81 / 110
壊れていく王太子①【アラン】
しおりを挟む
アランは執務が多すぎて書類を手にパニックになっていた。
そんなときに限って、次々と問題事が飛び込んでくるのだ。
「殿下、アストレア帝国から罪人の引き渡し要請が来ています」
「うるさい。それくらいお前が何とかしろ!」
「……かしこまりました」
報告をした侍従は渋々頭を下げて退出した。
その後すぐに騎士がやって来た。
「またルカンの民が暴動を起こしていますが処理していいですよね?」
「わかっているならいちいち俺に訊くな!」
「承知しました。今後は報告だけ上げます」
騎士が立ち去ると、今度は深刻な顔をした大臣がやって来た。
「マークイン公爵閣下から嘆願書が届いています」
「確認しておけ。どうせろくでもないことだ」
「……かしこまりました」
大臣はおずおずと立ち去った。
その後、ノエラの新しい専属侍女がおどおどしながらやって来た。
「殿下、ノエラ妃殿下よりいつお越しになられるのかと」
「忙しいんだ! ノエラにかまっていられるか!」
「ひっ! か、かしこまりました!」
侍女はアランに怯えて逃げるように退出した。
「こんなときにノエラの相手などできるか!」
全員が出て行ったあと、アランはひとり執務室をうろうろした。
「やってもやっても仕事が終わらん。何なんだこの量は!」
アランは執務机の大量の書類を見てげんなりした。
ふと思い出すのはこの前再会したリエルの姿だ。
(リエルさえいればこんな面倒なことをする必要もないのに)
ふとグレンのことが頭によぎり、アランは無性に苛立った。
(あいつ、皇太子はいつも俺の邪魔をする。昔から、俺より乗馬も狩りも計算も何もかもうまくやって、失敗する俺を見下していやがった。あんな性格の悪い奴は存在するだけで罪だ)
アランはうっかりグレンの笑顔を思い出してしまい、ぶち切れた。
「笑うな! 俺のことを笑うな!」
怒り狂ったアランは扉に向かって書類の束を投げつけた。
書類はバラバラに散らばって床に落ちる。
部屋の外ではユリウスが扉をノックしようとしていたが、大きな物音とアランの怒声を聞いて入室を躊躇した。
「出直そう。今は何を言っても聞き入れてくれなさそうだ」
ユリウスは呆れ顔で帰ってしまった。
王宮内は以前にも増してアランとノエラの悪い噂ばかりが目立った。
使用人たちは不安な感情を共有するようにお互いに胸の内を吐露する。
「最近、アラン殿下のお顔を見た? 別人みたいに怖い顔をしていらっしゃるわよ」
「ええ、本当に。以前はもっとお優しそうな顔つきだったのに。最近はご機嫌が悪いのか八つ当たりばかりされるわ」
「ノエラ妃殿下のわがままも酷いわ。これなら愛想がなくてもカーレン令嬢のほうがまだよかったわよ」
使用人たちは周囲を警戒しながらひそひそと話す。
一方、大臣たちも困惑している様子で話していた。
「アラン殿下はまったく仕事をなさらない。困ったものだ」
「最近はノエラ妃殿下ともお過ごしにならないようだ」
「いろんな意味で不安だな」
さらにはこんな話も広まっている。
「そういえば、カーレン令嬢は殿下の執務までこなしていたっていう話よ」
「ええ? じゃあ、殿下が最近苛立っておられるのは仕事が自分に降りかかっているからなの?」
「賢そうなお方だと思ったのに、口先だけだったのかしら」
「口を慎みなさい。いつどこで聞かれているかわからないわ。最近の殿下は気に入らなければすぐ私たちを解雇されるから」
彼らのアランに関する噂話は瞬く間に王宮へ広がり、当然アラン本人の耳にも入ることとなった。
そんなときに限って、次々と問題事が飛び込んでくるのだ。
「殿下、アストレア帝国から罪人の引き渡し要請が来ています」
「うるさい。それくらいお前が何とかしろ!」
「……かしこまりました」
報告をした侍従は渋々頭を下げて退出した。
その後すぐに騎士がやって来た。
「またルカンの民が暴動を起こしていますが処理していいですよね?」
「わかっているならいちいち俺に訊くな!」
「承知しました。今後は報告だけ上げます」
騎士が立ち去ると、今度は深刻な顔をした大臣がやって来た。
「マークイン公爵閣下から嘆願書が届いています」
「確認しておけ。どうせろくでもないことだ」
「……かしこまりました」
大臣はおずおずと立ち去った。
その後、ノエラの新しい専属侍女がおどおどしながらやって来た。
「殿下、ノエラ妃殿下よりいつお越しになられるのかと」
「忙しいんだ! ノエラにかまっていられるか!」
「ひっ! か、かしこまりました!」
侍女はアランに怯えて逃げるように退出した。
「こんなときにノエラの相手などできるか!」
全員が出て行ったあと、アランはひとり執務室をうろうろした。
「やってもやっても仕事が終わらん。何なんだこの量は!」
アランは執務机の大量の書類を見てげんなりした。
ふと思い出すのはこの前再会したリエルの姿だ。
(リエルさえいればこんな面倒なことをする必要もないのに)
ふとグレンのことが頭によぎり、アランは無性に苛立った。
(あいつ、皇太子はいつも俺の邪魔をする。昔から、俺より乗馬も狩りも計算も何もかもうまくやって、失敗する俺を見下していやがった。あんな性格の悪い奴は存在するだけで罪だ)
アランはうっかりグレンの笑顔を思い出してしまい、ぶち切れた。
「笑うな! 俺のことを笑うな!」
怒り狂ったアランは扉に向かって書類の束を投げつけた。
書類はバラバラに散らばって床に落ちる。
部屋の外ではユリウスが扉をノックしようとしていたが、大きな物音とアランの怒声を聞いて入室を躊躇した。
「出直そう。今は何を言っても聞き入れてくれなさそうだ」
ユリウスは呆れ顔で帰ってしまった。
王宮内は以前にも増してアランとノエラの悪い噂ばかりが目立った。
使用人たちは不安な感情を共有するようにお互いに胸の内を吐露する。
「最近、アラン殿下のお顔を見た? 別人みたいに怖い顔をしていらっしゃるわよ」
「ええ、本当に。以前はもっとお優しそうな顔つきだったのに。最近はご機嫌が悪いのか八つ当たりばかりされるわ」
「ノエラ妃殿下のわがままも酷いわ。これなら愛想がなくてもカーレン令嬢のほうがまだよかったわよ」
使用人たちは周囲を警戒しながらひそひそと話す。
一方、大臣たちも困惑している様子で話していた。
「アラン殿下はまったく仕事をなさらない。困ったものだ」
「最近はノエラ妃殿下ともお過ごしにならないようだ」
「いろんな意味で不安だな」
さらにはこんな話も広まっている。
「そういえば、カーレン令嬢は殿下の執務までこなしていたっていう話よ」
「ええ? じゃあ、殿下が最近苛立っておられるのは仕事が自分に降りかかっているからなの?」
「賢そうなお方だと思ったのに、口先だけだったのかしら」
「口を慎みなさい。いつどこで聞かれているかわからないわ。最近の殿下は気に入らなければすぐ私たちを解雇されるから」
彼らのアランに関する噂話は瞬く間に王宮へ広がり、当然アラン本人の耳にも入ることとなった。
2,259
お気に入りに追加
5,422
あなたにおすすめの小説
【完結】愛していたのに処刑されました。今度は関わりません。
かずきりり
恋愛
「アマリア・レガス伯爵令嬢!其方を王族に毒をもったとして処刑とする!」
いきなりの冤罪を突き立てられ、私の愛していた婚約者は、別の女性と一緒に居る。
貴族としての政略結婚だとしても、私は愛していた。
けれど、貴方は……別の女性といつも居た。
処刑されたと思ったら、何故か時間が巻き戻っている。
ならば……諦める。
前とは違う人生を送って、貴方を好きだという気持ちをも……。
……そう簡単に、消えないけれど。
---------------------
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
あなたへの想いを終わりにします
四折 柊
恋愛
シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる