57 / 110
あたしを誰だと思っているの?【ノエラ】
しおりを挟む
その頃、ノエラは妃教育を受けていた。
専属の講師がついてノエラに王国の歴史について語っている。
しかしノエラは本を開いたまま、さっぱり理解できずにぼんやりしていた。
(ああ、退屈だわ。殿下が会いに来てくれないかしら?)
心ここにあらずといったノエラの様子に講師が眉をひそめた。
「聞いていらっしゃいますか? ノエラさま」
「え? ああ、そうね……何だったかしら?」
講師は呆れ顔でため息をついた。
「もうすぐ結婚式です。正式な妃となれば多くの貴族や外国からの賓客をもてなすことになります。王太子妃ともあろうお方が自国の歴史さえ語れないのは王太子殿下の面目が立ちません」
ノエラはうんざりした顔で講師を睨む。
「もう、またその話? わかっているわよ。だいたい歴史なんて学院時代に習ったわ」
「それにしてはあまりに知識量がリエルさまと格段に違っ……」
その瞬間、ノエラは思いきり講師に歴史本を投げつけた。
そして、怒りの形相で怒鳴りつける。
「あたしの前でその名を口にしないでちょうだい」
「失礼いたしました」
講師は深々と頭を下げる。
「もういいわ。あなたは出ていって」
「し、しかし……」
「侍女を呼んでちょうだい。今あたしに必要なのは歴史の勉強ではなくドレスや宝石選びなのよ!」
「……さようでございますか。では失礼いたします」
講師は諦めたように冷めた表情で出ていった。
ノエラはやっと解放されたと伸びをして、ソファにだらしなく横になった。
そして、そばにいる侍女に命じる。
「頭を使って疲れちゃったわ。甘いお菓子を持ってきなさい」
「かしこまりました。すぐに用意させます」
しばらくして目の前のテーブルにずらりと高級デザートが並んだ。
数種類のケーキとマカロンにチョコレート、プディングなどさまざまな菓子だ。
ノエラはそれらを見て目を輝かせながら、次々と口に入れた。
「ああ、この瞬間が最高に幸せだわ」
今まではアランの愛人という立場で使用人に命令もできず気を使ってきたが、これからは妃として堂々と命令できる。
最高の立場を手に入れたのだ。
「そこのあなた、食べたあとはお昼寝するからベッドを整えておいて」
ノエラが指を差して命令すると、使用人がすぐさま頭を下げた。
「かしこまりました」
ちょうどそのとき、がちゃりとドアが開いてアランが入室した。
ケーキを食べていたノエラはぱっと明るい表情で跳び上がる。
「殿下、お待ちしておりましたわ!」
「ノエラ、今日の調子はどうだい?」
「勉強で頭を使いすぎてしまったので甘いものを補給していたのですわ」
「そうか。たくさん食べるといい。足りなければ追加で持って来させよう」
アランはノエラのとなりに座って彼女の肩を抱いた。
侍女は複雑な表情でふたりを見つめながら何も言わずに立っている。
「それよりもあたくし、疲れて眠くなってしまいましたの。殿下、添い寝してくださる?」
ノエラはアランにくっついて、きゅるんっと上目遣いで見つめる。
アランは笑みを浮かべながらノエラを抱きしめた。
「まったく。仕方がないな。俺は忙しいが、君の頼みだ。少しなら付き合ってやろう」
「殿下は本当にお優しいですわ!」
侍女も使用人たちもその様子を見てドン引きしていた。
専属の講師がついてノエラに王国の歴史について語っている。
しかしノエラは本を開いたまま、さっぱり理解できずにぼんやりしていた。
(ああ、退屈だわ。殿下が会いに来てくれないかしら?)
心ここにあらずといったノエラの様子に講師が眉をひそめた。
「聞いていらっしゃいますか? ノエラさま」
「え? ああ、そうね……何だったかしら?」
講師は呆れ顔でため息をついた。
「もうすぐ結婚式です。正式な妃となれば多くの貴族や外国からの賓客をもてなすことになります。王太子妃ともあろうお方が自国の歴史さえ語れないのは王太子殿下の面目が立ちません」
ノエラはうんざりした顔で講師を睨む。
「もう、またその話? わかっているわよ。だいたい歴史なんて学院時代に習ったわ」
「それにしてはあまりに知識量がリエルさまと格段に違っ……」
その瞬間、ノエラは思いきり講師に歴史本を投げつけた。
そして、怒りの形相で怒鳴りつける。
「あたしの前でその名を口にしないでちょうだい」
「失礼いたしました」
講師は深々と頭を下げる。
「もういいわ。あなたは出ていって」
「し、しかし……」
「侍女を呼んでちょうだい。今あたしに必要なのは歴史の勉強ではなくドレスや宝石選びなのよ!」
「……さようでございますか。では失礼いたします」
講師は諦めたように冷めた表情で出ていった。
ノエラはやっと解放されたと伸びをして、ソファにだらしなく横になった。
そして、そばにいる侍女に命じる。
「頭を使って疲れちゃったわ。甘いお菓子を持ってきなさい」
「かしこまりました。すぐに用意させます」
しばらくして目の前のテーブルにずらりと高級デザートが並んだ。
数種類のケーキとマカロンにチョコレート、プディングなどさまざまな菓子だ。
ノエラはそれらを見て目を輝かせながら、次々と口に入れた。
「ああ、この瞬間が最高に幸せだわ」
今まではアランの愛人という立場で使用人に命令もできず気を使ってきたが、これからは妃として堂々と命令できる。
最高の立場を手に入れたのだ。
「そこのあなた、食べたあとはお昼寝するからベッドを整えておいて」
ノエラが指を差して命令すると、使用人がすぐさま頭を下げた。
「かしこまりました」
ちょうどそのとき、がちゃりとドアが開いてアランが入室した。
ケーキを食べていたノエラはぱっと明るい表情で跳び上がる。
「殿下、お待ちしておりましたわ!」
「ノエラ、今日の調子はどうだい?」
「勉強で頭を使いすぎてしまったので甘いものを補給していたのですわ」
「そうか。たくさん食べるといい。足りなければ追加で持って来させよう」
アランはノエラのとなりに座って彼女の肩を抱いた。
侍女は複雑な表情でふたりを見つめながら何も言わずに立っている。
「それよりもあたくし、疲れて眠くなってしまいましたの。殿下、添い寝してくださる?」
ノエラはアランにくっついて、きゅるんっと上目遣いで見つめる。
アランは笑みを浮かべながらノエラを抱きしめた。
「まったく。仕方がないな。俺は忙しいが、君の頼みだ。少しなら付き合ってやろう」
「殿下は本当にお優しいですわ!」
侍女も使用人たちもその様子を見てドン引きしていた。
2,375
お気に入りに追加
5,409
あなたにおすすめの小説

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

【完結】愛されない令嬢は全てを諦めた
ツカノ
恋愛
繰り返し夢を見る。それは男爵令嬢と真実の愛を見つけた婚約者に婚約破棄された挙げ句に処刑される夢。
夢を見る度に、婚約者との顔合わせの当日に巻き戻ってしまう。
令嬢が諦めの境地に至った時、いつもとは違う展開になったのだった。
三話完結予定。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる