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追放されたので出ていきます

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 リエルは生まれ育ったディアナ王国を出て、エマとともに馬車に乗り、アストレア帝国を目指していた。
 その心情は穏やかだったが、対するエマはそわそわしていた。

「まさかアストレア帝国へ行くことになるなんて思いもしませんでした」
「そうね」
「ていうか、まさか本当に皇太子殿下に口説かれるなんて、もうびっくりですよ!」
「……そうね」

 リエルはそっけない返事をした。
 
「いつの間におふたりはそんなことに? 私に教えてくれてもいいじゃないですか!」

 興奮ぎみに身を乗り出すエマに、リエルは冷静に返す。

「一応伝えておくけれど、私たちは恋人でも何でもないわ。ただ、お互いの都合で恋人のふりをしているだけよ」
「え? どういうことですか?」

 きょとんとするエマに、リエルは事の経緯を説明した。

 ――――
 ―――――――

 パーティの3日前。
 グレンがリエルの部屋へ侵入し、この計画を提案してきたときのことだ。
 彼はひとつだけ願いを聞いてほしいと言った。

「あなたの恋人になれですって?」
「一時的なものでいい。そうすれば君は俺を利用することができる。そして俺も君のおかげで父を黙らせることができる」
「……それって、縁談話を避けるため?」
「察しがいいな。その通りだ」

 リエルはとなりに座るグレンを半眼で睨みつけた。

「遊び人の男がよくやるやり口よ。貴族のあいだではめずらしくないわ」
「真実を言えば、俺は女遊びはしていない」

 グレンは真面目な顔でそう言った。
 リエルは半眼のままじっと見つめている。

「ほんとだって。そんな暇ないよ」

 慌てるグレンを見て、リエルは少しおかしくなり笑いを洩らした。

「いいわ。私の助けになってくれるのだから、恋人のふりくらいするわ」
「そうか。じゃあ、よろしく」
「ええ。一応、当日のために話を合わせておく必要があるわね。恋人としてあなたのことをある程度知っておいたほうがいいと思うから」
「そんなもの、いくらでも教えてやるよ」

 グレンは笑みを浮かべながら、ごく自然にリエルの手を握った。

 だが、リエルはその手をさっと振り払った。
 そして抗議する。

「触っていいとは言っていないわ」
「恋人なのに?」
「偽物よ。ふりなんだから」
「困ったな。距離があると恋人には見えないんだけど」

 グレンはわざとらしく眉をへの字に曲げて困惑の表情をする。
 リエルは顔を引きつらせて、嘆息した。

「わ、わかったわ……少し、くらいなら」

 それを聞いたグレンはぱあっと明るい表情に戻った。

「じゃあ、ハグくらいはしようか」
「……場合によっては」
「ついでにキスの練習もしとく?」
「バカ!」

 ―――――――
 ――――


 馬車に揺られながら、リエルは顔を真っ赤に染めた。
 額に手を当ててうつむく。

「リエルさま、どうかしたんですか?」

 エマはきょとんとした顔で首を傾げる。

(アランと言い、グレンと言い……)

 リエルはキスをしようとしたグレンの顔を思い出し、羞恥のあまり唸った。

「ほんとに男ってバカばっかり」
「え?」
「何でもないわ」

 快晴の中、馬車は森の中を走り抜けていった。

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