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あたしを誰だと思っているの?【ノエラ】
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その頃、ノエラは妃教育を受けていた。
専属の講師がついてノエラに王国の歴史について語っている。
しかしノエラは本を開いたまま、さっぱり理解できずにぼんやりしていた。
(ああ、退屈だわ。殿下が会いに来てくれないかしら?)
心ここにあらずといったノエラの様子に講師が眉をひそめた。
「聞いていらっしゃいますか? ノエラさま」
「え? ああ、そうね……何だったかしら?」
講師は呆れ顔でため息をついた。
「もうすぐ結婚式です。正式な妃となれば多くの貴族や外国からの賓客をもてなすことになります。王太子妃ともあろうお方が自国の歴史さえ語れないのは王太子殿下の面目が立ちません」
ノエラはうんざりした顔で講師を睨む。
「もう、またその話? わかっているわよ。だいたい歴史なんて学院時代に習ったわ」
「それにしてはあまりに知識量がリエルさまと格段に違っ……」
その瞬間、ノエラは思いきり講師に歴史本を投げつけた。
そして、怒りの形相で怒鳴りつける。
「あたしの前でその名を口にしないでちょうだい」
「失礼いたしました」
講師は深々と頭を下げる。
「もういいわ。あなたは出ていって」
「し、しかし……」
「侍女を呼んでちょうだい。今あたしに必要なのは歴史の勉強ではなくドレスや宝石選びなのよ!」
「……さようでございますか。では失礼いたします」
講師は諦めたように冷めた表情で出ていった。
ノエラはやっと解放されたと伸びをして、ソファにだらしなく横になった。
そして、そばにいる侍女に命じる。
「頭を使って疲れちゃったわ。甘いお菓子を持ってきなさい」
「かしこまりました。すぐに用意させます」
しばらくして目の前のテーブルにずらりと高級デザートが並んだ。
数種類のケーキとマカロンにチョコレート、プディングなどさまざまな菓子だ。
ノエラはそれらを見て目を輝かせながら、次々と口に入れた。
「ああ、この瞬間が最高に幸せだわ」
今まではアランの愛人という立場で使用人に命令もできず気を使ってきたが、これからは妃として堂々と命令できる。
最高の立場を手に入れたのだ。
「そこのあなた、食べたあとはお昼寝するからベッドを整えておいて」
ノエラが指を差して命令すると、使用人がすぐさま頭を下げた。
「かしこまりました」
ちょうどそのとき、がちゃりとドアが開いてアランが入室した。
ケーキを食べていたノエラはぱっと明るい表情で跳び上がる。
「殿下、お待ちしておりましたわ!」
「ノエラ、今日の調子はどうだい?」
「勉強で頭を使いすぎてしまったので甘いものを補給していたのですわ」
「そうか。たくさん食べるといい。足りなければ追加で持って来させよう」
アランはノエラのとなりに座って彼女の肩を抱いた。
侍女は複雑な表情でふたりを見つめながら何も言わずに立っている。
「それよりもあたくし、疲れて眠くなってしまいましたの。殿下、添い寝してくださる?」
ノエラはアランにくっついて、きゅるんっと上目遣いで見つめる。
アランは笑みを浮かべながらノエラを抱きしめた。
「まったく。仕方がないな。俺は忙しいが、君の頼みだ。少しなら付き合ってやろう」
「殿下は本当にお優しいですわ!」
侍女も使用人たちもその様子を見てドン引きしていた。
専属の講師がついてノエラに王国の歴史について語っている。
しかしノエラは本を開いたまま、さっぱり理解できずにぼんやりしていた。
(ああ、退屈だわ。殿下が会いに来てくれないかしら?)
心ここにあらずといったノエラの様子に講師が眉をひそめた。
「聞いていらっしゃいますか? ノエラさま」
「え? ああ、そうね……何だったかしら?」
講師は呆れ顔でため息をついた。
「もうすぐ結婚式です。正式な妃となれば多くの貴族や外国からの賓客をもてなすことになります。王太子妃ともあろうお方が自国の歴史さえ語れないのは王太子殿下の面目が立ちません」
ノエラはうんざりした顔で講師を睨む。
「もう、またその話? わかっているわよ。だいたい歴史なんて学院時代に習ったわ」
「それにしてはあまりに知識量がリエルさまと格段に違っ……」
その瞬間、ノエラは思いきり講師に歴史本を投げつけた。
そして、怒りの形相で怒鳴りつける。
「あたしの前でその名を口にしないでちょうだい」
「失礼いたしました」
講師は深々と頭を下げる。
「もういいわ。あなたは出ていって」
「し、しかし……」
「侍女を呼んでちょうだい。今あたしに必要なのは歴史の勉強ではなくドレスや宝石選びなのよ!」
「……さようでございますか。では失礼いたします」
講師は諦めたように冷めた表情で出ていった。
ノエラはやっと解放されたと伸びをして、ソファにだらしなく横になった。
そして、そばにいる侍女に命じる。
「頭を使って疲れちゃったわ。甘いお菓子を持ってきなさい」
「かしこまりました。すぐに用意させます」
しばらくして目の前のテーブルにずらりと高級デザートが並んだ。
数種類のケーキとマカロンにチョコレート、プディングなどさまざまな菓子だ。
ノエラはそれらを見て目を輝かせながら、次々と口に入れた。
「ああ、この瞬間が最高に幸せだわ」
今まではアランの愛人という立場で使用人に命令もできず気を使ってきたが、これからは妃として堂々と命令できる。
最高の立場を手に入れたのだ。
「そこのあなた、食べたあとはお昼寝するからベッドを整えておいて」
ノエラが指を差して命令すると、使用人がすぐさま頭を下げた。
「かしこまりました」
ちょうどそのとき、がちゃりとドアが開いてアランが入室した。
ケーキを食べていたノエラはぱっと明るい表情で跳び上がる。
「殿下、お待ちしておりましたわ!」
「ノエラ、今日の調子はどうだい?」
「勉強で頭を使いすぎてしまったので甘いものを補給していたのですわ」
「そうか。たくさん食べるといい。足りなければ追加で持って来させよう」
アランはノエラのとなりに座って彼女の肩を抱いた。
侍女は複雑な表情でふたりを見つめながら何も言わずに立っている。
「それよりもあたくし、疲れて眠くなってしまいましたの。殿下、添い寝してくださる?」
ノエラはアランにくっついて、きゅるんっと上目遣いで見つめる。
アランは笑みを浮かべながらノエラを抱きしめた。
「まったく。仕方がないな。俺は忙しいが、君の頼みだ。少しなら付き合ってやろう」
「殿下は本当にお優しいですわ!」
侍女も使用人たちもその様子を見てドン引きしていた。
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