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崩壊の加速【アラン&ノエラ】
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「はい、何でしょう?」
リエルがにこやかな笑顔を向けると、ノエラは複雑な表情で笑みを浮かべた。
「いいわ。その代金を払うからさっさと作りなさい。その代わり必ずこの冬のパーティに間に合わせるのよ」
ノエラは腰に手を当ててリエルに命令する。
しかし、アランがすぐさま口を挟んだ。
「待て、ノエラ。次のパーティのドレスも新調しているんだ。こんな額が払えるわけがない。予算を超えているぞ」
するとノエラはすぐさま涙目になり、アランに訴えた。
「あたくしは王太子妃です。殿下の妻なのですよ? パーティで恥をかくようなことがあれば殿下の恥となってしまいますわ」
「俺の、恥……?」
「殿下の妻であるあたくしが見劣りするような格好をしていては、貴族たちに威厳を保てませんわ」
アランは返す言葉がなく狼狽える。
リエルはふっと笑みを浮かべた。
(相変わらず体裁だけは完璧なのね、アラン)
ふたりの事情などどうでもいいリエルは淡々と確認だけを行う。
「では、この価格でご購入いただくということでよろしいですね?」
「ええ、いいわ」
「では契約成立ですね。こちらの注文書にサインをお願いします」
ノエラはリエルが差し出した紙にさらさらとサインをした。
リエルはそれを受けとってエマに渡す。
エマは丁寧に書類を鞄に仕舞った。
「それでは私はこれにて失礼いたします」
すると、アランがとっさに引き止めた。
「食事でもしていくといい。せっかく招いたのだ。このまま帰しては我々の顔が立たない」
「大変ありがたいご招待ですが、すぐに戻って仕入先に発注しなければなりません。何せ大切な王太子妃殿下のお品物でございますから」
リエルがわざとそう言うと、ノエラはにやりと笑って返した。
「そうよ。早く帰ってあたしのストールを作りなさい」
アランはちっと舌打ちする。
リエルは穏やかな表情で、ふたりに向かって丁寧に頭を下げた。
「それでは失礼いたしますわ」
リエルとエマはふたたび侍従に連れられて退室する。
その際、アランはじっとリエルの後ろ姿を見つめていた。
全員が出ていったあと、ノエラがクスクス笑った。
「殿下、ご覧になりました? リエルったら皇太子に捨てられたのですよ。だから商人になるしかなかったのでしょう」
アランは黙り込む。
「令嬢の誇りを失って商売などに手を出すなんて、哀れで惨めですわね」
アランは拳をぐっと握りしめる。
「殿下はリエルと別れて正解ですわ。あの子はやはり妃には向いていなかったことがこれで証明されましたものね」
アランはゆっくりとノエラのに目をやった。
一瞬、最初に出会った頃のすらりとして妖艶な色気のあるノエラを思い出す。
しかし、今ではそこに見る影もなくなったノエラの顔がある。
アランは山ほどスイーツが並ぶテーブルに目を向けた。
(令嬢の誇りが何だって?)
アランはふつふつと怒りがわいた。
(本物の令嬢なら体型を保つためにコルセットをしっかり締めておくはずだ)
何を言っても黙ったままのアランを見て、ノエラは首を傾げた。
「殿下、どうかなさいました?」
アランは冷たく言い放つ。
「ノエラ、デザートは一日に1回にしろ」
「え? 急にどうされたのですか?」
アランは狼狽えるノエラを冷めた目で見つめる。
「君は鏡で自分の姿を見てみろよ。とても次のパーティで表には出せないぞ」
そう言うなり、アランはさっさと部屋を出ていった。
残されたノエラはしばらく呆然としていた。
少し経ってから、使用人たちが片付けをするために部屋へ入室した。
するとノエラはテーブルの上にあるケーキを素手で掴み、使用人に向かって投げつけた。
「きゃあ! 妃さま、何を……」
ケーキはべちゃっと使用人の顔に当たって落ちた。
「うるさいわよ! さっさと片付けなさいよ!」
ノエラはつかつかとテーブルに近づき、山盛りのケーキや菓子をすべて手で払って床に落としていく。
「ひっ! き、妃さま……!」
「あああっ、イライラするわ! リエルと言い、殿下と言い、あたしのことを何だと思っているのよ!」
使用人たちは部屋の惨状を見てうんざりした。
リエルがにこやかな笑顔を向けると、ノエラは複雑な表情で笑みを浮かべた。
「いいわ。その代金を払うからさっさと作りなさい。その代わり必ずこの冬のパーティに間に合わせるのよ」
ノエラは腰に手を当ててリエルに命令する。
しかし、アランがすぐさま口を挟んだ。
「待て、ノエラ。次のパーティのドレスも新調しているんだ。こんな額が払えるわけがない。予算を超えているぞ」
するとノエラはすぐさま涙目になり、アランに訴えた。
「あたくしは王太子妃です。殿下の妻なのですよ? パーティで恥をかくようなことがあれば殿下の恥となってしまいますわ」
「俺の、恥……?」
「殿下の妻であるあたくしが見劣りするような格好をしていては、貴族たちに威厳を保てませんわ」
アランは返す言葉がなく狼狽える。
リエルはふっと笑みを浮かべた。
(相変わらず体裁だけは完璧なのね、アラン)
ふたりの事情などどうでもいいリエルは淡々と確認だけを行う。
「では、この価格でご購入いただくということでよろしいですね?」
「ええ、いいわ」
「では契約成立ですね。こちらの注文書にサインをお願いします」
ノエラはリエルが差し出した紙にさらさらとサインをした。
リエルはそれを受けとってエマに渡す。
エマは丁寧に書類を鞄に仕舞った。
「それでは私はこれにて失礼いたします」
すると、アランがとっさに引き止めた。
「食事でもしていくといい。せっかく招いたのだ。このまま帰しては我々の顔が立たない」
「大変ありがたいご招待ですが、すぐに戻って仕入先に発注しなければなりません。何せ大切な王太子妃殿下のお品物でございますから」
リエルがわざとそう言うと、ノエラはにやりと笑って返した。
「そうよ。早く帰ってあたしのストールを作りなさい」
アランはちっと舌打ちする。
リエルは穏やかな表情で、ふたりに向かって丁寧に頭を下げた。
「それでは失礼いたしますわ」
リエルとエマはふたたび侍従に連れられて退室する。
その際、アランはじっとリエルの後ろ姿を見つめていた。
全員が出ていったあと、ノエラがクスクス笑った。
「殿下、ご覧になりました? リエルったら皇太子に捨てられたのですよ。だから商人になるしかなかったのでしょう」
アランは黙り込む。
「令嬢の誇りを失って商売などに手を出すなんて、哀れで惨めですわね」
アランは拳をぐっと握りしめる。
「殿下はリエルと別れて正解ですわ。あの子はやはり妃には向いていなかったことがこれで証明されましたものね」
アランはゆっくりとノエラのに目をやった。
一瞬、最初に出会った頃のすらりとして妖艶な色気のあるノエラを思い出す。
しかし、今ではそこに見る影もなくなったノエラの顔がある。
アランは山ほどスイーツが並ぶテーブルに目を向けた。
(令嬢の誇りが何だって?)
アランはふつふつと怒りがわいた。
(本物の令嬢なら体型を保つためにコルセットをしっかり締めておくはずだ)
何を言っても黙ったままのアランを見て、ノエラは首を傾げた。
「殿下、どうかなさいました?」
アランは冷たく言い放つ。
「ノエラ、デザートは一日に1回にしろ」
「え? 急にどうされたのですか?」
アランは狼狽えるノエラを冷めた目で見つめる。
「君は鏡で自分の姿を見てみろよ。とても次のパーティで表には出せないぞ」
そう言うなり、アランはさっさと部屋を出ていった。
残されたノエラはしばらく呆然としていた。
少し経ってから、使用人たちが片付けをするために部屋へ入室した。
するとノエラはテーブルの上にあるケーキを素手で掴み、使用人に向かって投げつけた。
「きゃあ! 妃さま、何を……」
ケーキはべちゃっと使用人の顔に当たって落ちた。
「うるさいわよ! さっさと片付けなさいよ!」
ノエラはつかつかとテーブルに近づき、山盛りのケーキや菓子をすべて手で払って床に落としていく。
「ひっ! き、妃さま……!」
「あああっ、イライラするわ! リエルと言い、殿下と言い、あたしのことを何だと思っているのよ!」
使用人たちは部屋の惨状を見てうんざりした。
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