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もう実家には戻りません

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 その頃、リエルの実家であるカーレン侯爵家では、両親が応接室で愚痴を言い合っていた。
 そんな中、息子のセビーはソファに座って静かに本を読んでいる。

「ああ、どうしたらいいんだ。もうカーレン家はおしまいだ」

 頭を抱えている父に対し、継母はあれこれと策を練っているようだ。

「こうなったらリエルを連れ戻して……」
「連れ戻してどうすると言うのだ? アラン殿下はリエルを追放したんだぞ!」

 父の怒号に継母は返す言葉がなく唇を噛んだ。
 セビーは黙って本のページをぱらりとめくる。

「このままではいつ私たちもこの国を追い出されるかわからない」
「そんな……! わたくしたちが今まで王室に貢献してきたことがすべて無駄になってしまうわ!」
「そんなことを言っている場合ではないだろう! カーレン家の存続の危機だぞ!」
「わかっているけれど……ああ、どうしたらいいの?」

 苦悩する両親を横目に見て、セビーはぱたんと本を閉じた。
 そして彼は淡々と両親に告げる。

「今まで通りにしていればいいのでは?」

 両親は同時に「は?」と声を上げてセビーを見た。

「どうせ何をやっても起こったことはくつがえりませんから。お父さまとお母さまは今まで通り暮らしていればいいのです」

 セビーの言葉に父は呆れ顔でため息をついた。

「そうは言うけどな。ああ、お前はまだ子供だから理解できないのだろうな。事の重大さが」
「あなた、セビーをバカにしないでちょうだい。ああ、賢いわたくしのセビー、何か手はないかしら?」

 セビーは少々強く言い返す。

「ですから、お父さまとお母さまはおとなしくしててください」

 息子にぴしゃりと言われて両親は黙り込んだ。

 セビーはソファから立ち上がり、本を抱えて部屋を出ていく。
 そして、ドアを開ける前に振り返ってふたりに告げる。

「僕はアストレア帝国に留学しようと思っています」

 両親は驚愕し、慌て出した。

「な、何? そんなことは許さんぞ。あの国の皇太子はリエルを奪ったのだからな!」
「そうよ! あんな非常識で迷惑な皇太子の国になんか行くものじゃないわ!」

 セビーは深いため息をついた。

「少し落ち着いてください」

 セビーは冷静に両親を説得する。

「帝国にはこの国にない技術がたくさんあります。僕はそれを学んでこの国とこの家に貢献しようと思っているのです」

 両親が「え?」という顔をする。

「それに、よく考えてみてくださいよ。お姉さまは帝国の皇太子殿下に見初められたんですよ? まだまだ弱小のこの国ではなく、すべてにおいて格上の帝国にです」

 ハッと気づいた継母がにんまりと笑った。

「そうよね。リエルは将来アストレア帝国の皇妃になるのだわ。そうすればわたくしは皇妃の母となるのよ」

 目をキラキラさせる継母と違い、父は狼狽えている。

「だが、今は肩身が狭い。カーレン家は裏切り者だと社交界で噂されるだろう」
「そんな一時的なことで悩むなんて器が小さいですわよ」
「何?」

 継母はけろりとした顔で息子に甘えるような声を発した。

「セビー、わたくしもあなたの留学について行くわ」
「結構です。ひとりで行きますので」

 セビーは冷たく返し、勢いよくドアを閉めて出ていった。
 
「まあ、セビーったら。反抗期かしらね」

 呆気にとられて残念そうに肩を落とす継母の横で父はいまだ苦悩していた。

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