59 / 110
さあ、一気にいくわよ
しおりを挟む
アストレア帝国にいるリエルは、とある伯爵家のお茶会に出席していた。
グレンがうまく話をまわして令嬢たちが集まる機会を設けてくれたのだった。
リエルはこの場で初対面の令嬢たちに挨拶をした。
「みなさま、はじめまして。ザスター男爵家のカイルさまに紹介をしていただきましたリエル・カーレンと申します」
令嬢たちはリエルをめずらしそうに見つめた。
一瞬だけ微妙な空気に包まれたが、伯爵令嬢がその場を取り繕う。
「カーレン令嬢はディアナ王国から来られたそうですよ。帝国の経済や文化を学ぶためなのですって。今はザスター商会で働いていらっしゃるそうよ」
それを聞いた令嬢たちは戸惑いを見せた。
「まあ、令嬢がお仕事をするなんて」
「カーレン令嬢は好奇心旺盛なお方なのね」
彼女たちは複雑な表情で微妙な反応をする。
しかし、これはリエルの想定内である。
ここから彼女たちを完璧に味方につける策を練っていた。
リエルは冷静に令嬢たちの疑問に答えていく。
「私の育った国では令嬢たちも自分で刺繍したハンカチやストールなどを売ってお小遣いを稼いだりするのですよ」
「まあ、そうですの?」
「その延長だと思って楽しんでおります」
リエルはにっこり笑って、あくまで商売心を表に出さないようにする。
すると、ひとりの令嬢が興味深そうに訊ねてきた。
「ちなみにザスター商会では何を売りにしていらっしゃるのかしら?」
リエルは口もとに笑みを浮かべた。
(その言葉を待っていたわ)
リエルはさりげなく準備していたストールを広げて令嬢たちに見せる。
「あら、ずいぶんと薄いストールですこと」
「まあ、それではこの冬には身につけられませんわね」
令嬢たちはクスクスと笑う。
「やはり羊毛には敵いませんわよ」
「ドグラ商会の羊毛製品は本当に暖かいですものね」
この冷やかしもリエルは想定していたので、落ち着いて答える。
「こちらはカリス山地にしか存在しない山羊から作られたものです。どうぞ触って確かめてみてください」
リエルがストールを渡すと、令嬢たち疑心暗鬼に触ってみた。
しかし、彼女たちはすぐに驚いた顔をした。
「まあ、軽くてふわふわだわ」
「それに羊毛と同じくらい暖かいわよ」
「触り心地も最高ね。この冬のパーティで身につけたいわ」
「これ、デザインもオーダーメイドでできるかしら?」
令嬢たちの雰囲気が一気に変わった。
わざわざストールを肩にかけて首に巻きつけてみる者もいる。
「仕入先に問い合わせてみないとすぐにはお答えできませんわ。それに、こちらはとても稀少な代物なので結構値が張りますけれど……」
リエルはそう言ってじっと様子をうかがう。
(手に入りにくいと思うと手に入れたくなるのが令嬢の性なのよね)
ひとりの令嬢が慌てて声を上げた。
「おいくらでも構わないわ。わたくしに一枚作っていただけるかしら?」
「わたくしもぜひお願いしたいわ」
「いくらでも積むわ。最高のものを作ってちょうだい」
「わたくしはみんなと違うデザインがいいわ」
リエルはにっこりと微笑んだ。
「それでは今後はナグレタ衣装店を通していただけるとありがたいですわ」
グレンがうまく話をまわして令嬢たちが集まる機会を設けてくれたのだった。
リエルはこの場で初対面の令嬢たちに挨拶をした。
「みなさま、はじめまして。ザスター男爵家のカイルさまに紹介をしていただきましたリエル・カーレンと申します」
令嬢たちはリエルをめずらしそうに見つめた。
一瞬だけ微妙な空気に包まれたが、伯爵令嬢がその場を取り繕う。
「カーレン令嬢はディアナ王国から来られたそうですよ。帝国の経済や文化を学ぶためなのですって。今はザスター商会で働いていらっしゃるそうよ」
それを聞いた令嬢たちは戸惑いを見せた。
「まあ、令嬢がお仕事をするなんて」
「カーレン令嬢は好奇心旺盛なお方なのね」
彼女たちは複雑な表情で微妙な反応をする。
しかし、これはリエルの想定内である。
ここから彼女たちを完璧に味方につける策を練っていた。
リエルは冷静に令嬢たちの疑問に答えていく。
「私の育った国では令嬢たちも自分で刺繍したハンカチやストールなどを売ってお小遣いを稼いだりするのですよ」
「まあ、そうですの?」
「その延長だと思って楽しんでおります」
リエルはにっこり笑って、あくまで商売心を表に出さないようにする。
すると、ひとりの令嬢が興味深そうに訊ねてきた。
「ちなみにザスター商会では何を売りにしていらっしゃるのかしら?」
リエルは口もとに笑みを浮かべた。
(その言葉を待っていたわ)
リエルはさりげなく準備していたストールを広げて令嬢たちに見せる。
「あら、ずいぶんと薄いストールですこと」
「まあ、それではこの冬には身につけられませんわね」
令嬢たちはクスクスと笑う。
「やはり羊毛には敵いませんわよ」
「ドグラ商会の羊毛製品は本当に暖かいですものね」
この冷やかしもリエルは想定していたので、落ち着いて答える。
「こちらはカリス山地にしか存在しない山羊から作られたものです。どうぞ触って確かめてみてください」
リエルがストールを渡すと、令嬢たち疑心暗鬼に触ってみた。
しかし、彼女たちはすぐに驚いた顔をした。
「まあ、軽くてふわふわだわ」
「それに羊毛と同じくらい暖かいわよ」
「触り心地も最高ね。この冬のパーティで身につけたいわ」
「これ、デザインもオーダーメイドでできるかしら?」
令嬢たちの雰囲気が一気に変わった。
わざわざストールを肩にかけて首に巻きつけてみる者もいる。
「仕入先に問い合わせてみないとすぐにはお答えできませんわ。それに、こちらはとても稀少な代物なので結構値が張りますけれど……」
リエルはそう言ってじっと様子をうかがう。
(手に入りにくいと思うと手に入れたくなるのが令嬢の性なのよね)
ひとりの令嬢が慌てて声を上げた。
「おいくらでも構わないわ。わたくしに一枚作っていただけるかしら?」
「わたくしもぜひお願いしたいわ」
「いくらでも積むわ。最高のものを作ってちょうだい」
「わたくしはみんなと違うデザインがいいわ」
リエルはにっこりと微笑んだ。
「それでは今後はナグレタ衣装店を通していただけるとありがたいですわ」
2,579
お気に入りに追加
5,348
あなたにおすすめの小説
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
初恋の幼馴染に再会しましたが、嫌われてしまったようなので、恋心を魔法で封印しようと思います【完結】
皇 翼
恋愛
「昔からそうだ。……お前を見ているとイライラする。俺はそんなお前が……嫌いだ」
幼馴染で私の初恋の彼――ゼルク=ディートヘルムから放たれたその言葉。元々彼から好かれているなんていう希望は捨てていたはずなのに、自分は彼の隣に居続けることが出来ないと分かっていた筈なのに、その言葉にこれ以上ない程の衝撃を受けている自分がいることに驚いた。
「な、によ……それ」
声が自然と震えるのが分かる。目頭も火が出そうなくらいに熱くて、今にも泣き出してしまいそうだ。でも絶対に泣きたくなんてない。それは私の意地もあるし、なによりもここで泣いたら、自分が今まで貫いてきたものが崩れてしまいそうで……。だから言ってしまった。
「私だって貴方なんて、――――嫌いよ。大っ嫌い」
******
以前この作品を書いていましたが、更新しない内に展開が自分で納得できなくなったため、大幅に内容を変えています。
タイトルの回収までは時間がかかります。
奪われたものは、もう返さなくていいです
gacchi
恋愛
幼い頃、母親が公爵の後妻となったことで公爵令嬢となったクラリス。正式な養女とはいえ、先妻の娘である義姉のジュディットとは立場が違うことは理解していた。そのため、言われるがままにジュディットのわがままを叶えていたが、学園に入学するようになって本当にこれが正しいのか悩み始めていた。そして、その頃、双子である第一王子アレクシスと第二王子ラファエルの妃選びが始まる。どちらが王太子になるかは、その妃次第と言われていたが……
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに
hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。
二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる