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さあ、一気にいくわよ

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 アストレア帝国にいるリエルは、とある伯爵家のお茶会に出席していた。
 グレンがうまく話をまわして令嬢たちが集まる機会を設けてくれたのだった。
 リエルはこの場で初対面の令嬢たちに挨拶をした。

「みなさま、はじめまして。ザスター男爵家のカイルさまに紹介をしていただきましたリエル・カーレンと申します」

 令嬢たちはリエルをめずらしそうに見つめた。
 一瞬だけ微妙な空気に包まれたが、伯爵令嬢がその場を取り繕う。

「カーレン令嬢はディアナ王国から来られたそうですよ。帝国の経済や文化を学ぶためなのですって。今はザスター商会で働いていらっしゃるそうよ」

 それを聞いた令嬢たちは戸惑いを見せた。

「まあ、令嬢がお仕事をするなんて」
「カーレン令嬢は好奇心旺盛なお方なのね」

 彼女たちは複雑な表情で微妙な反応をする。
 しかし、これはリエルの想定内である。

 ここから彼女たちを完璧に味方につける策を練っていた。

 リエルは冷静に令嬢たちの疑問に答えていく。

「私の育った国では令嬢たちも自分で刺繍したハンカチやストールなどを売ってお小遣いを稼いだりするのですよ」
「まあ、そうですの?」
「その延長だと思って楽しんでおります」

 リエルはにっこり笑って、あくまで商売心を表に出さないようにする。
 すると、ひとりの令嬢が興味深そうに訊ねてきた。

「ちなみにザスター商会では何を売りにしていらっしゃるのかしら?」

 リエルは口もとに笑みを浮かべた。

(その言葉を待っていたわ)

 リエルはさりげなく準備していたストールを広げて令嬢たちに見せる。

「あら、ずいぶんと薄いストールですこと」
「まあ、それではこの冬には身につけられませんわね」

 令嬢たちはクスクスと笑う。

「やはり羊毛には敵いませんわよ」
「ドグラ商会の羊毛製品は本当に暖かいですものね」

 この冷やかしもリエルは想定していたので、落ち着いて答える。

「こちらはカリス山地にしか存在しない山羊から作られたものです。どうぞ触って確かめてみてください」

 リエルがストールを渡すと、令嬢たち疑心暗鬼に触ってみた。
 しかし、彼女たちはすぐに驚いた顔をした。

「まあ、軽くてふわふわだわ」
「それに羊毛と同じくらい暖かいわよ」
「触り心地も最高ね。この冬のパーティで身につけたいわ」
「これ、デザインもオーダーメイドでできるかしら?」

 令嬢たちの雰囲気が一気に変わった。
 わざわざストールを肩にかけて首に巻きつけてみる者もいる。

「仕入先に問い合わせてみないとすぐにはお答えできませんわ。それに、こちらはとても稀少な代物なので結構値が張りますけれど……」

 リエルはそう言ってじっと様子をうかがう。

(手に入りにくいと思うと手に入れたくなるのが令嬢のさがなのよね)

 ひとりの令嬢が慌てて声を上げた。

「おいくらでも構わないわ。わたくしに一枚作っていただけるかしら?」
「わたくしもぜひお願いしたいわ」
「いくらでも積むわ。最高のものを作ってちょうだい」
「わたくしはみんなと違うデザインがいいわ」

 リエルはにっこりと微笑んだ。

「それでは今後はナグレタ衣装店を通していただけるとありがたいですわ」

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