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皇帝陛下と謁見①
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アストレア帝国の皇城には多くの賓客が訪れて賑やかだった。
ディアナ王国の城とは比較にならないほど広大で、リエルは圧倒された。
パーティが始まる前に目立つことを避けるため、グレンはリエルを連れて父のもとへ向かった。
豪奢な貴賓室には赤い絨毯が敷かれ、きらびやかなシャンデリアが部屋全体の金の装飾を照らしキラキラしている。
そのソファ席にドカッと腰を下ろしているのはこの国の皇帝である。
立派な髭を生やしきらびやかな装飾品を身につけた皇帝の顔はいかつい。
リエルは緊張のあまり硬直してしまった。
皇帝は険しい顔つきでリエルを品定めするように上から下までじっくりと眺める。
そして、低い声でリエルに声をかける。
「そなたがグレイアムの恋人というのは本当か?」
リエルはどきりとした。
偽物であることに今さら罪悪感を抱く。
その質問にはグレンが答えた。
「そうだよ。俺は彼女と結婚しようと思う」
あまりにあっさりとした返答にリエルは驚く。
(えっ……皇帝陛下にそんな口の利き方でいいの? 私でもお父さまに敬語なのに)
皇帝はじろりとリエルを見つめた。
その視線にリエルはびくっと震え、慌てて頭を下げる。
「皇帝陛下にご挨拶申し上げます。私はリエル・カーレンと申します」
「ふむ。そなたはディアナ王国の人間だと聞いたが?」
「はい。その通りでございます」
リエルは緊張のあまり鼓動が高鳴る。
(小国の令嬢という目で見られているのかしら?)
リエルはぎゅっと唇を引き結び、まっすぐ皇帝を見つめた。
リエルがあまりにガチガチになっているせいか、となりでグレンがそっとささやく。
「大丈夫」
グレンはリエルの背中に手を添えた。
そのおかげで少しばかりリエルは安堵した。
「では訊かせてもらおう。令嬢は息子のどこに惚れたのかね?」
「えっ……?」
いきなり予定外の質問をされて、リエルは戸惑った。
こんな質問をされるとは思わなかったのだ。
もっと経済や情勢の話でもされるのかと思い、そちらの準備はしっかりしておいたのに、まさかの事態である。
(グレンのどこに惚れたですって!?)
当の本人はとなりでにこにこしている。
リエルは返答に困っている。
(本当の恋人じゃないんだから、そんなことわかるわけないわ)
リエルはぐっと口をつぐんだまま黙り込んでしまった。
わずかに期待してグレンを横目で見やる。しかし彼はまったくフォローしてくれない。
困ったリエルは少し記憶を整理してみることにした。
グレンとは町で偶然出会った。最初は軽そうな男だと思った。
王宮で再会したときは驚いたが、彼と仕事の話をするうちに誠実であると気づいた。
皇太子という立場なのに見栄を張ったり体裁を保とうとしたりしない。
常に自分を客観的に捉えて見ている。
自分を犠牲にして民のために動くというのはやり過ぎかもしれないと思うが、それが彼のやり方ならリエルには何も言えない。
普段は軽い口を叩くくせに、リエルのことに関してはとても真面目に考えてくれた。
『君を必要とする場所はこの世界にいくらでもある』
グレンのあの言葉をリエルは忘れることができない。
死を回避してもリエルは身を潜めて暮らすことになると思っていた。
それを、彼が光ある世界へ連れ出してくれたのだ。
ディアナ王国の城とは比較にならないほど広大で、リエルは圧倒された。
パーティが始まる前に目立つことを避けるため、グレンはリエルを連れて父のもとへ向かった。
豪奢な貴賓室には赤い絨毯が敷かれ、きらびやかなシャンデリアが部屋全体の金の装飾を照らしキラキラしている。
そのソファ席にドカッと腰を下ろしているのはこの国の皇帝である。
立派な髭を生やしきらびやかな装飾品を身につけた皇帝の顔はいかつい。
リエルは緊張のあまり硬直してしまった。
皇帝は険しい顔つきでリエルを品定めするように上から下までじっくりと眺める。
そして、低い声でリエルに声をかける。
「そなたがグレイアムの恋人というのは本当か?」
リエルはどきりとした。
偽物であることに今さら罪悪感を抱く。
その質問にはグレンが答えた。
「そうだよ。俺は彼女と結婚しようと思う」
あまりにあっさりとした返答にリエルは驚く。
(えっ……皇帝陛下にそんな口の利き方でいいの? 私でもお父さまに敬語なのに)
皇帝はじろりとリエルを見つめた。
その視線にリエルはびくっと震え、慌てて頭を下げる。
「皇帝陛下にご挨拶申し上げます。私はリエル・カーレンと申します」
「ふむ。そなたはディアナ王国の人間だと聞いたが?」
「はい。その通りでございます」
リエルは緊張のあまり鼓動が高鳴る。
(小国の令嬢という目で見られているのかしら?)
リエルはぎゅっと唇を引き結び、まっすぐ皇帝を見つめた。
リエルがあまりにガチガチになっているせいか、となりでグレンがそっとささやく。
「大丈夫」
グレンはリエルの背中に手を添えた。
そのおかげで少しばかりリエルは安堵した。
「では訊かせてもらおう。令嬢は息子のどこに惚れたのかね?」
「えっ……?」
いきなり予定外の質問をされて、リエルは戸惑った。
こんな質問をされるとは思わなかったのだ。
もっと経済や情勢の話でもされるのかと思い、そちらの準備はしっかりしておいたのに、まさかの事態である。
(グレンのどこに惚れたですって!?)
当の本人はとなりでにこにこしている。
リエルは返答に困っている。
(本当の恋人じゃないんだから、そんなことわかるわけないわ)
リエルはぐっと口をつぐんだまま黙り込んでしまった。
わずかに期待してグレンを横目で見やる。しかし彼はまったくフォローしてくれない。
困ったリエルは少し記憶を整理してみることにした。
グレンとは町で偶然出会った。最初は軽そうな男だと思った。
王宮で再会したときは驚いたが、彼と仕事の話をするうちに誠実であると気づいた。
皇太子という立場なのに見栄を張ったり体裁を保とうとしたりしない。
常に自分を客観的に捉えて見ている。
自分を犠牲にして民のために動くというのはやり過ぎかもしれないと思うが、それが彼のやり方ならリエルには何も言えない。
普段は軽い口を叩くくせに、リエルのことに関してはとても真面目に考えてくれた。
『君を必要とする場所はこの世界にいくらでもある』
グレンのあの言葉をリエルは忘れることができない。
死を回避してもリエルは身を潜めて暮らすことになると思っていた。
それを、彼が光ある世界へ連れ出してくれたのだ。
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