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ふたたび仇敵と対峙します

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 ディアナ王国の王宮へ到着すると、リエルを出迎えたのはアランの侍従だった。
 彼はリエルを見て驚いたようだが、丁寧に迎えてくれた。
 庭園の見える回廊を侍従に案内されて歩いていると、エマが落ち着かない様子で周囲をキョロキョロした。
 護衛のルッツはふたりの後ろについている。

「またこの城に来るとは思いもしませんでした。すでに懐かしい感じがします」
「そうね」

 リエルは淡々と返事をした。

(私なんて3度目よ。懐かしさを通り越したわ)

 ふと庭園のほうへ目をやると、ユリウスの姿があった。
 リエルは立ち止まってその様子をじっと見つめる。
 ユリウスのとなりに誰かがいる。その人物を見てリエルは眉をひそめた。

(あれはアランの護衛騎士だった人だわ。ユリウスの騎士に変わったのかしら?)

 どうやらリエルが離れているうちに、いろいろと変化があったようだ。

「リエルさま、どうかなされましたか?」

 侍従に声をかけられて、リエルは慌てて笑顔で返す。

「何でもないわ。足を止めてごめんなさい」
「いいえ。しかし、まさかリエルさまがお越しになられるとは思いませんでした」
「驚かせてしまってごめんなさい」
「私は歓迎しますよ」

 さらりとそんなことを言われてリエルは驚いた。

(私はアランにあんな態度を取って出ていったというのに意外だわ)


 *


 一方その頃、王宮の貴賓室ではアランとノエラが衣装屋の到着を待っていた。
 ソファに腰かけるふたりの前にはケーキやクッキー、マカロンやチョコレート、プディングなどがテーブルにずらりと並んでいる。
 アランはそれを見て顔を引きつらせた。

(今日はもう2回目じゃないか? よくこれほど甘いものが食べられるな)

 そんなアランの心境とは裏腹に、ノエラはにこにこしながらケーキを口に頬張る。

「殿下、これとっても美味しいですわ。殿下もいかがですか?」
「あ、ああ……俺は昼を食べたばかりだからいい」
「まあ、甘いものは別腹ですわよ」
「そうか」

 アランは吐き気がするのをどうにか抑える。

(まあ、ノエラが喜んでいるならそれでいいか)

 そうこうしているあいだに侍従が客人を連れてノエラの部屋を訪れた。

「殿下、アストレア帝国のナグレタ衣装店の者をお連れしました」
「おお、そうか。入ってもらえ」

 アランが許可すると、ケーキを頬張ったままのノエラが立ち上がり、歓喜の表情で出迎えた。

「待っていたわ。あたくしのストール……」

 るんるん気分で走り寄るノエラは突如立ち止まり、顔面が固まった。
 侍従の背後から入室したのはリエルだったから。
 それを見たアランも驚愕の表情で立ち上がった。

(なぜリエルがここに!?)

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