても、グレンに感謝しているし、尊敬しているわ)

 しばらくの沈黙のあと、突如皇帝が声を上げて笑い出した。

「はははははっ! 面白い! なんと肝の座った令嬢だ」
「だよね。俺も初対面でそう思った」
「自力で相手を見つけてくるとはな。今まで縁談を断って正解だったな」
「そう。これで縁談話はなしでいいよね?」
「ふむ。これほどお前を理解してくれる相手なら文句はない」

 皇帝はふたたび豪快に笑った。
 リエルはその様子を見て呆気にとられる。

(皇帝陛下は明るいお方だったのね)

(これで私の役目は果たせたわ)

 リエルは予定していた目的を果たせてほっと安堵した。
 あとはパーティ会場で貴族たちに挨拶をしてまわればいいだけ。
 そこは公的儀礼ビジネスマナーで何とかなるだろう。

 このまま退出するのだろうと思っていたら、皇帝から意外な申し出があった。

「リエル、こちらへ来て座りなさい」
「え……は、はい」

 リエルは驚き、わけもわからないまま、皇帝の促す椅子へ座る。
 あっという間に使用人たちがお茶の準備をしてテーブルに菓子が並んだ。
 グレンが呆れ顔で言う。

「こりゃ遅刻するね」
「え?」

 皇帝はにこやかに堂々と言い放つ。

「主役は遅れていくものだ」

 リエルは呆気にとられてしまった。
 皇帝はリエルに笑顔を向ける。

「私は早くに妻を亡くしてしまってね。娘も嫁に行って寂しい思いをしていた。ぜひ新しい娘と話がしたい」
「い、いいえ……あの」

(結婚するって決まっていないのに! というより偽物なのに!!)

 リエルはグレンに助けを求めるように視線を投げかけたが、彼も気にすることなく座り込んでしまった。
 グレンは皇帝に向かってざっくばらんに話しかける。

「何から話す? 俺とリエルが出会ったところから?」
「そうだな。お前のことだからどうせ正体を隠していたんだろう。驚かせただろうね?」

 皇帝はリエルに向かってにやりと笑った。

「ええっと、そんなことは……」

 リエルは複雑な表情で固まる。

「正直に言っていいんだ。こいつは突拍子もないことをするのが好きなんだよ。私に似てな」
「まさか。俺のほうが品がある」
「我が息子よ。首に縄でもつけてやろうか?」
「そんなものすり抜けて逃げてやるけどね」

 お互いに軽口を交わすふたりを見て、リエルは吹き出してしまった。

「おかしな親子だと思うだろう? だが、これが我が家だ」
「素敵な家族ですわ」

(うちの家とはまったく違うわ。こんなふうに気軽に親と話せるなんて、あなたがうらやましいわ)

 リエルはグレンを見て、少し切ない気持ちになった。
 しばらくおしゃべりをしていると、侍従がやって来て皇帝にパーティの開始を告げた。

「もうそんな時間か。リエル、今度食事に招待してもよいか?」
「はい。喜んでお受けいたします」

 グレンは立ち上がり、リエルに手を差し出す。

「じゃあ、行こうか」
「ええ」

 リエルは笑顔でグレンの手を取り、ともにパーティ会場へ向かった。

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