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すべてが思い通りだわ【アラン&ノエラ】
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後日、王宮庭園では初めてノエラが主催した茶会が開かれた。
ケーキやサンドイッチ、スコーンなどたくさんのお菓子が並ぶ長テーブルにずらりと座るのは公爵家や侯爵家、伯爵家の上位貴族令嬢たち。
もちろん、その中心にいるのはノエラだ。
「みなさま、本日は楽しんでくださいね」
ノエラは大きなピンクのリボンを髪につけて、花柄のドレスを身につけ、ゆるふわの金髪をなびかせている。
令嬢たちは次々に祝福の言葉を口にした。
「ノエラさま、このたびはご結婚おめでとうございます」
「もう妃殿下とお呼びしたほうがよろしいわよ」
「まあ、そうですわね。失礼いたしました。ノエラ妃殿下」
ノエラは満面の笑みを浮かべた。
令嬢たちから社交界での噂話を聞き、楽しくおしゃべりをしていると、とある令嬢が思いついたように話題を変えた。
「そういえばご存じ? カリスのストールのことを」
「それ、わたくしもお聞きしたかったの」
別の令嬢が手を叩いて話に乗った。
「カリスのストール?」
ノエラは初めて聞く言葉で、目を丸くする。
話を振った令嬢がにこやかに説明する。
「ええ。アストレア帝国では令嬢のあいだでカリスのストールが流行しているらしいですわ。何でも羊毛より軽くて身につけている気がしないのに暖かいのですって」
すると、別の令嬢もうっとりした顔で続けた。
「わたくし叔父が商人から試作品をいただいて身につけてみましたけれど、本当に最高の質感でしたわ」
それを聞いた他の令嬢たちがざわついた。
「まあ、うらやましいわ。だって手に入るのは1年先でしょう? 今年の冬には間に合わないわ」
それから話題は貴族の誰と誰が恋仲だとかそういった話に向かう。
しかし、ノエラの頭の中はそれどころではなかった。
(カリスのストールですって。そんなにいい代物ならあたしだってほしいわ!)
その夜、アランがやって来るとノエラはすぐに甘えた声で頼み込んだ。
「殿下にお願いがありますの」
「何だ? 何でも言ってみろ」
アランはご機嫌な顔でノエラの肩を抱いた。
「あたくしカリスのストールがほしいですわ。令嬢のあいだで流行っているらしいのです。もちろん誰にも真似できない最高級のデザインのものでなければいやよ」
アランは特に渋ることもなく、即答する。
「すぐに衣装屋を呼びつけよう」
「本当ですか? 嬉しいですわ! やっぱり殿下はあたくしのことを愛してくださっているのね」
ノエラががばっとアランに抱きつくと、アランはにやりと笑った。
「当たり前じゃないか。ところでノエラ。君のことを愛しているから今夜こそ子作りするぞ」
アランはその勢いでノエラをベッドに押し倒してしまった。
「きゃああっ、殿下ったら!」
ふたりはそのまま朝まで部屋から出てこなかった。
そして翌日のこと。
アランは朝一番に侍女を王都の高級衣装屋へ使いに出した。
ところが午後になってアランの執務室を訪れた侍女は予想外の報告をした。
「何? アストレア帝国の衣装屋でないと取り扱っていないだと?」
「はい、そのようです」
侍女が衣装屋で確認したところ、カリスのストールはまだディアナ王国では手に入れることができないと言う。
「お話によると、そのストールをもっとも多く取り扱っているのはナグレタ衣装店というお店だそうです」
「ではその衣装屋を王宮へ招待しろ。ノエラのために最高級の代物を作らせるんだ」
「かしこまりました」
侍女は命令を受け、さっそくナグレタ衣装店へ使いの者を向かわせた。
アストレア帝国の衣装屋など、アランにとってあまり気分はよくないが、それほど流行しているものならノエラは身につけるべきだ。
ノエラのためではなく、アランの妻である王太子妃のために。
*
数日後、アストレア帝国のナグレタ衣装店では、ディアナ王国の使いの者の話で衣装屋の婦人が困惑していた。
ちょうど衣装屋を訪れていたリエルは婦人からその話を聞くことになった。
「すぐに来いだなんて、こちらの都合も考えずに、ディアナ王国の王太子はなんて横暴なのかねえ」
婦人は深いため息をつく。
「すぐに手に入らないと何度も説明したのに、とりあえず王宮へ来て説明しろと言うのよ。なんでも王太子妃のご機嫌取りをしているみたいだわ。そんなにわがままな妃なのかしらねえ」
リエルは複雑な表情で聞く。
「困ったわ。よその国と言えども王室の人間を無下にはできないし」
リエルは少し考えて、婦人に提案をしてみた。
「そのお役目を私にいただけますか?」
「え? でも、あなたも忙しいでしょうに」
「予定を調整すれば何とかなりますわ。それに、このストールを売り出したのは私ですし、私が説明するのが一番早いでしょう」
「そうかい? まあ、そう言ってくれるならありがたいのだけどね」
婦人はまんざらでもなく嬉しそうな顔をした。
肩の荷が下りたのかほっと安堵している。
(こんなに早くふたりと再会することになるとはね)
リエルは笑顔のまま、胸中でぼそりと呟く。
(ちょうどいいわ。結婚のお祝いでもしてあげましょうか)
リエルは口もとに笑みを浮かべた。
ケーキやサンドイッチ、スコーンなどたくさんのお菓子が並ぶ長テーブルにずらりと座るのは公爵家や侯爵家、伯爵家の上位貴族令嬢たち。
もちろん、その中心にいるのはノエラだ。
「みなさま、本日は楽しんでくださいね」
ノエラは大きなピンクのリボンを髪につけて、花柄のドレスを身につけ、ゆるふわの金髪をなびかせている。
令嬢たちは次々に祝福の言葉を口にした。
「ノエラさま、このたびはご結婚おめでとうございます」
「もう妃殿下とお呼びしたほうがよろしいわよ」
「まあ、そうですわね。失礼いたしました。ノエラ妃殿下」
ノエラは満面の笑みを浮かべた。
令嬢たちから社交界での噂話を聞き、楽しくおしゃべりをしていると、とある令嬢が思いついたように話題を変えた。
「そういえばご存じ? カリスのストールのことを」
「それ、わたくしもお聞きしたかったの」
別の令嬢が手を叩いて話に乗った。
「カリスのストール?」
ノエラは初めて聞く言葉で、目を丸くする。
話を振った令嬢がにこやかに説明する。
「ええ。アストレア帝国では令嬢のあいだでカリスのストールが流行しているらしいですわ。何でも羊毛より軽くて身につけている気がしないのに暖かいのですって」
すると、別の令嬢もうっとりした顔で続けた。
「わたくし叔父が商人から試作品をいただいて身につけてみましたけれど、本当に最高の質感でしたわ」
それを聞いた他の令嬢たちがざわついた。
「まあ、うらやましいわ。だって手に入るのは1年先でしょう? 今年の冬には間に合わないわ」
それから話題は貴族の誰と誰が恋仲だとかそういった話に向かう。
しかし、ノエラの頭の中はそれどころではなかった。
(カリスのストールですって。そんなにいい代物ならあたしだってほしいわ!)
その夜、アランがやって来るとノエラはすぐに甘えた声で頼み込んだ。
「殿下にお願いがありますの」
「何だ? 何でも言ってみろ」
アランはご機嫌な顔でノエラの肩を抱いた。
「あたくしカリスのストールがほしいですわ。令嬢のあいだで流行っているらしいのです。もちろん誰にも真似できない最高級のデザインのものでなければいやよ」
アランは特に渋ることもなく、即答する。
「すぐに衣装屋を呼びつけよう」
「本当ですか? 嬉しいですわ! やっぱり殿下はあたくしのことを愛してくださっているのね」
ノエラががばっとアランに抱きつくと、アランはにやりと笑った。
「当たり前じゃないか。ところでノエラ。君のことを愛しているから今夜こそ子作りするぞ」
アランはその勢いでノエラをベッドに押し倒してしまった。
「きゃああっ、殿下ったら!」
ふたりはそのまま朝まで部屋から出てこなかった。
そして翌日のこと。
アランは朝一番に侍女を王都の高級衣装屋へ使いに出した。
ところが午後になってアランの執務室を訪れた侍女は予想外の報告をした。
「何? アストレア帝国の衣装屋でないと取り扱っていないだと?」
「はい、そのようです」
侍女が衣装屋で確認したところ、カリスのストールはまだディアナ王国では手に入れることができないと言う。
「お話によると、そのストールをもっとも多く取り扱っているのはナグレタ衣装店というお店だそうです」
「ではその衣装屋を王宮へ招待しろ。ノエラのために最高級の代物を作らせるんだ」
「かしこまりました」
侍女は命令を受け、さっそくナグレタ衣装店へ使いの者を向かわせた。
アストレア帝国の衣装屋など、アランにとってあまり気分はよくないが、それほど流行しているものならノエラは身につけるべきだ。
ノエラのためではなく、アランの妻である王太子妃のために。
*
数日後、アストレア帝国のナグレタ衣装店では、ディアナ王国の使いの者の話で衣装屋の婦人が困惑していた。
ちょうど衣装屋を訪れていたリエルは婦人からその話を聞くことになった。
「すぐに来いだなんて、こちらの都合も考えずに、ディアナ王国の王太子はなんて横暴なのかねえ」
婦人は深いため息をつく。
「すぐに手に入らないと何度も説明したのに、とりあえず王宮へ来て説明しろと言うのよ。なんでも王太子妃のご機嫌取りをしているみたいだわ。そんなにわがままな妃なのかしらねえ」
リエルは複雑な表情で聞く。
「困ったわ。よその国と言えども王室の人間を無下にはできないし」
リエルは少し考えて、婦人に提案をしてみた。
「そのお役目を私にいただけますか?」
「え? でも、あなたも忙しいでしょうに」
「予定を調整すれば何とかなりますわ。それに、このストールを売り出したのは私ですし、私が説明するのが一番早いでしょう」
「そうかい? まあ、そう言ってくれるならありがたいのだけどね」
婦人はまんざらでもなく嬉しそうな顔をした。
肩の荷が下りたのかほっと安堵している。
(こんなに早くふたりと再会することになるとはね)
リエルは笑顔のまま、胸中でぼそりと呟く。
(ちょうどいいわ。結婚のお祝いでもしてあげましょうか)
リエルは口もとに笑みを浮かべた。
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