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生きるための仕事

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「さあ、リエルさま。本日はどのお洋服になさいますか?」
「お化粧ならわたくしにお任せくださいませ」
「そのあいだに肩のマッサージをさせていただきますね」

 朝から使用人たちがリエルの部屋へ押しかけてきて世話を始めた。
 てきぱきと動く使用人たちをエマは離れたところで見つめている。

「私の仕事が……」

 本来リエルの身のまわりの世話は自分の役割なのに、とエマはぶつぶつぼやいた。
 リエルは彼女たちのあまりの気合いの入れように、少々困惑していた。

「少し出かけるだけだから、そんなに気合いを入れる必要はないわ」
「いいえ! 殿下の婚約者ですもの。きちんと着飾っておかなければなりません!」

 ここの使用人たちはよそ者のリエルを特別扱いしてくれるが、あまりに距離が近い。
 今まで実家の使用人にさえ距離を置かれていたリエルにとって、この待遇は戸惑うことばかりだった。

 それに、今日はあまり綺麗にしておく必要はない。
 ひらりとしたロングスカートを身につけたリエルは軽いため息をついた。

(困ったわ。今日は町に仕事と家を探しに行くつもりだったのに。貴族の格好をしていたら相手にしてもらえないじゃない)

「殿下にこんな素敵な恋人がいらっしゃったなんて、知りませんでしたわ」
「本当に。なかなかお相手を見つけられないので、みんな心配しておりましたのよ」

 使用人たちは嬉々として話す。

(偽物だなんて言えないわ)

 リエルは笑顔のまま複雑な気分になった。

(それにしても、ここの人たちはずいぶんと親切なのね。アランのいる王宮とは大違いだわ)

 全員笑顔で対応してくれるし、グレンの評判もいいようだ。
 身支度ができて出かけようとしていると、グレンが現れた。

「準備できた?」
「まあ、殿下。見てください。美しいお嬢さまでございます」

 グレンはばっちり着飾ったリエルを見て感心する。

「うん、すごくいいね。綺麗だ」

 リエルは頬を赤らめて複雑な表情で話す。

「あの、私これから町へ行くのよ」
「だから迎えに来たんだよ」
「仕事を探そうと思っているの」
「もう見つけてある」
「え?」
「君に適任の仕事だ」

 リエルとエマはグレンに連れられて街へ出かけることになった。

 アストレア帝国の都はディアナ王国よりはるかに広大で街も発展しており、人々も多く賑やかだ。
 リエルとグレンとエマの3人を乗せた馬車は地味で目立たないような造りになっている。
 グレンは初めて出会ったときのように頭からすっぽりフードを被っていた。

 馬車で向かった先は郊外の大きな石造りの建物だった。
 1階は多くの人が行き来している。

「ここは?」
「商人ギルドの本部だ。まずはここで君の名前を登録しておく。そうしなければ商売に手を出せないから。登録しておくと有益な情報も手に入るしね」

 リエルは管理者が差し出した名簿にサインをした。
 すると、管理者は眉をひそめながらリエルをじろじろ見た。

「貴族? しかも女かよ」
「何か問題でも?」
「いや別に」

 管理者はリエルをじろりと睨み、そのあとにやってきた男に対しては愛想笑いをしながらへこへこ頭を下げた。
 それを見ていたエマは憤慨した。

「感じ悪ーい!」
「そんなものよ」

 リエルは真顔でぼやいた。

 3人はふたたび町の郊外まで馬車で移動した。

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