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逃すんじゃなかった!【アラン】

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 ノエラの部屋に入室したリエルは冷静に状況を見据えていた。
 しかし、エマは違った。

「えっ、うそ。ノエラさま、すごい太っ……」

 リエルが「しっ」とエマの言葉を制止する。
 そして、ふたりに向かってまるで他人のように笑顔で丁寧な挨拶をした。

「アラン王太子殿下とノエラ妃殿下にご挨拶いたします。私はナグレタ衣装店から参りましたリエルと申します」
「何を言っているの? ふざけたことを……」

 リエルは狼狽えるノエラをまっすぐ見据えて話す。

「ふざけてなどおりませんわ。アラン王太子殿下のご用命によりこちらまで参ったのでございます」

 それを聞いて驚いたのはアランだ。

「俺の……?」
「さようでございますわ」

 リエルはアランに向かってにっこりと微笑んだ。
 ノエラは狼狽えながら、強い口調でリエルを責め立てる。

「あなた、自分がこの城で何をしたのか忘れたの? あれほど殿下に大恥をかかせておきながら、よくものこのこ帰ってこられたわね。あなたの友だちとして厳しく言ってあげるわ。あなたはこの城に二度と足を踏み入れてはいけないのよ」

 リエルはわざとらしく首を傾げる。
 そして、ふたたび笑顔で言った。

「存じておりますわ。しかしながら、こちらの王太子殿下がカリスのストールをご所望でしたので、私としても心苦しいところではありますが、商売ですので致し方ないかと」

 ノエラは驚愕の表情で声を荒らげる。

「カリスのストールですって? まさか、あなたが?」
「ええ、ノエラ妃殿下。私が売り出した品でございます」

 リエルは落ち着いた表情で言った。
 アランは絶句しているが、内心焦りまくっている。

(リエルが流行の品を売り出しただと? たかが令嬢のリエルがなぜ商人の真似事など……)

 アランがじっと見つめてもリエルは笑顔を崩さない。

(いや、そんなことより、リエルは何か以前と違う。この城にいたときより……)

 今日のリエルは美しいドレスを着て髪型を整え、凛と背筋を伸ばしてやわらかく微笑んでいる。

(綺麗になっている!!)

 アランは衝撃を受けた。
 そして彼はちらりとノエラに目をやった。
 そこには初めて会ったときとは比べものにならないほど体型も顔の形も変わったノエラの姿がある。

(これはどういうことなんだ? 以前はノエラのほうが綺麗だったのに!)

 アランは表情が歪むのを必死に抑える。
 なんとか平静を保とうとするが、静かに笑みを浮かべるリエルの顔を見て愕然とした。

(たった数ヵ月でここまで変わるというのか!?)

 アランは呆然とし、ノエラは苛立ちのあまり唇を噛む。
 そんなふたりを前に、リエルまったく動じることなくさっさと本題に入った。

「ではご所望の品についてお話をさせていただきますわ」

 使用人がお茶を運んできて、リエルはアランとノエラと向かい合って座った。
 エマはリエルの背後に立ち、鞄から書類を取り出すと必要なものを手渡す。
 リエルはノエラに商品の説明をした。

 アランはいちいちリエルの顔をじろじろ見ながら悔しそうにする。
 彼の頭の中には商品の情報などまったく入ってこなかった。

(やはり逃すんじゃなかった!)

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