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予定通りだわ。さて、

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 それから1週間後。
 しとしと雨の降る午後のこと。
 リエルはザスター商会の事務所で書類整理をしていた。
 すると、傘もささずにずぶ濡れで戻ってきたカイルが事務所に飛び込んできて声を荒らげた。

「た、大変です! リエルさま!」
「あら、どうしたの?」
「カリスのストールの注文が殺到しているそうです」
「まあ、よかったわね」

 リエルは座って書類を確認しながら冷静に答えた。

「どうしよう。ああ、こうしちゃいられない。僕は仕入先に納期の確認に行ってきます!」 
「いってらっしゃい」

 リエルはにっこりと笑顔で見送った。
 ちょうどフルーツのタルトを手に持って出てきたエマが残念そうに肩を落とす。

「せっかくタルトを焼いたのに」
「先にいただきましょう」
「それにしても、まさか、こんなに売れるなんて思いもしませんでした。リエルさまは先見の目をお持ちなんですね」
「そんな大したものではないわ」

 リエルはエマの淹れた紅茶を静かに飲む。

(これはすべて回帰前の記憶があるからよ。そして3ヵ月後にはディアナ王国でも話題になるわ)

 リエルは故郷のことを考えて、ふと思い出す。

(そういえば、ディアナ王国はそろそろ嵐の時期だわ。サーベル領は無事に乗り越えられるといいのだけど)

 リエルはおもむろに引き出しから便せんを取り出し、手紙を綴った。
 そして封筒に入れるとエマに手渡す。

「郵便を出してきてほしいの」
「はい。でもこれ、セビーさま宛てのお手紙ですか?」
「ええ、そうよ」
「リエルさまとセビーさまって、その……」

 エマが言いにくそうに言葉を詰まらせる。

 リエルは弟のセビーとほとんど話したことはない。
 継母がセビーをリエルに近づけないようにしていたからだ。
 エマもそれをよく知っている。

「仲が悪いと言いたいのでしょう? まあ、よくはなかったわ。けれど、あの子は利発で感情に左右されるような子ではないの。それに、自分にとって何が有益かよくわかって行動する子なのよ」
「はあ……よくわかりませんが、でも姉弟きょうだいで仲良くするのはいいことですね。ではいってきますね」
「よろしくね」

 リエルはにこやかに送り出した。

(将来侯爵家を継ぐセビーなら、今後アランとユリウスどちらへつくべきか判断できるはずよ)

 リエルは紅茶を飲みながらふっと笑みを浮かべた。

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