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壊れていく王太子②【アラン】
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アランは自室でワインボトルをそのままがぶ飲みしていた。
すでに空の瓶が数本、床に転がっている。
城内に広まる噂を耳にして苛立ち、やけ酒していたのだ。
(どうしてこんなことになった? 今まで周囲から称賛されていたのに)
対外的にいい顔をして信頼を得ていた過去を思い出す。
リエルが使用人たちに生意気な態度を取ったときも、彼女たちに対して優しくしてやった。
誰もがアランを認め、褒めていたというのに。
(リエルがいなくなってすべてがうまくいかなくなった。リエルのせいだ!)
アランは感情的にワインボトルを振り上げる。
(あんなクソ野郎について行きやがって!)
そのまま床に叩きつけると、ボトルはがしゃんっと派手な音を立てて割れた。
(ユリウスの支持者が増え続けている。このままではユリウスに王位継承権が渡ってしまう)
アランは袖で口もとを拭うと、ぎりっと歯を噛みしめた。
(その前に手を打たなければ……)
床には割れた破片が散らばってキラキラしていた。
しばらくすると部屋の外が騒がしくなり、突如ノエラが飛び込んできた。
「殿下、なかなかいらしてくださらないから自分から来ました」
「ノエラ……」
ふわっとした雰囲気のにこやかなノエラの姿は、以前なら可愛らしいと思ったものだ。
だが、今のアランは違う。
(今はお前の顔など見たくもないというのに)
アランは聞こえないように舌打ちした。
ノエラは床に散らばった破片を見て驚き、心配そうに声をかける。
「まあ、殿下。お怪我はありませんか?」
「ああ。そこのお前、さっさとこれを片付けろ」
命じられた使用人はすぐに掃除を始めた。
「殿下、大切なお話がありますの。ふたりきりになりたいわ」
「悪いが俺は今、君の相手をしている場合ではないんだ。仕事が山積みでな」
すると、ノエラはアランに近づいてそっと耳もとで告げた。
「あたくし、魅惑的な薬を手に入れましたのよ」
「薬だと?」
「ふたりきりでお話したいですわ」
「いいだろう」
アランはノエラを連れて寝室へ向かった。
寝室にて、寝息を立てるノエラのとなりでアランは考え事をしていた。
ノエラが持ってきた赤い薬の瓶を手に持ち、じっと見つめながら「はははっ 」と苦笑した。
(これでユリウスを暗殺しろというのか。メイゼル伯爵はなかなか大胆なことを考える)
アランは宙を睨みつけながらにやりと笑みを浮かべる。
(だが残念だったな。お前の魂胆など見え見えだ。どうせユリウスを殺したあと俺も始末するつもりなんだろう)
アランは黄色の瓶を手に取ってじっと見つめる。
(どんな毒も解毒する薬か。飲んでおいて損はないな)
アランはすやすや眠るノエラを横目に見て冷めた表情になる。
(ノエラは最近鬱陶しいな。俺の仕事を手伝うどころか、妃の仕事さえできない。それに体型も変わって顔も不細工だ)
アランは眉根を寄せて考え込む。
(しかしノエラを排除するわけにはいかない。伯爵の支持を失うと他の貴族たちも次々俺からユリウスに乗り換えてしまうだろう)
アランは赤い瓶の薬を見て、ふと思った。
(いっそノエラが誰かに暗殺されたという事実を作り上げるのはどうだろうか?)
アランはにやりと不気味な笑みを浮かべた。
すでに空の瓶が数本、床に転がっている。
城内に広まる噂を耳にして苛立ち、やけ酒していたのだ。
(どうしてこんなことになった? 今まで周囲から称賛されていたのに)
対外的にいい顔をして信頼を得ていた過去を思い出す。
リエルが使用人たちに生意気な態度を取ったときも、彼女たちに対して優しくしてやった。
誰もがアランを認め、褒めていたというのに。
(リエルがいなくなってすべてがうまくいかなくなった。リエルのせいだ!)
アランは感情的にワインボトルを振り上げる。
(あんなクソ野郎について行きやがって!)
そのまま床に叩きつけると、ボトルはがしゃんっと派手な音を立てて割れた。
(ユリウスの支持者が増え続けている。このままではユリウスに王位継承権が渡ってしまう)
アランは袖で口もとを拭うと、ぎりっと歯を噛みしめた。
(その前に手を打たなければ……)
床には割れた破片が散らばってキラキラしていた。
しばらくすると部屋の外が騒がしくなり、突如ノエラが飛び込んできた。
「殿下、なかなかいらしてくださらないから自分から来ました」
「ノエラ……」
ふわっとした雰囲気のにこやかなノエラの姿は、以前なら可愛らしいと思ったものだ。
だが、今のアランは違う。
(今はお前の顔など見たくもないというのに)
アランは聞こえないように舌打ちした。
ノエラは床に散らばった破片を見て驚き、心配そうに声をかける。
「まあ、殿下。お怪我はありませんか?」
「ああ。そこのお前、さっさとこれを片付けろ」
命じられた使用人はすぐに掃除を始めた。
「殿下、大切なお話がありますの。ふたりきりになりたいわ」
「悪いが俺は今、君の相手をしている場合ではないんだ。仕事が山積みでな」
すると、ノエラはアランに近づいてそっと耳もとで告げた。
「あたくし、魅惑的な薬を手に入れましたのよ」
「薬だと?」
「ふたりきりでお話したいですわ」
「いいだろう」
アランはノエラを連れて寝室へ向かった。
寝室にて、寝息を立てるノエラのとなりでアランは考え事をしていた。
ノエラが持ってきた赤い薬の瓶を手に持ち、じっと見つめながら「はははっ 」と苦笑した。
(これでユリウスを暗殺しろというのか。メイゼル伯爵はなかなか大胆なことを考える)
アランは宙を睨みつけながらにやりと笑みを浮かべる。
(だが残念だったな。お前の魂胆など見え見えだ。どうせユリウスを殺したあと俺も始末するつもりなんだろう)
アランは黄色の瓶を手に取ってじっと見つめる。
(どんな毒も解毒する薬か。飲んでおいて損はないな)
アランはすやすや眠るノエラを横目に見て冷めた表情になる。
(ノエラは最近鬱陶しいな。俺の仕事を手伝うどころか、妃の仕事さえできない。それに体型も変わって顔も不細工だ)
アランは眉根を寄せて考え込む。
(しかしノエラを排除するわけにはいかない。伯爵の支持を失うと他の貴族たちも次々俺からユリウスに乗り換えてしまうだろう)
アランは赤い瓶の薬を見て、ふと思った。
(いっそノエラが誰かに暗殺されたという事実を作り上げるのはどうだろうか?)
アランはにやりと不気味な笑みを浮かべた。
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