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どうぞお幸せに

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 宣伝を兼ねたパーティが終わり、日常が戻ったかに見えた。
 しかし、あのパーティであまりに有名になってしまったザスター商会は、ライバルからの襲撃に遭ってしまった。

 書類に目を通すリエルの横で、カイルは疲れた顔で椅子にだらりと座っていた。

「はぁ……ドグラ商会が乗り込んできたときにはどうなるかと思いました。リエルさまのおかげで助かりました」

 先ほど突然ドグラ商会の人間が怒鳴り込んできて、今すぐカリスの商売をやめろと言い出した。
 その理由はドグラ商会の羊毛に注文が入らなくなったためだ。
 この時期から貴族令嬢たちの羊毛製品の注文が殺到するはずだが今年はいまいちで、その理由がみんなザスター商会へ流れているということだった。

「でも、いいんですか? ドグラ商会にもカリス製品を扱えばいいだなんて言って」
「ええ、いずれどこもカリスを扱うようになるわ。うちが独占することはできないしね」

 淡々と答えるリエルにいまだカイルは不服そうにしている。

「ドグラ商会のことだからきっとなるべく費用を抑えて大量生産するでしょうね。あちらは大きな商会でお金もいっぱいあるからなあ」
「いいのよ。うちは質で勝負すればいいわ。カリス製品といえばザスター商会という箔をつければいいの」

 リエルの堂々とした発言に、カイルは心底驚いた様子で目をぱちくりさせている。

「どうしたの?」
「いえ、あの……リエルさまって本当に貴族ですか? 商売人の血を引いているんじゃ?」
「昔から商売事が好きでそういった本をよく読んでいたの」

 リエルは笑顔でさらりと言った。
 カイルは「なるほど」となんとなく納得する。

(回帰前に起こったことだからわかるなんて言えないわ)

 リエルは複雑な表情で笑う。

(けれど、私が死んだ日から先はわからないわ。私の未来はどうなるのか、そしてアランとノエラはどうなるのか)

 がちゃりと扉が開いて、買い物に行っていたエマが戻ってきた。
 エマは商会に届いた手紙を仕分けして、一通をリエルに渡す。

「リエルさま、セビ―さまからのお返事ですよ」
「ありがとう」

 リエルは封筒を開封し、手紙に目を通す。
 そして穏やかな笑みを浮かべた。

(サーベル領の被害はそれほど大きくならずに済んだのね。ユリウスがしっかり対策をしてくれたんだわ)

 リエルは続きを読んで真顔になった。

(王宮内は少し混乱しているようね。思った通り、アランとユリウスで支持者が真っ二つに割れているわ。もしかしたら、ユリウスに傾いているかも)

 そして、リエルはにやりと口角を上げる。

(アランとノエラの結婚式があるのね)

 そうなることは予想していたが、順調そうで何よりだ。
 エマが紅茶を淹れ、テーブルに皿を並べながら声をかける。

「今日はショコラを焼いてみましたー」
「うわあ、美味しそうだ」

 カイルは最近おやつの時間が楽しみで仕事をしているらしい。
 エマが明るい声でリエルを呼ぶ。

「リエルさま、お茶が入りましたよ」
「ええ、すぐに行くわ」

 リエルは手紙を封筒に入れて棚の引き出しに仕舞った。
 そして、ふっと笑いながら呟く。

「アラン、ノエラ、どうぞお幸せに」

 リエルはくるりと背中を向け、エマとカイルのところへ向かった。

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